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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第28話 シェスの縫い物

 三人が眠りに入ってしばらくたってから、そろそろ寝るか、と俺は寝袋に入った。

 と、対角にいる三人の方からがさごそと音がした。誰かの目が覚めたようだ。

 顔を上げてみれば、シェスが体を起こしている。

 シェスは俺が起きているのに気づくと、二人を起こさないように寝袋を抜け出して、側までやってきた。

「なんだよ、トイレか? それとも夜這(よば)いか?」

「よばっ!? そんなこと、いたしませんわっ!」

 シェスが真っ赤になって反論してくる。器用にこそこそした声で。

 ちょっとした冗談だろ。真に受けるなよ。

「で、なんだ?」

「クロトさんとお話がしたくて。よろしいですか?」

「少しなら構わんが……」

 俺は横座りをしているシェスの腹を見た。

「その前に、その服、どうにかならんのか?」

 ずっと気になっていた。

 シェスは第五階層のゴブリンロードに腹を(つらぬ)かれた。

 その傷はポーションで綺麗に治っているのだが、服は破れたままだ。横に大きく裂けた所からヘソが見えていて、元は白かった服が血で汚れているのもあって、白い肌がまぶしい。

 職業柄、服が破れて……というアクシデントは何度も経験しているが、慣れるものではない。

 もっと上じゃなくて本当よかったなと思う。いやマジで思っている。さすがに心臓に刺さっていたら、ポーションごときじゃどうにもならないからな。

「あ……っ」

 シェスは両手でお腹を押さえてまた赤くなった。

 いま気づいたのかよ。

()うなり何か巻くなりしろ」

「ぜひそうしたい所ですが、そういった物は持ってきていません」

「仕方ねぇなぁ」

 俺は横のリュックからソーイングセットを取り出して、シェスに渡した。

「縫い物くらいできるよな?」

 箱入りのようなので心配だ。

「できますわ。刺繍(ししゅう)もしていました」

 なるほどな。刺繍ときたか。生計を立てるためではなくて、完全な趣味なのだろう。お嬢様はさすがだ。

「はさみがありません。剣を貸して頂けませんか?」

「こうやるんだよ」

 糸を手に取って、ぶちん、と犬歯で切ると、驚いたような顔をされた。

 そんなんじゃダンジョンではやっていけないぞ。使える物はなんでも使え。歯でも爪でも。

 シェスは着たまま布を引っ張りながら、丁寧に切れ目を縫っていった。

 自分で言うように 縫い物は慣れているようで、綺麗につなぎ合わされる。

 俺はくっついてりゃいいって思うだけだからなぁ。

 最後にまた糸を切らなくてはならなくなって、俺は剣を貸してやった。俺が歯で切ろうとすると、シェスの体に顔を密着させることになる。

「できました」

 これで意識して視線を向けないようにしなくて済む。

「で、話っていうのは?」

「わたくし、クロトさんにお礼が言いたくて」

「何の礼だよ? その傷のポーション代はもらうから気にしなくていいぞ」

「それもなのですけれど、わたくしに攻撃魔法を使えと言って下さったことにも感謝しています」

 お前もか。

「わたしくは、幼い頃から黒魔法を禁止されていて、それで……」

 シェスは目を伏せた。

 なるほどな。大体理解した。

「ティアさんが攻撃魔法を使うのに甘えて、ずっと使ってきませんでした。ダンジョンを()めていると言われて、その通りだと思いました」

「ティアが近接なら、お前が遠距離攻撃できた方がいいからな」

「はい。戦い方を変えてから、わたくしたちは前よりも強くなれたと思います」

 力強くうなずきながら、シェスはきっぱりと言った。

「そうだな。今の構成のほうがバランスがいい。お前も白黒両方使えて戦略の幅が広がっているしな」

「本当にありがとうございました」

 シェスが深々と頭を下げてきて、むずがゆくなる。

 俺は単に三人を見ていてイライラしていたのと、このままでは踏破が怪しいと思ったからだ。礼を言われる筋合いはない。

「話っていうのはそれだけか?」

「はい。お礼を言いたかっただけです」

「じゃあさっさと寝ろ。俺は眠い」

 しっしっと追い返すように手を振る。

「お邪魔いたしました。明日からもよろしくお願いします」

 もう一度頭を下げてから、シェスは寝袋へと戻っていった。

 次の日。

 いつも通り日課のトレーニングを終えて休憩部屋に戻ってくると、三人は朝食を食べていた。

「おかえりなさいませ」

「お、おう」

 シェスに言われて戸惑う。今までは言われたことがないからだ。

 なんとも居心地の悪い思いをしながら、俺も朝食にする。

「あんた、毎朝一人でここ出てってるけど、大丈夫なの? モンスターが来たらどうするのよ」

「このくらいのレベルのモンスターなら問題ない」

「……強い」

「さすがクロトさんですね」

 ティアとシェスは素直にうなずいた。

「ふん、第十階層踏破者(シルバー)様はお強いことですね。あたしたちだって、もうすぐ第十階層踏破者(シルバー)になるんだからね!」

中級者シルバーもピンからキリまでいるぞ」

 同じ称号を持っていてもその実力は様々。第十階層をパーティを組んでギリギリ突破するのと、最後のボスこそ倒せないでいても、一人で第二十階層のボス部屋まで行けるのとは大違いだ。

「わかってるわよっ!」

 レナはむっと口をとがらせた。

 第九階層の休憩部屋を出た俺たちは、第十階層の序盤にいたアラクネを避けて時間目いっぱい攻略を進め、また第九階層の休憩部屋に戻って休んだ。

 俺の第十階層の休憩部屋はボス部屋のすぐ近くにあるんだが、そこまではたどり着けなかったからだ。

 第五階層同様、ボス戦前にすぐ側で休めるのだから悪くない構造なのだが、一気に行けないパーティだとやはり不便だな。

 ま、こうやって初級者(ブロンズ)を相手するのも今回限りだ。

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