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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第27話 アラクネ

 そして進んだ三つ目の部屋の前で、通路から部屋の中を(うかが)っていたレナが、部屋の一角を指差した。

「ねぇ、あれだけなんか雰囲気違うんだけど」

 スケルトンとゴーレムと共にそこにいたのは、上半身が裸の女。おっと思うような体つきをしているが、残念ながらその下半身は蜘蛛(くも)だ。

 顔も整ってはいるのだが、瞳孔(どうこう)のない真っ白な目をしていて、何の情動も湧き起こってこない。

 どんなに形はよくともモンスターはモンスター。そういう対象に見ることはない。

「あれってもしかして第十一階層のモンスターじゃ――」

 言いながら振り向いたレナの目つきが、じとっとしたものに変わった。

「うわー。あんた、ああいうのがいいの」

「なんでだよ!?」

「だって鼻の下伸ばして()めまわすように見てるじゃない」

「そんなことはない」

「あるわ!」

「ない!」

「……見てた」

 ティアもレナと同じ目で見上げてきていた。

 お前ら……。

「あら、わたくしは偏見はありませんわよ。男性でしたら仕方がないのではありませんか?」

 シェスが顔に手を当てて、親が子どもを見るような目をした。

 お前は箱入りじゃなかったのか!?

「だから(ちげ)ぇって!」

 思いっきり否定する。

 中にはそういう趣味の奴もいると聞くが、俺は違う。たとえ他のダンジョンにいるという淫魔(サキュバス)相手だとしても……ああ、まあ、たぶん、何ともない……はずだ。

「ふーん……」

「――んなことはどうでもいいんだよ!」

 レナが腕を組み、意味ありげな声を出したので、俺は話を変えた。

「あれはアラクネだ。第十一階層に出るモンスター」

「また下の階のモンスター? こういうのって、そんなにしょっちゅうあるものなの?」

「いや、そうでもない。特にボスを越えてってのは珍しい。お前ら、ラッキーだな」

「……嬉しくない」

「あんたのフロアでしょ? あんたのせいじゃないの?」

 俺は肩をすくめた。

 自分のフロアにも他人のフロアにも数え切れないほど潜っているが、一度の挑戦で二体も出るなんてことは滅多にない。というか、俺もまだ三回しか経験していない。

 だから引き当てたとしたら、俺ではなくこいつらだ。

「で、攻略方法は?」

 先ほどとは一転、レナが真剣な顔を向けてきた。

 さすがにこれを自分たちで手探りしろとは言えないか。契約した第十階層までには本来なら遭遇(エンカウント)する相手じゃないからな。

「本体は蜘蛛の方で、魔法に弱い。粘着性のある糸を吐き出してきて、当たると絡まって厄介だ。お前らの力では糸を引っ張って千切るのは無理だ。剣で切れ。火にも弱い。人型部分は魔法攻撃をしてきて物理に弱いんだが、蜘蛛部分に魔法耐性もかけてくる。糸と魔法を(くぐ)り抜けつつ近接戦で先に上半身を潰し、その後に魔法で下半身を潰すのがセオリーだ」

 俺が説明するのを、三人はうんうんとうなずきながら聞いていた。

「近接戦で上半身を潰してから、魔法で下半身を攻撃ね。問題は、粘着糸と魔法をどうやってくぐり抜けるかってことよね。あんまり時間を食う訳にもいかないし」

「ここで戻って明日に回すか、先に倒して明日の(うれ)いを無くすか、ですわね。今戦うと睡眠時間が犠牲になりそうですが」

「睡眠時間を削るのはおすすめしない。明日のボス戦に響く。万全の態勢で(のぞ)めないなら、ダンジョンの攻略を諦めた方がマシだ」

 睡眠は全ての基本だ。気力も体力も魔力も回復する。睡眠が足りていないとベテランでもミスをする。

 どんなに急いでいてもそこだけは削っていけないのが、ダンジョン攻略での鉄則だった。

 明日倒すか今倒すかの他に、第三の選択肢もあるわけだが……。

 俺は案内はしないことになっているので、黙っていた。

「……無視する」

 地図を見ながらそう言ったのはティアだった。

 気づいたか。

 はっとレナが地図をのぞき込む。

「そうね……! 安全第一で全部屋回ることを考えていたけど、アラクネがレアなら、他にいる可能性は低いわ。この部屋を通らなくても、もう一つの方の部屋を通れば先に進めるから、ここだけ無視するのは有りかもしれない」

「アラクネを迂回(うかい)できるのならわたくしは賛成です。帰りに移動していたとしても、どうせ倒さなければならないのなら同じですわ。また迂回できるかもしれませんし」

「……賛成」

 そう。

 基本的に階層の深さとパーティの実力に余程の差がない限り、モンスターを全滅させるのが最も安全で、実は効率的な攻略方法だ。

 しかし、戦わないという選択肢もある。

 初心者は最初に覚えたことを絶対と思い込んで盲信するきらいがあるが、臨機応変さというのもダンジョン攻略には必要なのだ。

「じゃあ、反対側の部屋を片付けに行きましょう」

「レナさん、そろそろ戻った方がいいと思います」

「そう? まだ時間はあるわよ。あと一部屋くらいいけるんじゃない?」

 ぶんっと剣を振るレナに、シェスが首を振る。

「アラクネがぐるっと移動してきて、わたくしたちの背後から攻撃してくるという可能性もなくはありません。万が一、今の状態でそうなったら危険です。一度休んで、明日にするのがいいと思いますわ」

「……うん」

 ティアもシェスの意見に賛成する。

「確かにそうね……」

 レナがちらりと俺を見た。

 俺も今日は引き上げるべきだと考えていたので、小さくうなずいておく。

「わかったわ。明日にしましょう」

 三人の合意が取れて、俺たちは第九階層の休憩部屋まで戻った。

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