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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第20話 呪縛(シェス視点)

 レナさんをゴブリンロードの剣が襲うかと思われたその時、クロトさんが叫びました。

「ティア、身体強化!」

 詠唱をしながらこちらを見たティアさんは、戸惑いの表情を浮かべていました。

 ああ、駄目、だってティアさんは――。

「できるだろ。このまま殴られたらレナが死ぬぞ」

 ティアさんは逡巡(しゅんじゅん)の後、決心したようにうなずくと、タクトを捨てました。

 レナさんへと近づくゴブリンロードにタッと駆け寄ると、その姿がふっと消えました。

 かと思うと、鈍い音がして、ゴブリンロードの鎧の脇腹に、ティナさんの拳がめり込んでいました。

 ティアさんの体は服ごと青いオーラに覆われています。耳と尻尾の毛が逆立っていました。

 たまらずたたらを踏むゴブリンロード。

 ティアさんは今度は蹴りを放ちます。

 それはゴブリンロードの盾によって防がれます。

 構わずティアさんは空中で回転し、さらに(かかと)から回し蹴りを繰り出します。

 その時ようやくわたくしの魔法が完成し、レナさんを淡い光が包みました。

 痛そうに片目を閉じたレナさんが、頭を押さえながらよろよろと立ち上がりました。

「ティア!?」

 ティアさんがゴブリンロードと近接戦をしていることに驚きの声が上がります。

「お前は攻撃魔法だ。さくっと片付けろ」

 クロトさんが私に言いました。

「それはティアさんが……」

「何にこだわってるのか知らんが、お前は死にかけたんだぞ。んな余計なもんは捨てちまえ」

 目の前では、レナさんとティアさんが戦っています。

 防御一辺倒になったゴブリンロードでしたが、それでもお二人の攻撃は決定打に繋がりませんでした。二人で攻撃するスタイルは初めてで、連携がちぐはぐになっているのです。

 ぶんぶんと音を鳴らしながら力任せに振り回される剣に()されて攻めきれず、大きく分厚い盾は、レナさんの渾身(こんしん)の一撃もティアさんの素早い拳も、易々(やすやす)と防いでいました。

 それでも、時間をかければ倒せるでしょう。

 レナさん一人で戦いは拮抗(きっこう)していたのですから。ティアさんが加われば当然こちらの攻撃力がゴブリンロードに勝ります。

 わたくしがティアさんにも補助魔法をかければ、さらに確実に。

 それで十分なはずです。

 夫よりも一歩下がり、でしゃばることなく、慎み深く。攻撃魔法は野蛮(やばん)だ。一族に相応(ふさわ)しくない。使うことは許さない。

 幼い頃から刷り込まれた教えが、わたしを縛っています。反しようとすると、体が硬直して動かなくなるのです。

 わたくしは、ぐっと唇を噛み締めました。

 わたくしは――わたくしは、しがらみから抜け出すと決めたのです。

 杖を手に立ち上がりました。お腹の傷はすでに()えていました。

 早口で呪文を唱えます。

 実践では使わなくとも、一人隠れて練習だけはしていた魔法です。

「レナさん、ティアさん、下がって!」

 一瞬驚いた顔をしたお二人はしかし、わたくしの言葉に従ってゴブリンロードから離れました。

 ティアさん、ごめんなさい――。

 心の中で謝罪をして、杖の先をゴブリンロードに向けます。

 次の瞬間、わたくしが放った雷の鉄槌(てっつい)が、ゴブリンロードを縦に貫きました。

 ゴブリンロードの動きが止まります。

 それはほんのわずかな時間でしかありませんでしたが、レナさんとティアさんには十分でした。

 レナさんが足の間を駆け抜けるようにして、反対のふくらはぎに斬りつけます。

「……ふっ」

 同時に、短い息を吐いたティアさんがゴブリンロードの足元へと迫り、ふくらはぎに回し蹴りを放ちました。

 軸足を変え、さらに一発、二発。

 両足に攻撃を受けたゴブリンロードは、たまらず両ひざを床につきました。

 剣と盾が正面にいるティアさんを狙いますが、ティアさんはそれらを軽々と避けます。

 そうしてゴブリンロードの意識を引きつけている間に、背後にいたレナさんが身体強化の段階を上げました。

 そして、腰を落として大きく跳び上がります。

 その気配を察したゴブリンロードが、体をひねって防ごうと盾を構えますが、わたくしが放ったファイヤ・ボールが、その腕を弾きました。

「でやぁぁぁぁぁぁっ!」

 叫び声と共にレナさんが横に振った剣は――ゴブリンロードの首を見事落としました。

 ゴブリンロードはうつ伏せに倒れ、次の瞬間、離れた首と一緒に黒い霧となって消えました。

 レナさんとティアさんが、がくりと膝をつきます。

「レナさん! ティアさん!」

 わたくしは二人に駆け寄りました。

 お二人の息は荒く、かなり消耗しているようでしたが、怪我はありませんでした。

「シェスは大丈夫?」

「ええ、ポーションが効きました」

「……よかった」

 服は切り裂かれ、乾きつつある血でベタベタでしたが、お腹の傷はもうありません。痛みも全くありませんでした。

 後ろから、はぁ、とため息が聞こえてきました。クロトさんです。

「ったく。これがお前らの実力だろ? なんで自分たちの特性を生かさずにわざわざ制限してるんだよ。死にそうな目にあってまでやることか? お前らダンジョンをなめすぎだ」

「ティアとシェスは……っ! 何も知らないくせにっ!」

 レナさんが、ティアさんととわたくしを気遣うように見てから、クロトさんをにらみつけました。

「……クロトの言う通り」

「ええ、そうですわね」

 クロトさんのおっしゃる通りです。

 命の危険にさらされてまで守るべき事ではありませんでした。

 レナさんが悔しそうに唇を()みました。

「あたしが弱いから、二人にあんなことをさせた……」

「……違う」

「違いますわ。レナさんはお強いですわ。足を引っ張っていたのはわたくしです」

「……私も」

 わたくしは目が覚めたような思いでした。

 ついさっきまで世界の(ことわり)のように絶対の物だと感じていたこだわりは、きれいさっぱりなくなっていたのです。

 ある種の……洗脳のようなものだったのかもしれません。

 レナさんは複雑な顔をしていますが、ティアさんは晴れ晴れとした表情でした。

 きっとティアさんも同じような気持ちでいるのだと思います。

「おい、早く行くぞ」

「今いい所でしょ!? 空気読みなさいよ!」

「知るか。お前らの事情なんざどうでもいいわ」

 クロトさんは面倒くさそうに言い、ゴブリンロードが座っていた椅子の裏に回りました。

 ゴブリンロードを倒したことで、床に穴があき、階下への階段が現れるのです。

 と、クロトさんが椅子の横から顔を出しました。

「ああ、さっきのポーション代、ちゃんと払えよ」

 びしっとわたくしたちを指さします。

「わかってるわよっ!」

「ふふっ」

 クロトさんらしくて、わたくしは思わず笑ってしまいました。

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