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第18話 冒険者(シェス視点)

 二日目。第四階層の休憩部屋を出たわたくしたちは、第五階層のボス部屋まで、順調に進みました。

 第五階層のボス、ゴブリンロードは強敵です。

 前回はレナさんが壁まで殴り飛ばされてしまい、重傷を負いました。頭を打ち、脳震盪(のうしんとう)を起こしてもおかしくなかったのです。

 わたくしの回復魔法が間にあい、事なきを得たのですが、今思えばポーションを使うという手もありました。

 わたくしが防御魔法を唱え、レナさんが回復ポーションを使う。それがあの時の最適解でした。

 魔力であれば時間がたてば回復するため、消耗品を消費するのはもったいないという感覚になってしまうのか、わたくしたちはポーションをあまり使ってきませんでした。

 お金がもったいないなんて、学園に入るまで考えもしませんでしたが、わたくしもお二人の感覚に慣れてしまったようです。

 ですが、使うべき時は躊躇(ちゅうちょ)なく使わなければならないのです。ダンジョンにいるときに使わずして、一体どこで使うというのでしょう。

 たとえ手持ちのポーションを全て使い切ってしまったとしても、クロトさんも持っているのですから、最悪買えばいいだけの話です。お金は保証金として十分な額をギルドに預けていますから、その範囲内であればクロトさんは快く譲ってくれるでしょう。

 幸い、わたくしは金銭面で不自由はしておりません。

 保証金が返ってこなくなることよりも、三人で無事に第十階層突破者(シルバー)になる方がずっと重要なことです。

 これはお二人にも反省点として話しました。

 以前ダンジョンに入った時に、クロトさんに「お前もパーティの一員だろう」と言われたからです。

 慎み深く謙虚であれと育てられてきましたが、お二人に意見するのを遠慮をすることは仲間として間違いだと気がつきました。

 お二人がわたくしを仲間だと思って下さる限り、わたくしもその信頼に(こた)えなければなりません。

 それは魔法を使って戦闘の支援をするだけでなく、当事者として話し合いに参加するというのも含まれているのです。

 それ以外にも、お二人とは様々な反省点を話し合いました。

 その結果、三人の連携が向上し、前回よりも早くボスの部屋に到達することができました。

 そして今、クロトさんが、第五階層のボスの部屋の扉を再び開けようとしています。

「準備はいいな?」

「それ、前回も聞いてほしかったわ。もちろんできてるわよ」

「……いい」

「ええ」

 この直前には休憩部屋にも寄り、万全の準備を整えてきました。

「じゃあ、開けるぞ」

 ギシギシと床と(こす)れる音とともに重たい石の扉が開いていきます。

 人の魔力を媒介に動く装置――。

 古代の文明なのか、モンスターたちの技術なのか。

 モンスターからドロップする魔石の力を使って動く道具は作れても、人の魔力を直接流して動かす機構を作ることはできません。

 その仕組みが判明すれば、この国の文明は大きく発展するのでしょうが、研究者の方々の長年の研究は実を結んでいません。

 個々人によってフロア構造が変わることも、階層によって出現するモンスターが決まっていることも、モンスターの生態も、宝箱に入っているアイテムの出所も、大厄災の原因も、何もかもがわかっていませんでした。

 ですが、モンスターを倒して得られる魔石やアイテムによってわたくしたちの日々の生活は成り立っていて、わたくしたちはダンジョンから離れて生きてはいけません。

 わたくしたちは、ただ、起きている現象を受け入れ、約三十年に一度の大厄災を乗り越えて、街を維持していくしかないのです。

 だからこそ、冒険者という職業があるのですから、皮肉なものです。

 日々の(かて)をダンジョンに求め、階層突破の称号を求める――。何もかもが自己責任で、明日をも知れない命。

 生まれたときに人生の全てが決まったも同然のわたくしにとって、冒険者は自由の象徴でした。

 四人で部屋に足を踏み入れると、松明たいまつに火がついて、ゴブリンロードの姿が現れました。

「さぁ、ちゃっちゃと行くわよー!」

 レナさんが剣を構えます。

 口調は軽いですが、決して(おご)っている訳でも油断している訳でもありません。

 マントの背中からは、びしびしと緊張感が伝わってきます。

 わたくしの横にいるティアさんから魔力の高まりを感じました。

 わたくしも防御魔法の詠唱を始めます。

 レナさんがゴブリンロードに駆け寄ります。

 それとタイミングを合わせて、ティアさんがファイア・ボールで顔面を攻撃。

 それは防がれてしまいますが、ゴブリンロードに一瞬の隙ができます。

 遅れて振り下ろされた剣をレナさんは易々(やすやす)とかわして背後に回り、前回同様ふくらはぎを切りつけました。

 体をひねって剣を横()ぎにするゴブリンロード。

 レナさんに迫る刃は、わたくしの防御魔法が(はば)みます。

 すかさず高く跳躍したレナさんは、ゴブリンロードの頭上から剣を振り下ろしますが、それは首を横に倒したゴブリンロードに避けられてしまいました。

 ガキン、と傷だらけのぼろぼろの(よろい)に剣が弾かれます。

 レナさんは後ろにくるりと一回転して、見事に着地しました。

「もう一回行くわよっ!」

「はいっ」

「……うん」

 前回は初めてのボスに動転するあまりに失念しておりましたが、ダンジョンのボスの動きには規則性があります。

 ですから、相手の動きをよく見て、その規則性を見出すことが勝利に繋がります。

 その規則性も案内人の方から教えて頂けるものかと思っていましたが……クロトさんはそこまで甘くありませんでした。

 ですが、わたくしたちの本当の目的からすれば、自分たちの手で踏破しなければ意味がありません。

 クロトさんが(おっしゃ)ったように、討伐を手助けして下さる案内人の方にお願いすれば、簡単に踏破することができます。

 しかしそれでは、わたしは胸を張ってお父様に向かうことができないでしょう。でなければ、お父様はきっと、わたくしが誤魔化していることを見抜いてしまわれます。

 第五階層踏破(ブロンズ)の称号を、その程度、と(わら)われたのは、レナさんとシェスさんを嗤われたも同然で、悔しくて涙が出そうでしたが、本来ならば自分たちのフロアを自力で踏破してこそ、得られるべき称号です。

 しかし、わたくしには時間がありません。

 あと六日。あと六日で第十階層踏破(シルバー)を得れば、お父様は認めて下さると仰いました。

 すでに地図のあるフロアを自分たちの力で踏破する――。

 それが、わたくしが堂々とお父様の前に立てるギリギリのラインでした。

 そう考えると、最初にクロトさんにお会いできたのは僥倖(ぎょうこう)でした。

 もしも別の面倒見のいい案内人の方でしたら、わたくしたちは甘えてしまったに違いありませんから。

 わたくしは、家のしがらみを振り切り、レナさんとティアさんのお二人と冒険者になるのです。お父様が決める方と婚姻を結び、ただただ夫に付き従うだけの人生を捨てて。

 そのためには、まずは目の前のゴブリンロードを倒さねばなりません。

 ――だというのに。

 レナさんは決定打を浴びせることができずに、戦闘は長引いていました。


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