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第13話 初めてのボス

 オーガに手間取ったり巻き返したりした結局、俺が当初見積もった通りの時間で、フロアボスの部屋までやってきた。

 通路で繋がっているだけの他の部屋とは違い、ボス部屋だけは、入り口に各フロアの扉と同様の石の扉がある。

「この向こうに、ボスがいるのね」

 ごくり、とレナがつばを飲み込んだ。他の二人も真剣な顔をしている。

「行くのか?」

 声を落として聞いた。

「もちろん行くわ。いいわよね、二人とも?」

「……うん」

「はい」

 他の二人が緊張したおももちで同意する。

 開けて、とレナが視線でうながしてきた。

「そうか」

 俺は扉に近づく。

 ――と見せかけて、くるりと後ろを向いた。

「戻るぞ」

「ちょっ! なんでそうなるのよ!! 完全に行く流れだったでしょ!?」

「馬鹿なのか?」

「な!?」

 レナが絶句して口をパクパクさせた。

 準備もせずにボス部屋に入ろうとするとは馬鹿以外の何物でもない訳だが、実は、ボス部屋にたどり着いた勢いのまま部屋に雪崩なだれ込んでしまう、というケースは割とよくある。

 閉鎖空間でジリジリと肉体的にも精神的にも削られながら進んでくると、部屋に到達した達成感で緊張の糸がプツンと切れてしまうのだ。

 実力のあるパーティならボスを倒せばいいだけなのでそれでも問題ないのだが、厄介なことに、不慣れで実力のないパーティであるほど起こしがちな事故だった。

「クロトさんのおっしゃる通り、一度戻るべきですわ。わたくしもつい雰囲気に飲まれてしまうところでした」

「……危なかった」

「そ、そうね。よく考えたらそうだったわ。ポーチのポーションも補充しておきたいし」

 シェスとティアに続いてレナも我に返り、休憩部屋へと引き返すことにそれ以上の反論は出なかった。

 幸い俺の第五階層の休憩部屋は、ボス部屋からさほど離れないない位置にある。もちろん、人によっては、休憩部屋が階段すぐ側にあってフロアの対角のボス部屋からは容易に戻れない、なんて構造もある。

 下層になると、休憩部屋を拠点に少しずつ攻略していく方式を取ることもあるため、どちらがいいとは一概には言えないが、一般的には休憩部屋は次の階層に降りる階段の側がよいとされている。降りてすぐの頃に休憩したくなったら、一度上の階層に上がればいいだけだからな。

「のんびり休んでる暇はないぞ。装備を整えたらすぐ出発する」

「わかってるわよ。ていうか、一々休憩部屋に戻ってこなくてもいいんじゃない? 途中のモンスターは倒してるんだから、ちょっとポーションを飲むくらい、その辺ですればいいでしょ」

 レナの疑問に、俺は首をひねった。

「知らないのか? 休憩部屋に入るとしばらく能力向上効果(バフ)がつくんだぞ」

「え!?」

「そうなのですか?」

「……初耳」

 学校じゃ教えないのか? 証明されていないからだろうか。

「明確に数値化されているわけじゃないが、体感としてはあるな。しばらく疲れにくくなるし、怪我もしにくいと感じる。ポーションの効果も休憩部屋で飲む方が高いと言われている。ドロップが良くなると言う奴もいるが、俺はそれには懐疑的だ」

「そうなのね」

「それなら戻ってくる意味はありますわね」

「……物知り」

 三人は感心したように俺を見た。

「お前等、俺のこと何だと思ってるんだよ」

守銭奴しゅせんど?」

「……怠け者」

「もう、お二人とも、クロトさんのような方は、ゴールドフィッシュの何とやらって言うのですわ」

「案内人だよ!」

 誰がゴールドフィッシュのフンだ!

「やぁね、冗談じゃない」

「そうですわ」

「……ノリ」

 嘘つけ! シェスはともかく、レナとティアは目が本気だったぞ!

「冗談が言えるなら休憩は十分だな。ほら、さっさと行け」

 俺は部屋の出口の方に向かって、しっしっと手を振った。

 再びのボス部屋の扉の前。

「準備はいいな?」

「ちょっと待って。まだ心の準備が――って早っ!」

 レナが焦っている間に、俺は扉を開けた。

 中は薄暗く、奥まで見通すことはできない。三人にとってはダンジョンで初の暗闇だ。

「心の準備なんてするだけ無駄だ。やることは変わらない」

「そういう問題じゃないでしょ!? 精神統一とか色々あるじゃない」

「どうせできないだろ?」

「うぐっ。それはそうだけど……」

「よし、じゃあ、行ってこい」

「うひゃぁっ!」

 俺はぐちぐちと文句を言うレナの背中をバシッと叩いた。(よろい)をつけているから痛くはないはずだが、勢いで部屋の中へと入ってしまう。

 全員が部屋に入ると、背後でバタンッと勢いよく扉が閉まった。

 すると、両脇に並んでいる柱に取り付けてある松明(たいまつ)に、ボッ、ボッと順番に火がと(とも)っていく。

 一番奥まで明かりが灯ったとき、ボスの姿があらわわになった。

 奥の壁際に石の椅子があり、そこに座っていたボスが、赤い目を光らせ、ゆっくりと立ち上がる。

 ゴブリンロード――。

「大きいわね」

 ごくり、とレナがつばを飲み込む。

 ゴブリンロードはオーガよりも大きく、通常のゴブリンと違い、鎧をまとっている。

 刃こぼれの激しい剣も大きく、当たれば斬られるというより押し潰される。

 盾を持っており、こちらも傷だらけだった。

 ゴブリンロードが一歩踏み出してくる。

 まだ距離はだいぶあるというのに、気圧(けお)されたレナは一歩下がった。

「ビビってないで、早く行け。あいつを倒さなけりゃ終わらないぞ」

「わかってるわよっ!」

 威勢はいいが、レナは足に根が生えたように動かない。

 結局、最初に攻撃したのはティアだった。ゴブリンロードの顔面へとファイア・ボールが飛んでいく。

 いとも簡単に盾で弾かれてしまうが、それはレナを勇気づけ、足を踏み出させた。 

 身体強化に加え、事前にシェスの素早さを上げる補助魔法をかけていたから、通常よりも足が速い。

 ゴブリンロードに駆け寄って、ぶんっと大きく振られた剣を腰を落として避け、足を狙って一撃。

 だがそれは、ガキンッと鎧に弾かれた。

「くっ」

 レナの力では、簡単には攻撃は通らない。渾身(こんしん)の力で振り抜かなければ。

 レナは大きく飛び退()いた。

 その後を追うゴブリンロード。

 振り下ろされた攻撃を、横に構えた剣で防ぐ。

 が、防ぎきれずに(ひざ)をついてしまう。

 ぐぐっと力任せに押されるレナ。

 そこへ三本のファイア・アローが割り込み、ゴブリンロードを退(しりぞ)けさせた。

 下がったゴブリンロードを追うように、今度はレナが剣戟(けんげき)を振るう。

 当てたのは先ほどと同じ場所だ。だがまたも弾かれる。

 横に振られた剣を受け止めようとして失敗し、レナは吹っ飛ばされた。

「きゃぁっ」

 そりゃそうだ。その体重ではそうなる。まともに受け止められるわけがない。

 がしゃりと背中から床に落ちるレナ。

 追い打ちをかけるようにゴブリンロードが剣を振り下ろすが、レナは左右に床を転がって避けた。

 ティアがファイア・ボールを放つ。それを盾で防ぎ、執拗(しつよう)にレナに攻撃を仕掛けるゴブリンロード。

 突き降ろされた剣先が、バシッと空中で何かに防がれた。シェスの防御魔法だ。

 その隙に立ち上がるレナ。肩で息をしている。

 ティアの魔法攻撃とタイミングを合わせて、ゴブリンロードへと駆けた。

「でやぁぁぁ!」

 振り下ろされた攻撃を横に避け、三度(みたび)の足への攻撃。

 だがやはり鎧が刃を通さない。

 避けては攻撃、退()いては駆けを繰り返すが、ゴブリンロードは一向に膝を折らなかった。

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