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第12話 第五階層

 それからレナの動きは目に見えてよくなった。

 ティアもその動きに合わせてオーガの顔面に魔法をぶつけ、上手く目くらましをしている。

 レナがオーガの攻撃をよけきれずにかすった傷も、折れた骨も、すぐにシェスがきれいに治していた。この若さでその詠唱の速さと魔法の強さは大したものだ、と改めて感心する。

 ティアが後衛にいるなど気になることは多々あるが、これはこれでバランスのとれたパーティなのかもしれない。

 最初の遅れを取り戻すように、俺たちは順調に進んでいった。

 途中、レナのスタミナが切れてポーションを飲む機会が何度かあったが、休憩部屋を何度も往復するような事にはならず、途中で立ち寄るくらいで済んだ。

 第四階層を抜けて、ついに第五階層へと足を踏み入れる。最奥にボスがいるフロアだ。

「ここをクリアすれば、初級者(ブロンズ)になれるのね」

「……うん」

「ですね」

 三人は真剣な顔で互いを見た。それぞれ自分の得物(えもの)をぎゅっと握り直す。

 第五階層は、第一階層からの総仕上げと言わんばかりに、スライム、ゴブリン、オーガが満遍(まんべん)なく出て来る。

「本当にゴブリンとオーガの両方がいますね」

 最初の部屋の入口から顔だけ出してシェスが言う。その下にはレナの顔、さらにその下にはティアの顔が出ている。

「他のモンスターに干渉しないスライムはまだわかるけど、ゴブリンとオーガってケンカしないのかしら。縄張りとかないの?」

「……たぶん」

 見慣れている俺からすればいつもの光景だが、言われてみれば不思議なもんだ。共食いとかあってもおかしくないのにな。

 三人は一度顔を引っ込めた。

「先に危険なオーガを倒すのがいいわよね? ゴブリンを相手にしてるときに一緒に攻撃してきたら危ないもの」

「……弓矢」

「そうか、遠距離タイプを残すのも厄介(やっかい)ね」

「射手をティアさん、オーガをレナさんが対応するのがいいのではないかと思いますわ」

「そうね」

「……賛成」

 互いにうなずき合う。シェスもちゃんと自分の意見を言うようになってきたな。いい傾向だ。

「問題は、私がオーガとやり合っている間、近距離タイプのゴブリンをどうするか、ね」

「……頑張る」

「大丈夫? 遠距離タイプと合わせて四体いるわよ?」

「……だいじょぶ」

 ティアはこくりとうなずいた。腰のポーチから魔力回復のポーションを取り出して、ごくごくと飲む。

「わたくしは何もできなくて申し訳ありません」

「……補助」

「そうよ。シェスは補助と回復をしてくれたらいいの! 私が攻撃を受けたら頼んだわよ!」

「もちろんです」

 三人の方針が決まったところで、レナがちらりとこっちを見た。

「いいんじゃないか」

「あ、あんたになんか、何も聞いてないわよ!」

 そうなのか? 意見を求められたように見えたんだが。

 俺は肩をすくめておいた。どう戦うのかは俺には関係ない。踏破さえしてくれればな。どんな戦い方をしようが、このくらいの敵はなんとかなるだろ。

 ティアがファイア・ボールの、シェスが補助魔法の詠唱を始める。ティアは一気に五発分だ。魔力を()るのに手こずっていたが、何とか唱え終えた。

 シェスがレナへ防御力強化の魔法をかける。

「行くわよ」

 再度うなずきあってから、レナが静かに飛び出した。狙いは後ろを向いているオーガだ。

 だが、先に一体のゴブリンが気づいてしまい、ギャッと鳴き声を上げる。

 その声で他の四体も気づき、オーガが振り返る。

 射手の矢尻がレナの方を向いた。

 だが、その弓が引き絞られるよりも先に、ティアの魔法が放たれた。

「……ファイア・ボール」

 空中に出現した火の玉が、五体それぞれに飛んでいった。サイズは小さいが、()れる事なくまっすぐに向かっていく。

「ギャッ」

 ぺちんと当たったファイア・ボールは射手が矢を放つのを遅らせ、その隙にレナがオーガの足元へと到達する。

「はぁぁっ!」

 気合いと共に振られた剣は、しかし、オーガの棍棒(こんぼう)に防がれてしまう。

 切っ先は棍棒にわずかに切り込むが、それ以上刃は進まない。

 つばぜり合いのようになっているレナの背後から、剣を持ったゴブリンが背後から迫る。

 レナはオーガを諦めて剣を引き、後ろを向いてゴブリンを斬って捨てた。

 その後ろから今度はオーガの棍棒が振り下ろされる。

 それをオーガに背を向けたままステップを踏んで横によけるレナ。空振りした棍棒が、ドゴンと地面を打った。

 そのレナを追いかけるように、オーガがもう一方の腕を振るう。

 くるりと振り向いていたレナは、それを後ろに跳んでかわした。その跳躍は大きく、走り寄ってきていたもう一体の剣を持ったゴブリンを飛び越えた。

 がら空きになったゴブリンの背中に、レナが剣を突き刺す。

 そしてもう一度オーガの元へ。

 横に振られた棍棒を身を()らして(かわ)し、さらに一歩近づく。

「はぁっ!」

 左から右へと一閃(いっせん)。オーガの両脚が切断された。

 たまらずばたりとうつ伏せに倒れたオーガの首に、レナが剣を振り下ろした。

 オーガの体が消え、レナが顔を上げたときには、弓矢を持った二体のゴブリンは、ティアのファイア・アローによってすでに倒されていた。

「はぁ……はぁ……ちょっと、大変ね」

「……怪我?」

「ううん、怪我はしてない。疲れただけ」

「レナさんが危険ですし、時間もかかりすぎですわ」

 三人は部屋の外にいた俺の所までもどってきて、うーん、と腕を組んで悩み始めた。

 ちらちらと抜け目なく部屋の出口を見張っている。

 背後は階段で、モンスターがそれを越えて降りてくることはないから、実はここは休憩部屋の次に安全な場所だった。

「効率よく倒すのは諦めて、通路に呼び寄せて一体ずつ倒した方がいいかしら」

 ポーションを飲みながらレナが言う。

「……確実」

「その方がレナさんとティアさんの消耗も少ないですわよね」

「でもそれだと、ティアの火力があまり使えないのよね。私が邪魔しちゃう」

 ティアは魔法を標的に向かって真っ直ぐにしか飛ばせない。レナが前にいると攻撃ができないのだ。

「それに通路だとオーガを相手するのは難しいわよね。もうちょっとこの戦い方でやってみましょ。何かわかってくるかも」

「わかりました」

「……うん」

 この案は当たっていて、三人は先へ進むごとに上手く立ち回れるようになっていった。

 何度も攻撃をしないと倒せないオーガよりも、先にスライムやゴブリンを倒して頭数を減らした方が良いことも学ぶ。

 その結論に至ったとき、俺はレナににらまれたが、知ったこっちゃない。戦い方はパーティによって千差万別で、自分たちで試して覚えて行くものだ。

 三人の連携ははまだまだ教科書通りで応用ができていないが、第五階層踏破(ブロンズ)までなら十分だった。

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