エピローグ5
ゴッ という音とともに男がこちらへ倒れこんでくるのが分かった。
私はとてつもない恐怖とともに思いっきり抵抗した。
すると思いのほかあっさり男の体は横に崩れ落ちた。
私は、意味が分からず周りを見渡す。男の背後には鞄を持った見知った顔の男の子が立っていた。彼の眼は相も変わらずうつろである。しかし、その表情の奥には、今でも人を殺めてしまいそうなほどの憎悪に似た何かを感じた。
私は感謝を伝えようと口を開いたが、うまく声が出せない。
彼は私を一瞥すると、私に上着を投げてきた。彼にそのような優しさがあることに少し驚いたが、私は声を絞り出し、彼に感謝を伝えた。
「ぁ、ありがと」
彼は、振り返ることなく歩いていく。私は、その背中に昔のヒーローのような頼りがいを感じることはできなかった。
そこからは、とんとん拍子にことが進んだ。
彼が通報したのだろうか、10分もしないうちに警察が到着し、私に襲い掛かってきた男は連れていかれた。
私と狐花君は1時間ほど警察に事情聴取されたのち私は父の迎えにより家に帰った。おそらくだが狐花君も保護者の迎えがあっただろう。
私は、家に帰ると母が泣きそうな顔で出迎えてくれた。私はその顔をみて、安心して一緒に泣いてしまった。