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クラウド  作者: マダラ
4/5

武闘大会③

気まずくなった空気の中、 突然の来訪者にクラウドは密かに安堵の息を漏らした。

のそのそと向かい来る男の体躯はクラウドやリオンとは同年代とは思えないほど縦にも横にも大きかった。

「よう、ジャイクロフト。」

「やあ、リオンにミリアリア。そ、それにアリスちゃんまで!」

ジャイクロフトと呼ばれた男は、来訪に感謝の意を込めて声を掛けたクラウドを綺麗に無視をして他の三人にだけ、特にアリスには赤面しながら挨拶をした。

ジャイクロフト=アントラー。

通称ジャイアン。

短い茶髪に黒い瞳。

リオンと同じ瞳。

王族と血縁たる証である、漆黒の色。

いつもの扱いに特に腹を立てない様子のクラウドへリオンとミリアリアは苦笑を送った。

「やあ、ジャイアン」

「・・・おっす」

手を上げて挨拶をするリオンに対し、ミリアリアは顔も見ないでそっぽを向きながら声だけ出す。

その様子にもまた苦笑したアリスだが、いつものことなのでいつもの言葉を返す。

「こんにちわ、ジャイクロフトさん。後のお二人も。でも残念ですわ。今、私達は三人ではなく四人で話しているの。高貴な貴方が挨拶もしない方だなんて、私はショックですわ」

「こんにちわ、お義兄さま!」

「てめぇにお義兄さま呼ばわりされるいわれはねぇ!」

「お前達もお義兄さまに挨拶しないか!」

そんなクラウドの訴えも再度虚しくスルーされた。

当のジャイクロフトは後ろについてきている舎弟の二人にゲンコツをお見舞いしてから何か囁いていた。

その話が全く進展しそうにないやりとりに、残りの昼休み時間も少ないこともあって、普段は傍観しかしないリオンが話を切り出す。

「ところでジャイアン、俺達の次の授業は実技だから、そろそろ着替えに行きたいんだが」

リオンは親しみを込めて彼を愛称で呼ぶ。

ジャイアンという呼名は、彼の普段の振る舞いからも周囲公認のものだが、実際にそう呼べる者の数は少ない。

この中でもリオンたけだった。

リオンのもうお終いと促す言葉にだんまりを決め込んでいたミリアリアの表情が明るくなる。

どうやら彼女はもうこの場からはすぐにでも立ち去りたいようだ。

しかしジャイクロフトにとってはこの言葉が正に我が意を得たりと言ったものだった。

リオンからのナイスパスを受けたジャイクロフトはニヤリと笑って大仰に頷いた。

その仕草にイラっとしたミリアリアが顔をしかめ、それを見たリオンとアリスは苦笑する。

クラウドは我関せずといった感じで廊下を歩いて行く女生徒達を眺めていたが、目が合うと“赤ゴキブリよ!”と言って逃げて行く姿を見て苦笑したタイミングが、リオンとアリスが苦笑したのと全く同じだった。

目を瞑って頷いていたジャイクロフトばそんな四人の仕草に気付かずに腕など組んで先を話し出した。

「実はさっき次の授業の有力情報を掴んだんだが、聞きたいか?」

正直、四人共どうでもいいと思ったが、こうなったジャイクロフトからは彼が満足するまで解放されることは稀だ。

状況をいち早く察知、もとい、ミリアリアから立ち昇る不機嫌オーラ(もはや殺気)に気付いたクラウドが話しを聞き出そうとするが、またもや鮮やかに無視されるという結果に終わった。

後ろの取り巻き二人も声を殺して笑っているようで肩が目に見えて上下していた。

更に追い討ちをかけるように廊下から“キャッ!赤ゴキブリだわ!”“駄目よ!あんなモノを見ていたら私達の目と品格が汚されてしまいますわよ!”といった会話と足音が聞こえて来た。

流石のクラウドもハラハラと涙を流しており、その様子を見ていた取り巻きも、

「赤ゴキブリ〜」

「チャバネゴキブリ〜」

と言ってモケケケと笑っていた。

ちなみに“ゴキブリ”とはクラウドのあだ名であり、逃げ足が以上に早い事と髪と瞳が緋いこと、いつも触角のように毛が立っていることが理由と言われているが、実はいつもリオン、ミリアリア、アリスの学園での人気者トップスリーと一緒にいるという妬みが強く(ちなみに四番目はジャイクロフト)、クラウドが何かしたのではなく、ただの嫌がらせでしかなかった。

しかし、クラウドとしても好き好んで妬まれている訳ではない。

リオンは幼馴染でありミリアリアはその連れ合い、アリスは血は繋がっていないとはいえ妹のように接しており、ジャイクロフトはアリスの気を引こうとして近寄ってくる。

   クラウドとしてはリオンと一緒にいる事が多いので、狙っていなくても四人ないし五人集まっている事が自然と当たり前になっていた。

   ただ、彼にとっての不運は自分の周りにいる人は何故か人気者ばかりな事だった。

   クラウドの脳内に、類はともを呼ぶという言葉が考え出されたが、どう考えても自分という存在がこの四人と同類項なわけがない。

   くだらないことを考えてしまい、思わず鼻から失笑が漏れてしまったくらいだ。

    そんな事を考えている内にミリアリアの我慢が限界点に近付いてきているのか、イライラした様子で、机を指でトントン叩き出していた。

   ミリアリアの明らかな無言のプレッシャーの賜物かどうかはわからないが、ジャイクロフトは一つ咳払いをして場を整えると、やっとの事で有力情報とやらを区切りながらハッキリと話出した。



 「…実はな、次の実技の授業にな、コーデリア様がお出でになるみたいだ」

    





**********


   ジャイクロフトから話を聞いた後のクラウドとリオンの行動は素早かった。

   席を立つとミリアリアとアリスに別れを告げ、逃げる様に食堂を去った。

   まさに文字通り逃げ去った。

   そして今、学園からも逃げ去ろうと校門めがけて走っていた。  

 「おい、なんでコーディーが来るんだよ!」

 「知らないよ!」

 「お前、俺が帰ってきた事教えたんじゃないだろうな!」

  「言ってないよ!言ったら俺まで酷い目に遭うんだから!」

  「じゃあ、なんで来るんだよ!」

  「だから知らないってば!」

  「クソッ!とりあえず逃げ切るぞ!捕まれば俺達に明日は無い!」

  「わかってるよ!」

   この時、二人は焦っていた。

   かなり焦っていた。

   だからだろうか、二人は伏兵に全く気付くどころか、自分達から罠に嵌りに行っていることにすら気付かなかった。

 「もうちょっとだよ!」

 「ああ!これで俺達は救われる!」



  残念ですが、そうすると私が酷い目に遭うんですよ…



 「!?!?」

 「しまった!リオン、これは罠だ!」

 「今更気付いても遅いですよ」

   そう言いながらヴァレンタインが現れる。

 校門の側にある木の『陰』からではなく『影』から。

   まるで水の中に潜っていたかのように現れた。

 「貴方達を逃がしてしまえば。私の明日が無くなってしまうのですよ」

 「それぐらい、いいじゃねぇか!」

 「ヴァン、これは命令だ!代わりに死んでくれ!」

 「貴方達は鬼ですか!」

 「鬼じゃない、ただの人間だ!」

 「そして今の俺はお前のご主人様だ!」

 「…私だって自分の命は惜しいのですよ。だから…」


   大人しく捕まって下さい

   

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