武闘大会 ②
デュナミス学園には中等部と高等部とがある。
基本的なシステムは中等部五年、高等部五年の計十年間を学園に通わなくてはならない。
否、夢や目標を持って意欲的に通う彼等にとっては十年間も通うことが出来ると言う方が適切だろう。
しかし、通う、通うことがど出来るのどちらにしろ(若干名、通わされているという非常なふとどきき者も中にはいるが)、まずは中等部の入試に合格しなければならない。
ちなみに、入試には年齢制限があり、齢が十〜十五才の間を設けられている。
そして、入学したとしても中等部での五年間の成績が一定値以下だと高等部へと進むことはできない。
また、高等部での五年間の成績が一定値以下だと卒業することはできない。
しかしその一定値というのが高く、入学したからといって後は安穏な十年では決してない。
ここでまた補足だが、卒業に関しても年齢制限が設けられている。
齢二十〜二十五才の間、つまり入試制限最後の十五才で合格したはいいが、後は一切合切気を抜くことはできないのだ。
だがしかし、本当にだがしかしだが、昨年に異例の事態が起きたのだ。
異常、非常と言ってもいいかもしれない。
別に二文字にこだわらなければ摩訶不思議という言葉が妥当だろう。
当時にその事態に立ち会ったデュナミス学園の生徒達からすれば、それは世界中に散らばった七つの伝説の球を集めて現れる神の化身である龍に、ギャルのパンティーでも永遠の命でも、はたまた圧倒的な戦力差で襲い来る戦闘民族を倒してくれと頼むより、この摩訶不思議な事態の説明と解釈を求めてしまうのではないかというくらいだった。
彼等からすればそれぐらい常軌を逸した事態だった。
断言してもいい。
デュナミス学園始まって以来、未だかつてない出来事だったのだから。
大変くどくなってしまったのだが、どうか許して欲しい。
それと言うのも、デュナミス学園の生徒達からすれば異常な非常事態でも、言葉にすれば、それこそ異常に簡単且つ明瞭に一言で済むからだ。
だから納得はしなくても理解はして頂きたい。
いかに単純でくだらないことでも、彼等にとってはそうではなかったということを。
そろそろ真相を伝えよう。
それは、クラウドのデュナミス学園への編入であり、それを可能にしたのは学園長であるヴァレンタインの気まぐれだった。
※※※※※※※※※
事件が起きた時、リオン=グロリア=カナンは寝ていた。
しかし、彼にしては珍しく、寝ていた場所は自室のベットではなく、そこはデュナミス学園で自分にあてがわれた机だった。
昨晩行われた政策会議に次期国王として朝方まで参加していたのだ。
その会議にはカナン王は勿論、二人の兄達も参加していたが、この二人の兄達は武将として、強いていえば将軍としての立場上でさんかしているだけだった。
だからと言って寝ていた訳でもないが、リオンには求められるモノが違っている以上、どうしてもカナン王や大臣達からも意見を訊かれる場面が多かった。
多かったというより、ほとんどと言ってもいいかもしれなかった。
次代の国政を中心となって担う事が確定している者にとって過去、現在の方針や、そこまでに至る経緯を知る事は、未来に自分が何をできるか、何をするべきかを考える為には必要な事だとリオンは考えていた。
だからリオンは自分から会議に関わらず自分が参加できるものにはできるだけ関わってきた。
それが自分の役目だと貫いてきた。
貫いてきたからこそ、彼に隙が生じたのだった。
学校の教室でのホームルームという環境も手伝ってせいもあるだろう。
リオンは教室がどよめき、異様な空気に包まれ、誰かが自分のよこに立ったことも気付きながらも気にしなかった。
リオンの横に立ったのは、先ほどヴァレンタインに連れられて来たクラウドだった。
クラウドは簡単に自己紹介をすると自分に全く気付かずに眠りに落ちているリオンを見つけた。
「はぁ〜、やれやれですね。」
クラウドがリオンに近づくのを見守るしかしなかったヴァレンタインは思わず嘆息をついた。
おそらくリオンは先日のというより今朝方の会議の夢でも見ていたのだろう。
「異義あり!」
そう寝言を言いながら、ガバッと寝ぼけ眼で顔を上げる。
「何が異義ありだ、馬鹿やろう!」
そう言ってクラウドは横から喧嘩キックでリオンを蹴り倒した。
当のリオンは派手な音と共に言葉にならない声を上げて椅子ごと転がる。
それを合図にしたかの様に、騒然としていた教室内が今度は閑散となる。
「ってぇ〜•••、いきなり何を」
「いきなり何すんのよ!」
リオンが全部言い終わる前に、ガタンと立ち上がる音と言葉を遮る声がクラウドはの背後から聞こえる。
「人が挨拶してんのにグースカ寝ていたこいつが悪い。」
クラウドは短くそう答えるが、声を上げた金髪碧眼の少女は気にくわない様子でまだ何か言っていたが無視をする。
リオンはというと、まだ寝ぼけているのか顔を振って意識を取り戻している最中だった。
「目は覚めたかよ?」
おそらく自分の寝込みを襲っただろう人物の声の方向へ苛立たしげな視線を送る。
まだ倒れこんでいたため、自然と視線は足元から順に見上げる形になってしまうが、犯人(まだ犯罪は犯していないが)の顔を見た時に動きが止まる。
今こそ思えば聞き覚えのある声に見覚えのある顔立ち、瞳も髪も緋い特徴のある容貌。
そして何よりもリオンは、例え五年経とうが十年経とうが親友を忘れるような人間ではなかった。
「お前、ベルセぶばぁー」
親友の正体に気付いたリオンだが、再度放たれたクラウドの喧嘩キックがリオンの言葉を遮る。
「まだ寝ぼけてるみたいだな。人の自己紹介をしている時に寝ているからそうなるんだ。それとも黒板を見ろよ。書いてある字が読めないのか?」」
クラウドは呻き声を上げているリオンに言い放つ。
鼻っ面にまともにヒットしたせいで涙目になったリオンの苦悶の表情を見て、今度はどよめきよりも黄色い悲鳴と悩ましい嘆息が混じっていた。
(相変わらずの人気っぷりだな)
この状況をつくり出した本人は周囲の視線などおかまい無しに昔の事を少し懐かしんでいた。
だが一人の少女はそれこそ周囲の事などおかまい無しに我慢ができなくなったのか、クラウドに近づき、肩を強引に引っ張ろうとした。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」
「さっきから何なんだ、お前は?」
クラウドは邪魔をするなといった感たっぷりに振り返る。
クラウドの肩を掴んだのは先ほどクラウドに言い掛かってきた金髪少女だった。
肩を引っ張ったのではなく掴んだ事になったのは、引っ張ったのだがビクともしなかったので、はたから見ていた者にとっては掴んだようにしか見えなかったからだ。
(何なのこいつ)
それが金髪少女の正直な感想だった。
「いいんだ、ミリアリア。」
やっとダメージから回復したリオンがミリアリアと呼んだ少女に待ったをかける。
「五年ぶりかな?おかえり、クラウド。」
「やっと眼が覚めたかよ?」
言いながらクラウドはニッと笑う。
「おかげさまでね。」
リオンもニッと笑って伸ばした手をクラウドが引っ張って起こす。
「友情物語が盛り上がっているところ申し訳ないですが、そろそろ授業を始めてもいいでしょうか?」
その一部始終を見ていたが、間違いなく存在を忘れられていたであろうヴァレンタインが教室内というよりも主に立っている三人に向かって話しかける。
ヴァレンタインの言葉で周囲の視線に気付いた三人だが、リオンとミリアリアは自分の席に戻る。
クラウドはというと席を指示される前にリオンに突っ掛かったのでとりあえずリオンの近くの席が空いていたので、そこに腰掛ける。
三人の行動を確認して満足したのかヴァレンタインは授業開始の合図をして始めようとしたが、ドアが乱暴にガラッと開けられる。
「兄様が帰ってきたって本当ですか!?」
開けられたドアの先には中等部の制服を身に纏った美少女がいた。
やっとの思いでヴァレンタインが集めた意識と視線にが一声にドアの方へ向けられる
「もう、いいです・・・。」
やっとの苦労をふいにされ、事態の収集が纏まりそうにないと確信しヴァレンタイン
は、ハラハラと涙を流して呟いた。
真面目なお坊っちゃまやお嬢様達にとってクラウドの登場は刺激的だったらしく、その日の内に瞬く間に噂は学園内に広まった。
治まるまでにはひと月の期間を要したのは今から半年程前の事で、学生達はこの事件の事を謎の転校生事件と呼んだ
****************
今は昼休み、クラウド・リオン・ミリアリアと謎の転校生事件の時に乱入して来た中等生の美少女のアリスの四人は食堂で昼食を摂っていた。
クラウドを除く三人はいつも弁当を持っていたが、アリスがどうしてもというのでクラウドの学食に合わせたのだった。
席はリオンの隣にミリアリア、向かってクラウドとアリスとなった。
聞いた話だとミリアリアとリオンは秘密裏にだが婚約しているとのことなので順当な席合いだった。
四人は窓際の席を取ったのだが、異様に目立っていた。
これも聞いた話だが、ミリアリアとアリスはそれぞれミス・デュナミス学園の高等の部と中等の部の優勝者だというのだ。
一人だけでも人目を引くのに、二人揃うと比ではなかった。
同席しているのは王族と学園中が噂で一世を風靡した転校生。
しかも全く外見が似ていないアリスから兄様呼ばわりと来た。
目立たない方がおかしいだろう。
ちなみにアリスの外見はというと、ミリアリアより透き通るようなプラチナゴールドのロングヘアーをポニーテールに結っており、瞳はまるで満月をそのまま入れたかと思うほどに輝く大きな金瞳に二重であり、背はクラウドの肩ほどであった。
瞳と髪が真っ赤なクラウドが太陽だとすれば、アリスは月といった感じで全く対象的に違っていた。
これだけ見た目が違うと当然な疑問が浮かび上がる。
「あんた達さ、本当に兄妹なの?」
それを口にしたのはミリアリアだった。
すると、食堂全体がしんと静まる。
どうやら食堂にいる全員が注目しているようだ。
調理師のオッちゃん、オバちゃんまで身を乗り出している。
中にはゴクリと固唾を呑む者までいた。
しかしアリスはそんな場の空気も気にせず、さらりと答える。
「私と兄様は本当のという意味では兄妹ではありません。」
「なっ・・・」
『なにぃ〜!』
しかし、アリスの言葉への反応はミリアリアよりデバガメ達の方が強かった。
しかも驚きといっても、大半はクラウドへの敵意だったのは勘違いしようがないほどに明らかだった。
だが、そこはやっぱり女の子なのだろう。
旧知の仲であるリオンは事情を知っているが、何も知らないミリアリアは興味をそそられていた。
女の子にとって、等しく恋愛事情とはいついつも大好物なのだ。
アリスと向かい合っているミリアリアはなぜか井戸端会議で噂話をするオバちゃんのようにヒソヒソと話す。
「ねぇねぇ、それってさぁ・・・」
「もちろん、結婚しても何の問題もないということです。」
自分の言葉を引き取った回答に満足したミリアリアは、だよねぇ〜!と声を上げる。
少し興奮しているのか、頬がほんのりと赤みを帯びている。
対するアリスは自分の言葉に照れているのか、こちらは頬を赤らめて俯いている。
その仕草を見た野次馬一同(主に野郎共だが)が思わず歓声を漏らす。
うひょ〜やら可愛いやら抱きしめたいやら好き勝手言っていたが、中には手を取り合って泣いている者までいた。
「じゃ、じゃあさ二人はどこまでいってんの?」
ミリアリアは余程興奮してきたのか、はぁはぁ息をしながら垂れそうになった涎を拭いている。
これじゃあまるでパブロフの犬状態だ。
しかし野次馬達も大いに興味があるのだろう、ヒソヒソ話す二人の声を聴き取ろうとクラウドを押しのける男もいた。
リオンはというと女の子に押されており、顔をしかめているクラウドに対してえらく幸せそうだった。
だが、井戸端オバちゃん化した二人には周囲の状況など目に入らなかった。
「それはもう・・・」
「そ、それはもう・・・?」
ゴクリと唾を呑むミリアリア。
合わせて周りからもゴクリと大きな音が聞こえる。
「それはもう、兄様とはあんな事やこんな事まで・・・」
『あんな事やこんな事やそんな事〜!』
ミリアリアと野次馬一同の声が綺麗にハモった(そもそも、 そんな事は言ってなかっただろうが)。
「具体的には?」
「熱いキスとか・・・」
『なんだとぉ〜!』
「おデコにおやすみのキスな。」
アリスはポッと赤くなって話すが、 すかさず訂正を入れるクラウド。
クラウドがさらりと訂正をしたのが気に食わなかったのか、ムッとなるアリス。
その二人のやり取りにわくわくするミリアリア。
「裸も見られましたわ!」
途端にリオンを除く全員がクラウドを見が、その視線は敵意が殆んどで、目の前の金髪少女だけが好奇の目を向ける。
「ガキの時に風呂に入っただけだろうが。」
クラウドはお茶を啜りながら言い、その言葉に敵意の視線を向けた者達は安堵の息を漏らしたが、ミリアリアは期待が外れたのか残念そうな溜息を漏らす。
「一緒の布団で抱き合って寝たこともありますわ!」
すると先ほど安堵の息をついた者はこの世の終わりだと言わんばかりに頭を抱えて振り回し、ミリアリアは胸の前で祈るように手を重ねて見つめている。
「一人じゃ寝れないって俺の布団に潜り込んで来たのは誰だ?」
小さく嘆息するクラウド。
それを合図に周囲も様々な溜息を漏らす。
「愛の誓いもたてましたわ!」
それでもなお、認めないとばかりにアリスはいきり立って言う。
「あれはおままごとだろ。」
興奮して まくしたてようとするアリスと あくまでも冷静に訂正するクラウドとの温度差は周囲から見ても否めない。
その事を感じ取った周りの連中も二人の関係に興味を無くしてきている。
実際ミリアリアなんかは胡乱な眼つきでクラウドを睨んでいるくらいだ。
「な、なら・・・」
それでも言うアリスの声は心なしか震えていた。
「あの時、命を掛けてでも守ると言ってくれたのも戯言だったのですか!?」
今度は声を振るわせながらも、叫ぶように問う。
周囲もまた否定の言葉が来るとばかりに決めつけて、心情的にはアリスに憐れみさえ胸に抱いている者もいた。
「それは・・・、本当だ。」
今度は今までとは違う意味で期待を裏切る言葉が返ってきた。
表情も苦虫を噛み潰したかのようにしかめていた。
あの時という言葉にリオンも『その時』を思い出した。
自分とクラウドとアリス。
自分にとっては恩人、クラウドにとっては恋人、アリスにとっては実の姉。
そんな三種三様の女性、ステラ。
彼女を失った日。
それは 三人にとって忘れる事のできない苦い過去。
忘れる事のできない大切な女性との思い出。
三人はそのまま俯いてしまい、一人取り残されたミリアリアだけがどうしたものかと話題を探してあたふたしていた。
「ちょっと、私だけかやの外?」
漏らしら不満にも応える者はいなかった。
暗い空気を察した野次馬達も一人、また一人と立ち去って行く。
だが去って行く人混みを無視して、人とぶつかるのも気にせずにど真ん中をどしどしと歩く縦だけでなく横にも大きい人影と、その後ろをぶつかった者に悪態を尽きながらついて来る取り巻き二人が、四人のいるテーブルに真っ直ぐと向かって来ていた。
ふとユーザーページを覗くとを気に入りに登録して下さっている方がいらっしゃいました。
有難うございます。
でもって、更新が遅くなってすみません。
次からはもっと早く更新する様にしますので、どうか見放さないでやって下さい。
実はすごく嬉しかったんで・・・。