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雪の王妃  作者: きりしま
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0.白

はじめまして。

5年ぶりくらいの執筆です。寒くなってきたので、寒さを感じながら読める作品を作りたいと思い久しぶりに投稿しようと思いました。

気長にお付き合いいただければと思います。

 彼女の名前はイリーナ。長く真っ直ぐに伸びた銀色の髪をゆったりと揺らし、白亜の城を歩く王妃。この国の女性の平均よりも高い身長は彼女に威圧感をもたらし、彼女の切れ長の灰色の瞳と目が合ったものは、必ず息を飲み言葉を詰まらせる。

 白く長いスラリと伸びた手足はいつも暖かい動物の毛皮の上着によって下まで隠され、白樺の枝のように細い左手の薬指には必ず黄金に光る指輪がはめられている。その指で名指しされた者は、誰も彼女には逆らえない。

 外の景観に溶け込むように建設された白亜の城は、彼女の夫アドルフが齢10の時に先代王が、彼女がこの国に嫁ぐことが決定したことを記念に建てられた。そのため、この城はイリーナ専用であり、彼女が管理者である。だから、この城に存在する騎士も、侍女も、料理人も、庭師も、すべてのものの所有者はイリーナなのだ。


 イリーナの後ろには必ず3人の侍女がついて回る。彼女たちは、イリーナが幼少期のころから世話係として任命された者たちであり、彼女らへの絶対の信頼をイリーナは置いていた。薄い緑色のドレスを着た年配のカリナ。淡い黄色のドレスを召した30代半ばのクサナ。空色のドレスを身にまとうイリーナと同い年のミラ。彼女たちにはそれぞれの役割があるが、イリーナにとって彼女らと話すときが、この息が詰まるほど美しい白銀の世界で笑顔を見せる唯一の時間だった。


 イリーナは長い廊下の途中に現れる出窓に腰を掛けた。3人の侍女はそっと彼女の視界に自分たちが映らないよう、一歩引いた場所で下を向く。


「今日ね」


 彼女の真っ赤に彩られた薄い唇からぽつりと一言呟くように発せられた。

 それを聞いた年配のカリナが口を開く。


「ええ。本日でございます」


 イリーナは窓の外の風景にその灰色の瞳を揺らす。

 この城は、イリーナの出身国である白銀の国レベジェフ王国と、彼女が嫁いだ夫の太陽の国カルシュ王国の国境に位置しており、この場所は春が訪れても窓の外はまだ寒い。だが、もう春の季節。少しずつこの場所も太陽の国から上る朝日が、レベジェフ王国の寒気からもたらされる雪を溶かしつつあった。

 出窓からは、この城を守る騎士たちが門の左右に立ちはだかっているのが見える。心なしか、そのほかの騎士たちの足取りが軽く、浮足立っているようにも見える。


 それもそのはずだ。

 今日は、カルシュ王国の国王であり、イリーナの夫でもあるアドルフが、数か月間の遠征から帰国し、イリーナの城へ来城して数か月間の休暇を得る日だった。

 ジャリ、とイリーナの手の中にあるハンカチで丁寧に包まれた懐中時計が、音を立てて存在を主張する。これは、遠征前にアドルフが彼女に預けた彼の宝物だった。

 イリーナのもとへ無事に帰ると約束するアドルフのあどけない笑みは、齢21の若い青年そのものであり、あまりに国王とは思えない優しい瞳をしていた。


 ファンファーレが鳴り響く。

 帰城の合図だ。驚くことなく、イリーナは視線を下げ、門を見つめる。そっとその門をなぞるように細く長い指を窓にそわせた。

 ゆるやかに開けられる門から、真っ白に輝く毛並みと立派な筋肉を持つ王室の馬を先頭に、次々と遠征から帰還した王立騎士団の軍勢が城内へ入城した。

 イリーナは、一言も発することなく、その先頭の馬を見つめる。疲れた顔をしている。きっとここまでの道のりは長く、険しいものだったのだろう。

 いいえ、それだけじゃない。

 イリーナの瞳が少しだけ上を向く。馬の、上。その白馬の上に乗る人物は、アドルフだけではなかった。

 桃色のドレスを身にまとい、ふわふわとした金色の長い髪を揺らす年若い女性を、アドルフが後ろから抱きしめるように馬に乗せていた。

 イリーナの薄い唇から、息が漏れた。



「来たわね」


 イリーナは立ち上がり、城のメインエントランスへと続く廊下を歩き始めた。



どうぞ気長にお付き合いくださいませ。

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