30 バカは●ぬまで治らない
「で? どのようなご用件でおいでになりましたの?」
つめた~い視線でトーマスを眺めるイリーナ。
ここは客室。
イリーナとトーマスがテーブルを挟んで向き合いソファーに座る。
誕生日のティーパーティーは仕方なく彼を同席させたが、始終自己顕示欲満載のお喋りを繰り広げないよう横に張り付きキッチリ御令息を制御して、恙無く終了時間まで気を張って過ごしたイリーナである。
友人達が不快な思いをしないように気を配っただけで、全くもって他意はない。
例の3人組が同情の視線を寄越していたのが、非常にいたたまれなかったが。
彼女のお友達は全員、麗しの女性近衛騎士ジュリーのおもてなしで十二分に満足して帰って行った。
「素敵なお母様ができてよろしかったですわね!」
「ホントに綺麗なお方ですわね~」
と、大いに義母を褒められ嬉しい反面、キャッキャと彼女たちがジュリーに纏わりつくのを見るうちに胸の中がモヤモヤして来て、しまいには何故かイライラしてしまったイリーナ。
そのくせ彼女が自分に微笑みかけてくれると顔が赤くなり、恥ずかしくなって胸がドキドキするのだ。
――きっとお義母様を好きすぎてヤキモチを焼いてるんだわ恥ずかしい・・・私のお友達に良くしてくれてるだけなのに。私ったら心が意外と狭かったのね・・・
お茶会の後でちょっぴり反省したイリーナ。
――だって大好きなんだもの。お父様の大事なお嫁さんなんだし・・・
そう考えると、又モヤモヤする自分に気が付いて、首を傾げるイリーナ。
――おかしいわね? 私ったらお父様にまでヤキモチ妬いてるのかしら?
きっと気のせいだわと考え直すイリーナ。
それより眼の前に座る面倒なこの婚約者をとっちめるのが先である。
「で? 貴方様は何故、今日の茶会においでなさったのですか?」
しかもこのご令息。
イリーナの誕生日だというのに彼女にプレゼントどころか、花すら持ってきていないという体たらくである。
なのに何故か、『美しい女神ジュリー嬢へ』というメッセージカード付きの赤い薔薇の花束を玄関ホールで執事に渡したらしい・・・・
『バカは死ぬまで治らないって言うからな・・・』
その場に居た執事を筆頭に召使い達全員がそう思いながらトーマスに呆れた視線を送ったのは言うまでも無いだろう。




