28 馬車の中での密談
「閣下、陛下の考えた作戦の通り下準備はバッチリです。が、ドレスは勘弁です」
馬車の中で揺られながらジュリアンが将軍に向かってアルカイックなスマイルを見せる。
それを正面から見ながら渋顔になるのはこの国の英雄、カルザス将軍閣下である。
「ジュリアン。そんな格好でいいのか? 令息が来るんだろう?」
「アイツは、真正のタラシなんで服装なんか気にしませんよ」
肩を竦めるジュリーは今日も女性近衛騎士の制服である。
「そうかな~」
「アイツぶっちゃけ女の顔しか見てないですよ。俺とアイツ、下手すりゃ俺のほうが背が高いけど全無視ですよ。ある意味大物です」
「確かにそれに近い報告はあったがなぁ・・・」
「大体、閣下がエリザベスと恋仲なら最初っからアイツにこの役を振ったら良かったんすよ?!」
「いや、俺はアイツとそういう仲じゃ無いぞ! そ、それに女性近衛に頼めんだろうがっ!」
顔を赤くして急に慌てるカルザス将軍に、疑いの目をちらりと向けると。
「閣下もまんざらじゃないくせに」
「うっ・・・」
その言葉に思わず詰まる将軍にシラケた視線を真正面から送るジュリアン。
「し、しかしだな、彼女はまだまだ若いんだぞ? それに比べて俺は35歳の子持ちだ。しかも元平民の半端貴族だ。結婚なんて無理だ」
「そんなの、エリザベスが気にしますかね? アイツだって貴族の娘としてはもはや行き遅れですよ。俺より4歳年上でしかも伯爵家の三女です。本人が騎士爵を賜ってるから大丈夫ですけど、下手すると裕福な商人辺りの後妻として嫁がされて平民行きですよ? まあ黙って親の言う事をきくようなタマじゃないでしょうが」
「お前詳しいなぁ」
「閣下。俺、特殊隊の師団長ですよ? 最近女装趣味の変な奴って認識が広まってますけどねっ」
最後の方は間違いなく嫌味である。
「スマン」
「まあ、俺も閣下に胃袋で自分を売っちゃったからしょうがないんですけどね」
はぁ、と溜息をつくジュリアン。
「まさか女嫌いの自分が、閣下のお嬢さんにイチコロで惚れるとは思いもよらなかったですし・・・すみません」
将軍の苦虫を噛み潰したような顔に気が付きつい謝るジュリアン。
「父親としては複雑な心境だ。あのボンクラに比べれば、遥かに自分の娘の事を本気で大切に思ってくれているのは分かっとるんだがな・・・」
父親という人種が何処かの馬の骨に――自分の部下だが――娘を嫁に欲しいと言われれば、つい額に青筋が立つのはどこの世界でもお約束なのだろう。
「お願いですから、熊みたく俺を絞め殺さないで下さいよ・・・」
ちょっとだけ顔が引き攣る部下。
ジュリアンが熊の代わりに屠られる前に、馬車は無事カルザス邸に着いたようだった・・・