27 誕生日の出来事
今日は、イリーナの16歳の誕生日だ。
この国の成人は18歳と定められているが、保護者の承諾さえあれば結婚も可能な年齢である――貴族の場合は国王陛下の許可も必要となるが――
貴族も平民も関係なくこの年齢の誕生日は殆どが昼間に家族親族だけでなく、友人を招いてティーパーティーをする。
夜会を主催するにはまだ大人とは認められていないからだ。
「今日は、お友達にお義母様を紹介しなくちゃいけないわね」
メイドに着替えを手伝ってもらいながら、嬉しそうな顔をするイリーナ。
イリーナの髪の毛を結って髪飾りをどこにつけるかを迷っていたメイドがちょっとだけ困り顔になったが、
「そうですねぇ。お2人共今日は午前中でお暇してくるそうですから、きっと大丈夫ですわ」
「何もないといいんだけど・・・以前の誕生日には急に隣国が国境を越えて攻めてきたでしょう? 大騒ぎで誕生日どころじゃなかったから」
思い出して眉を下げるイリーナと、メイド。
「旦那様も慌てて登城されましたね」
「そうよね。そのまま両国が睨み合いになっちゃって、お父様帰って来れなくなったのよね・・・」
去年の出来事を思い出し苦笑いをする2人。
「平和になって良かったわ。これもお父様のお陰よね」
「そうですね」
ただ、その為にイリーナが寂しい思いをしたことを知っているメイドはなんとも言えない顔をする。
「今は優しいジュリー様もいますからね」
『でも、あの人男性なのよねえ~ どうするんだろ・・・?』
「そうね! 私、お母様が死んじゃってからは大人の女の人とお茶とか刺繍とかしたことなかったでしょう? お義母様が来てからは毎日が凄く新鮮なの!」
「ようございました」
『確かに男にしとくには勿体ないような刺繍の腕前だったわねえ・・・』
「お茶の作法だけじゃなくって、お茶会の時の貴族同士の嫌味や牽制の方法なんかは家庭教師の先生も学校も教えてくれないでしょ? 凄く勉強になるのよね。これから社交スキルとして必要だから覚えなさいってお義母様が言ってたわ」
「流石ですね」
『ホントに男にしとくには惜しいわねえ~・・・』
「このままずっとこの家の子でいたいけど、無理なのかしらね・・・」
「お嬢様・・・」
メイドとしんみりしそうになったところに、執事がノックをして現れた。
「御主人様達がお帰りになられましたよ、お嬢様」
「ホント!? お迎えにいかなくちゃ」
鏡の奥のイリーナの顔が嬉しそうに輝く。
イリーナの喜ぶ姿を見て執事とメイドはそっと微笑んだ。