26 ハーブティーの香り
ざっくばらんで美味しい食事とイリーナとの食後の楽しいお茶の時間も終わり、入浴を済ませた後は女主人の部屋に撤収して部下に集めさせたセイブル伯爵家の分厚い資料に目を通すジュリー。
「ウ~ン、伯爵夫妻は特に問題もないごく普通の貴族だな。なんで息子だけがあんな女タラシになっちゃったんだか・・・」
次にタラシ本人である、トーマス令息の動向を調べさせた資料に目を通していく・・・
「何で次のターゲットが俺なんだよ。アイツ、バカなの?」
この資料を作った部下の困惑顔が目に浮かぶ。
ジュリーは眉間を右手で揉みながら
「やっぱり陛下の案がいいかも知れん・・・」
そう呟くと次の資料に手を伸ばす。
刻々と時間は過ぎ、そろそろ就寝の時間である。当主であるカルザス将軍は、隣国との補償会議で遅くなる予定だ。
「戦争にならなくて良かったけど、その後の処理があるからしょうがねえか」
将軍もイリーナが寂しくないように偶には早く帰って来れりゃいいのになぁ・・・
そんな事を考えながら次の資料の封を開けようとして、ん? と止まった。
「そっか、だからパジャマパーティーとか言って俺んとこに来ちゃうのか」
15歳か。微妙な年齢だよな――
15歳。
大人のような子供のような、微妙な立ち位置に周りからされがちな時期。本人も大人になった気になって背伸びしても、どこか子供の自分が顔を出しては不安になる年頃だ。
「頼りたい親が側に居てほしいのかもな・・・」
しんみりした気分になりかかった時、感覚が鋭いジュリアンはハーブティーの香りと一緒にイリーナの軽い足音が近づいて来ることに気がついた。
「お義母様、ハーブティーをお持ちしました」
ドアの外でイリーナの鈴を鳴らすような声がした。
「だけど、俺、男なんだよな~・・・」
トホホと天井を一度見上げてから、ドアを開けるために席を立ったジュリアンである。
窓から綺麗な星空が見えていた・・・