20 目が覚める(見た目だけ)王子様
「ジュリーさん、アレが我が家のお嬢様の敵でございます。イヤ、もう我ら召使い一同一致団結して敵認定してはおりますが。宜しくお願いいたします」
一方、馬車の中でお付きのメイドがジュリーに説明をする。
「はあ、アレがか? 確かに見た目は王子様だなー」
「見た目だけに御座いますので、気をつけて下さいませ。特にお嬢様に指一本触れさせないようお願い致します」
「・・・ボディーガード?」
「似たようなもんで御座いましょう」
「へいへい。じゃあ、降りるか。坊っちゃんを蹴散らしてくっぜ~」
メイドが宜しくと頭を下げ、それにサムズアップを返すと、馬車のステップを降りて軽快な足取りでイリーナの隣に並び彼女の手を取り、エスコートをするように持ち上げた。
「イリーナ、此方の方々はどちら様? お友達でしょうか?」
背の高い赤い騎士服に見事なミルクティーブロンド。
深い森のような緑の瞳は切れ長で美しい。烟るような睫毛が瞳の周りを彩り、まつげの長さが余計に強調され夢見るような瞳に見えている。
すうっと通った鼻筋と高く形の良い鼻梁の下に薔薇のように赤い唇が弧を描いているのが蠱惑的だ。
風が吹いて肩に掛かっているショート丈のボレロの上に陽を受けた美しい髪がフワリと広がった。
『やっぱりお義母様、綺麗だわー。それに騎士服も凄く似合っていて素敵!!』
ポーっとなるイリーナは若干顔が赤いような気がするが、この国でも珍しい女性騎士を見た少女達の反応は十中八九、こんなもんである。実にノーマルな反応だ。
――まあ、ジュリーの中身は女性ではないのだが。そこは割愛だ――
「お義母様、此方トーマス・セイブル伯爵令息ですわ」
「ああ、貴方が。私の可愛い義娘の婚約者様ですか。初めまして、私はジュリー。彼女の父である将軍閣下に嫁ぐ予定の者です。今日は制服ですのでこれでお許しを」
そう言って、優雅に騎士の礼をする。
『単にコイツに膝を折りたく無いだけだがな。イリーナの婚約者ってだけで羨ましいのに畜生・・・』
腹の中で毒づくジュリー。
――この男、意外に嫉妬深いのかもしれない・・・