19 トーマス・セイブル ―未知との遭遇再び―
平民街の雑貨屋でパパーっと済む買い物ならいざしらず、学校指定のノートは貴族街の紙問屋にしか置いていない。
残念だがそれが仇となったようだ。
そこに立っていたのは金髪碧眼の王子様。
ではなく、王子様もかくやと言わんばかりの美貌のセイブル伯爵家の御令息、イリーナのきっと多分婚約者の筈のトーマスである。
何故か、学園での取り巻きの上級生のお姉様方を6人ばかり引き連れ、ガラス張りの雑貨店へと入る所のようだ。
彼女達の中には株の大暴落時の顔ぶれは見当たらないようである・・・
「やあ、イリーナ買い物かい?」
「ええ、トーマス様も。今日はまた一段とお友達が大勢ご一緒のようですわね」
そう言って、ニッコリとアルカイックスマイルを小さな顔に貼り付け扇で隠すイリーナ嬢。
「そうなんだ。僕にペンダントを選んで欲しいと言うのでね。少々大勢だから時間が掛かりそうだよ」
嬉しそうにニコニコと笑いながら答えるトーマス。
「もうすぐ卒業式だろう? 交換用のロケットペンダントを選ぶんだよ」
卒業式に友人同士や在学中の婚約者同士がお互いに学生時代の思い出としてロケットペンダントを贈り合うのが流行っているらしい。
お互いの写真や一緒に写した写真を入れて学生時代の思い出として交換し合うのだ。
しかし・・・トーマスはこんなに大勢の友人達、しかも異性と交換するのだろうか・・・?
『唯一無二の親友や仲間、恋人同士、婚約者』と交換するのでは無かっただろうか? とイリーナは小首を傾げる。
流行りの最先端なので詳しいことは知らないからなぁ・・・まさか、全員がトーマスと交換するつもりじゃ無いよね?!
ちょっとだけイリーナは遠い目になった。