17 天を仰ぐ男
「もう~、お義母様と馬に乗ってお出掛けしたかったのに・・・」
散々義母の女性近衛の制服姿を褒め称えた後、伯爵家の御者兼馬丁が操る馬車の中で急に朝の事を思い出して口を尖らせてむくれるイリーナ。
実はイリーナ嬢、朝から愛馬に鞍を着けて近衛服姿の義母と相乗りで出掛ける気満々だったらしい。
鞍を持ち出した所を厩番に見つかり、連絡を受けた執事と着替えを手伝う予定だったメイドが走ってきて、2人に鞍を取り上げられて乗馬服はドレスに無理矢理チェンジになった。
「馬のほうが身軽なのに・・・」
「イリーナもしかして本気で相乗りで行くつもりだったの?」
「はい! 父様とよくそうやって買い物に行ってたんです! お義母様なら大丈夫ですよね? セバスチャンはもう無理だけど・・・・」
最近は、めっきり乗る機会も減ったらしいが彼女は小さい頃から馬が好きで父の手ほどきで女性とは思えないくらい乗馬が上手いとのこと。
因みにセバスチャンは老齢の執事だが、5年前迄は乗馬の並走や相乗りにも付き合ってくれたそうなのだ。
イリーナと自分が馬で相乗りとかとんでもねえ、将軍に殺されるよと目眩を覚えて額を押さえるジュリアン。
いくら女性の姿をしていても生理現象は止められない・・・ずっと色事はご無沙汰とはいえ、ジュリアンのジュリアンJr.はいまだに現役である。
朝も本体に無断で勝手に起きて、早く起きろと主張する位だ。
気になっているイリーナを自分の前に載せて乗馬なんて、天国を行き抜け、地獄の1丁目に最速で到着するに違いない・・・
「乗馬はまたの機会にね?」
「はい、約束ですよ。お義母様!」
そう、イリーナにいい笑顔で返された。
引き攣り笑いで義娘(仮)の横に離れて座るメイドを見ると、困った顔で眉根を寄せ同情の意を示されたが同時に口元がニヤニヤしているのも見て取れる。
どうやら彼の気持ちは屋敷の召使い全員にだだ漏れらしい。
思わず馬車の天井に視線を向けて天に向かって祈ってしまうジュリアン。
ちくしょう! せめて将軍には気がつかれていませんように。
と――。