15 続・ゴリラの娘はリスでした
玄関ホールでご対面した途端ジュリアンの緑の瞳はその娘の姿に釘付けになった。
身長は執事が言っていた通り低かったが、他の部位は年齢なりの成長を文句無しに遂げているように見受けられた。
少しウェーブした艷やかな茶色い髪はふんわりしていて、黄色いリボンでハーフアップにされ、動く度にフワリと揺れる。
冬の空のような大きな瞳に掛かる長い睫毛はクルンと自然にカールしていて透き通る灰色がかった水色に優しい影を落とし、形のいい唇は紅も引いていないのに、美味しそうなさくらんぼのようにぷっくりと艶々していた。
優しげな柳眉の間から真っ直ぐ通った鼻筋の下に続く、小さくツンと上向きの鼻梁はちょっとだけ生意気そうに見えるが、それが余計に幼く見える要因だとジュリアンは気がついた。
そしてそれら全部のパーツが小さな顔の中にとても愛らしく配置されている。
頬は薄いバラ色をしていて、肌自体は健康的な真珠色をしており、コルセットで締め付け過ぎで青ざめた貴族の女性にはない美しさだと思った。
好奇心に満ちた瞳がキラキラと輝き、こちらを何の衒いもなく真っ直ぐ見据えている。
『森の妖精みたいだ・・・』
柄にもなく乙女チックな思考をする自分に驚き、ジュリアンは一瞬呆然とした。
もうすぐ16歳になると聞いているので自分との年齢差はほぼ7歳か? と何やら唐突に頭で計算する自分に首を傾げていたが、その間も上司は淡々と自分の事を紹介していたようで
「では『ジュリー様』の事は、お義母様とお呼びしたら良いのでしょうか?」
と屈託のない笑顔をこちらに向けるイリーナが、自分のあだ名を呼んだ瞬間に胸が高鳴り何故か頭の中を、例えるならば『ズガーンッ!!』という衝撃が走った――
どうやら一目惚れとは、こういう事を言うのだと、後で知ったジュリアンがその夜頭を抱えたのは言うまでも無いだろう・・・