13 胃袋で自分を売る男
「それどころか、伯爵とその嫡男が王妃のお陰で婚約が整ったと、親戚中に触れ回ったらしくてな・・・」
ああ、頭が痛いんですね分かります、担当の根回しがすっぽ抜けてたんですね多分。
と、神妙な顔をするジュリアン。
実際に国王は頭を抱え、将軍はこめかみを押しているからだ。
「貴族や官史の不正を正すためだったとはいえ、王妃の、つまりは王家の失態になるわけにもいかんのだ。しかしこのまま嫌がる将軍の娘をそのまま結婚させるというのも申し訳無い。何しろその嫡男は評判が悪くてな。セイブル伯爵自体は真面目な当主なんだが・・・」
「はぁ、証拠を集めて婚約白紙にすりゃあいいんじゃないですか?」
「証拠が無いんだ」
「へ?」
「市井で遊ぶなら、相手は平民だ。ヤツは遊びとして割り切ってくれる相手を選ぶため、何の咎にもならん。貴族の子女の場合は傷物と噂されるのを親が恐れて握り潰し、全員が即嫁に行かされる。そもそも付き合った女性全てがソイツと別れた後で、《《あれ》》に比べればどんな相手でも素敵だと・・・」
「ある意味その男、縁結びの神ですか?!」
呆れ顔のジュリアンと渋顔の国王と将軍。
「まあ、そんなわけだ」
「は~・・・」
「これ以上貴族の数を減らす訳にもいかんのだ。貴族院の議員も足りなくなるし役人も足らなくなる。国の税収もそうだが、人手が不足するのが1番困るのだ」
渋顔のまま続ける国王陛下。
「こないだの事件で、随分減りましたからねえ貴族家・・・」
「だからな、お前が俺の嫁になって、その嫡男の弱みを掴んでくれ」
「いや、影でいいでしょっ?」
「俺の私情で軍を動かせんだろう? 身内なら構わんが」
「えええぇ~、タダ働きですか?」
「宿舎よりはいい暮らしができるぞ。俺の家は元平民だから召使いもざっくばらんで飯は市井寄りだからお前の好きな食い物が多い」
「え、お貴族様の格式張ったフルコースじゃないの?」
「バイキング式だ」
「やります」
そんな訳で。
胃袋で自分をあっさり売ったジュリアン(♂)は、カルザス将軍の嫁(仮)として、娘の(ホントは仮の)婚約者の不貞の証拠を掴み、婚約を文句無しの白紙にするという任務(上司からのお願い)に従事する事になった・・・
ややこしい。