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【短編】恋愛短編シリーズ

脱いだらすごいのよ

作者: 烏川 ハル

   

 法子(のりこ)から彼氏を紹介された時、私はちょっと驚いてしまった。

 彼女の好みとは真逆(まぎゃく)であり、聞いていた話から想像するイメージとも全く異なっていたからだ。

「初めまして。相田(あいだ)悠介(ゆうすけ)です」

 さわやかな声と笑顔に、さらりとした前髪がよく似合う。それが第一印象だった。

 体はすらりと細身で、年上なのに年下っぽく見える顔立ち。頼りたくなるというより、むしろ庇護欲を掻き立てられる雰囲気を醸し出していた。

「こんにちは、由美(ゆみ)です。法子とは中学からの付き合いで……」

 驚きを顔には出さず、私も笑顔で挨拶するが……。


 法子は同性の私から見ても可愛らしく、もちろん男の子からもよくモテた。告白されて断ることも多かったが、付き合うことも何度かあった。

 これまでの法子の彼氏は、勉強よりも運動が得意なタイプばかり。筋肉達磨という言葉が思い浮かぶほど、筋骨隆々な男の子もいたくらいだ。

 大学生になって、彼女も趣味が変わったのだろうか?


「ねえ、法子。あなた確か『すごい筋肉なの。いわば彼の筋肉に一目惚れしたようなものよ』って言ってたわよね?」

 彼には聞こえないよう、こっそり法子に尋ねると、彼女は意味ありげに笑った。

「フフフ……。こう見えて彼、脱いだらすごいのよ」



 それから約3ヶ月後。

 法子や悠介くんと一緒に、海へ遊びに行くことになった。

 普通ならば友人の彼氏の肉体に興味を(いだ)くこともないが、法子の「脱いだらすごい」が頭に残っていたので、つい「悠介くんの筋肉を見られる絶好の機会!」と思ってしまうが……。

 夏の太陽に下に晒された、彼の裸の上半身。それは筋肉質でも何でもなく、ごく平凡な体だった。

 がっかりする私に、法子が耳打ちしてくる。

「ね? 素敵な体でしょう?」

 法子は真剣な目つきをしていた。

 あばたもえくぼとか恋は盲目という言葉もあるように、どうやら彼女には私と違うものが見えているらしい。




(「脱いだらすごいのよ」完)

   

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