エピローグ うーちゃんと、取り戻したいつもの日常
ピ――。ピ――。ピ――。
暗い工場に、一定で、高い周波数の、不気味な電子音が響いている。
ガス検知計は静かにしている。変な臭いもしないし、脈拍もだいじょうぶ。
この工場に入るのは3度目になるか。
最初に入った時から特に変わったところはない。このまま明日とか一週間後とかにまた入っても、何も変わらないんじゃないかという気がしてくる。
それどころか、何時まで経っても変わらないんじゃ、という気さえしてきた。
昔、有名だとか言うナントカ鍾乳洞に立ち寄った時と同じ、時間が止まっているかのような感覚。
違うと言えば。
「絢ちゃん、何探すんだっけ?」
今回は宇々ちゃんと一緒。
無停電電源装置だよ、と何度も繰り返した回答をすると、ふぅん、と分かっていなさそうな視線が帰ってくる。
それが何だか面白くて、装備の重量も忘れることができた。気軽な足取りで幾何学的な洞窟を進んでいく。
――♺――
道は覚えていたし、電子音が大きく聞こえる方に歩けばいいから、制御盤室まで迷うことはなかった。両方の壁際には自動販売機のような箱が整然と並び、暗い奥の方へと続いている。
工場の機械を動かすための神経が集まる場所。人が作った直線の洞窟のなか、アラームのような規則的な音は、私の足元から聞こえている。
ブーツが踏んでいるメンテナンスダクト、金属で編まれたマフラーのような、グレーチングの下だ。持ってきたバールでグレーチングを剥がし、1.5mくらい下へ降りる。
「そうそう。これこれ!」
あの時見つけたUPSは狭いメンテナンスダクトの中に鎮座して、バッテリーが劣化してるぞ、と叫び続けている。
ホルスターから電動ドライバーを抜いて六角ネジを外し、UPS自体の電源を落とすと電子音は静かになった。両の手袋を引っ張って気合を入れてから、感電しないよう配線のコネクターを外して。
「うーちゃん、これ持ち上げられない?」
「やってみるー!」
うーちゃんはメンテナンスダクトへすとんと身軽に着地すると、指と力がかけられる取っ掛かりを探す。私が前に持ち上げようとした時は重くて全然ダメだった。けど。
「ふんッ!」
うーちゃんが奥歯を噛みしめて全身に力を入れると、あっさりと持ち上げてから頭の上に乗せて、バランスを取った。
「重いなあ、これ」
ぶつくさと文句を言いながら、グレーチングの上に置いてしまう。それはもうあっさりと。
「ふふ」
「何か面白いことあった?」
うーちゃんがクエスチョンマークを浮かべて聞いてくる。もちろん皮肉ではなく、そのままの意味。純粋に質問しているだけなのは分かっている。
「ううん。儲けられそうだなって」
目の前の友達は、にしし、と屈託なく笑った。
後は台車か何かに乗せるだけ。そう思いながら無線機のスイッチを押す。
「往子ちゃん? こちら絢。
え? 緯兎ちゃん目、覚ましたの? それで?
自己診断プログラム……。あ、はは、また寝ちゃったんだ。
良かった。慧摺ちゃんも心配そうにしてたし。
うん。あ、そう。UPS持って帰れそう。
工場から出たら、人工馬に手伝って欲しくて。
うん。
うん。
うん。
大丈夫。今から戻るね。
今日は私が奢るよっ」




