閑話8.別離
大雨が降って地下浸水に見舞われた日のことだ。
その地下の廃墟には大量の部品と食料がきれいな状態で残されていた。それこそ、石塚組を1カ月の運用資金となり、食わせられるくらいの物量が保管されていた。滅多にお目にできない幸運だったと思う。
私たちが大喜びしたのも束の間、
「全員でパソコン部品を外そう。金の含有量が多い」
「絶対に食料」
「メモリとかCPUなら私らでもたくさん持って帰れる」
「絶対に食料!」
慧摺ちゃんと宇々ちゃんで意見が割れた。
人手が5人分しかなかったし石塚組の皆を呼ぶには時間が足りなかったから、今日のバッグを何で埋めるかについてふたりとも譲らなかった。
「慧摺に賛成します。日光で収益はありませんでしたから」
緯兎ちゃんは部品を、
「食料が良いと思う」
往子ちゃんは食料を、それぞれ持って帰るべきだと主張した。
4人が私の方を見た。
どっちが良いかな、なんて考えていたら、私が何を言うかで今日の仕事内容が決まってしまう状況になっていた。
自分だけの意思だったものが、チームの意思決定にすり替わってしまっていて。
うーちゃんが目の前に来る。
「絢ちゃんは私の味方だろ?」
「えっと、うーちゃん。部品にしない? いーちゃんの言う通り前の仕事はあんまり稼げなかったし」
石塚組は食料より稼ぎを重視する傾向にある。だからこっちの方が喜ばれるだろうと。自分たちも組の一員としてもっと認められるようになるだろうと。
「……分かった。あーちゃんが言うなら」
その時、うーちゃんが浮かべた暗い表情を忘れることができない。
「明日! 明日も来よう? そしたら食べ物を持ち帰ろうよ」
「――うん」
結果的に、その"明日"が来ることはなかった。
大雨による地下浸水が起きた。開けた入り口から大量に入って来た水は私たちを追い詰め、辛くも脱出できた時には施設は水没してダメになっていた。
――♺――
地下浸水の後、私たちを食糧難が襲う。
動植物のまったくない、本当に不毛の荒野を進んでいた時、商売道具である大型のトラックが故障した。
置いていくわけにはいかない。取りに戻った時、他の土壌改善型新人類に持っていかれていない保証はないから。
修理ができるまで足止め。ジャンク屋なら、このくらいのトラブルはある。
2、3日で動くようになるという話が、
1週間になり、
3週間になり、
1カ月経ってしまった。
備蓄していた水と食料のほとんどがなくなり、先の見えない状態に石塚組の雰囲気も最悪だった。
うーちゃんには可哀想なことをしたと思っている。あの娘にとって食べることは、生きることそのものだったから。
ある日の朝、あの子の部屋に行くと姿がなくなっていた。「さがさないでください」と置手紙を残して。
怒ってくれた方が良かった。
えーちゃんにするみたいにもっと文句をぶつけてくれたら、どれだけ良かったか。
別れの言葉すら交わすことなく、彼女は行方不明になってしまった。
後悔は重い荷物を背負い込むかのようで。
あそこで食料を選んでいれば。
せめて人数を分けて両方運んでおけば。
うーちゃんがいなくなることはなかったのかもしれない。
――あーちゃんは私の味方だろ?――
「私があの娘を否定してどうなるの……」




