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ジャンク屋ちゃん! ~Scavenger Girls!~  作者: 山田擦過傷
1話:壊れた世界を直す旅
16/24

#8.友達ハンティング!

 


 男体山の辺りは戦場にならなかった。

 中禅寺湖の方から望めばきれいな円錐形(えんすいけい)の、標高2,486mの成層火山には多くの緑が残っている。


 草と土を踏みしめるたびに、熱と湿気を()びた森の香気が身体に入ってくる。


 夏とは言え山歩き。

 薄着という訳にはいかないから、長袖長ズボンに厚底のブーツ。サバイバルに必要な装備を背負っている。すぐに汗だくになった。


 杖にしている棒LED(バーライト)とバールが重く感じる。置いてくればよかったかな。

 小川のせせらぎを唯一の清涼剤にして、森の中を進んでいく。


 一番期待していた以前のキャンプ地は真っ先に探したものの、宇々(うー)ちゃんの姿はなかった。


 あの子どころか、森には満ち満ちるほどの命の気配があるのに、視界に入るのは草と虫くらいだ。潜在的にはたくさんの動物がいるはずなのに、その姿を(とら)えることはない。


 なんだか動物たちから一方的に見られているような、動きを監視されているような気分になってくる。


 がさがさ――、と。

 不意に物音が聞こえた。


 咄嗟(とっさ)に目を向けたのと、数羽の黒い鳥が飛び立ったのは同時だった。


「なんだ、カラスか」

 何もない。誰もいない。木の高いところで枝が揺れているだけだ。こんなことが何度も続いている。やっぱりあの子は日光にはいないんじゃないか。そんな気がしてくる。


「ここには……いない……んじゃないか……」

 ぜえぜえはあはあと肩で息をする慧摺(えー)ちゃんにそう言われてしまった。何か言い返そうとしたが、持久力に優れると言われる「ア」型土壌改善型新人類ハイパーアキュムレーターの私でさえキツイ登山だ。体力のない「エ」型の彼女にはつらいだろう。


 緯兎(いー)ちゃんと往子(おー)ちゃんは、高性能な「イ」型の身体能力(フィジカル)とオフロードバイクで山を走り回っているはずだ。


 日も傾いてきた。


「キャンプに戻ろっか」

 そう言うと、えーちゃんはほっと息を()く。

 結局、うーちゃんのいた影も、えーちゃんへの反論も、見つからなかった。



 かつては赤く塗られていたのだろう、大きな鳥居が立っている。


「そっちは何か見つけた?」

 聞くと、いーちゃんとおーちゃんは(そろ)って首を横に振った。


 日が暮れる前に下山して、中禅寺湖(ちゅうぜんじこ)のそばのキャンプに戻って成果を報告し合うが収穫はないみたい。あと残り5日で宇々ちゃんを探し出して、石塚組のところまで戻らなくちゃ。


 ざらざらとした焦りを背骨の辺りに感じる。


 えーちゃんは缶詰の焼き鳥を串でつつきながら、

「男体山ってエリアを絞ったと言っても、山ひとつだ」

「えーちゃんでも居場所の想像はつかない?」


 あいつは動物すぎるからなあ、と諦めたように呟いている。えーちゃんくらい頭が良くても、宇々ちゃんの行動は読めないのか。


「闇雲に探してもダメだろうな。宇々(うう)のいた証拠を探していこう」

「証拠……証拠か」

 えーちゃんは串に連なった焼き鳥を焚火で温めている。


 うーちゃんは石塚組で色々なことを学んでいたはずだ。飲み水の確保。食べられるもの、食べられないものの見分け方。手軽に火を起こすやり方。簡単な材料でシェルターを立てる方法。


 自然だらけの山でそんな文明の片鱗が見つかれば、そこにはうーちゃんがいた証拠になるかも。そこから追えるかもしれない。


 探すべきは、人が暮らした痕跡(こんせき)


「ウ型のハイパーアキュムレーターは、その土地において侵略的外来種になりうる。在来種を食い荒らせる性能(スペック)だ」

 えーちゃんが言う。


「山の王になっててもおかしくないよね」

 おーちゃんが変な(たと)えを出して、


「大型の哺乳動物がいた形跡を探しましょう」

 いーちゃんが(うなず)いた。


 …………。

 みんな、うーちゃんのこと何だと思っているのだろう。



 ――♺――



 ふと目を覚ますと、まだまだ夜だった。

 深夜だろうがテントから身を出そうが、蒸し暑さは変わらない。ちょっとトイレを探して……喉も乾いた……。


 月明りでじゅうぶん明るかったから、目をこすりながら彷徨(さまよ)っていると、話し声が聞こえてきた。


「いつまで付き合うつもりだ?」

「最後まで」


 咄嗟(とっさ)に物陰へと身を隠した。

 物音を立てないようにして様子を(うかが)うと、月明りに照らされて、手すりに肘を付いて静かな湖を眺める、えーちゃんとおーちゃんがいた。


「本気かよ」

「うん」


隠れる必要はないし、盗み聞きするつもりもなかったのだけど、何となく、体育座りの姿勢から動けない。


「時間が解決するだろ。そのうち」

「そうだね」


「うー子と合流できたところであいつが自信を取り戻すとは限らないし」

「……」


 私の話をしている。心配しているような声色で。

 抱えた両膝(りょうひざ)に視線が落ちる。


「もし、うー子が死ん――」

「それでもね」


 身体がビクつく。

 直視してこなかったリスク。危険が満ちるこの世界で行方不明になったあの子が、この世にもういないかもしれないという悲観を、


「壊れてしまったものは元には戻らない。(あやま)ちは取り戻せない。だけど――」


 おーちゃんは(さえぎ)って、


瓦礫(がれき)から新しい世界をつくることはできる」


 誰かの言葉を(そら)んじるかのように、静かに続けた。

 ため息交じりにえーちゃんは呟く。


「うー子が見つからなかったら。石塚組に戻れなかったら……」

「その時は、独立しようか」


「おい、私といー子も道連れにするつもりか?」

「うん。来てくれるでしょ」


 はっはっは、とえーちゃんは笑った。


「どうしてそこまでやる?」

「私はまた、あーちゃんの、どこまでも突き進んでいく姿が見たいから」



 ――♺――



 空を見上げると、ピカーンと効果音が聞こえてきそうな晴天だ。


 蒸し暑さで目が覚めると、もくもくと巨大な入道雲が沸き立ち。崩れたアスファルトが熱気を放って、ゆらゆらと揺れているように見える。


 あれから2日間、山を駆けまわって見つけたのは、


 倒されて食べられた草、

 水分を含んだ動物の糞、

 爪痕の付いた木の幹、

 打ち上げられて頭だけになった川魚、

 人のものではない足跡。


 大型の哺乳動物がいるのは分かったが、人為的(じんいてき)なものは何も。


「喉乾いた」

 誰に聞かせるでもなく独り言を言うと、動物が集まりそうな水辺、つまり水源を中心に探そうという意見が出た。


「えーちゃんは?」

「夏バテです。キャンプにいると」

 いーちゃんが答える。


 仕方がないから、三人で手分けして山に入った。


「うーちゃん」

 草の根を分けて探す。


「いる……?」

 山に満ちる命に突っ込んで探す。


「また会いたいよ――」

 常に納期(タイムリミット)が頭をちらつき、連日の猛暑を浴びて、人手も減った。

 ちょっと注意力が落ちていたのかもしれない。


 がさがさと茂みが揺れた。

 もしかして、と視線を注いで、背筋が凍った。


 黒い毛玉だ。

 無警戒にこっちを見ている。


 子供だ。動物の。

 心臓がガンガンと(はし)り出す。

 つまり――! 


 茂みの向こう、100メートル先で立ち上がったもっと大きな黒い毛玉。

 

 見据(みす)える眼光。


 3メートルはありそうな巨躯。

 

 フッフッと鼻で鳴らす興奮が聞こえる。


 ある日――


 森の中――――


 クマさんに出会ったたたたた。



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