これだからリア充ってのは
数秒がとても長く感じた。
心地の良い感触が離れると、花蓮は頬を赤らめながら恍惚とした表情をしていた。
「これで分かったでしょ。どっか行ってくんない?」
男に背を向けたまま花蓮は静かに呟く。
信じられない、と言った表情で後ずさるようにして男は去って行った。
ドキドキしているのはキスをしたかなのか、それともこんな出来事に巻き込まれて今更ながら恐怖を感じ始めたからなのか。
「ごめんね! あいつ、しつこくてさぁ!」
誤魔化すように明るく振舞うが、頬は未だ赤いまま。
その表情が可愛らしくて。
「あ、あのさ。状況が飲み込めないんだけど……」
そう言うと花蓮は事の顛末を話してくれた。
どうやらあいつはストーカーらしい。まぁそれは何となく分かってたけど。
先月、クラスメイトに人数合わせで連れて行かれた合コンであいつと知り合った。
それから猛アタックされ数回出かけたりしていたが、店員への態度やその他諸々が花蓮的に受け付けられなくて、告白を断った。
それからもしつこく花蓮に付きまとい、果てには学校で待ち伏せされたりとストーカー化した。
それで彼氏(仮)作戦を思いついた、とのことだった。
高校生で合コンとか、やはりこいつらとは住む世界が違うな。
それが率直な感想だった。
「それ、俺じゃなくて他の奴じゃダメだったのか?」
「私、男友達いないもん」
嘘つけ。絶対いるだろ。
お前らみたいな人種に男子が集まらないわけがない。
それに、その……可愛いし。
「今日、初めて話した奴にこんな大役任せると神経イかれてるぞ」
「いやぁまさか凸ってくるとはね。見せつけてやれば大人しく引き下がるかと思ってた」
それにね、と花蓮は付け加える。
「友達になってあげる、てのは嘘じゃないよ。最初はたー君が意固地になって拒否るから私も意地になってた感は否めないけど。今日、遊んで見て楽しかったし」
「さっきもそうだけど、そのたー君て何だ? 馴れ馴れしくないか?」
「あだ名。可愛いでしょ? それに–––––––––」
顔を背けながらボソッと花蓮は
「気に入ったって言ってたじゃん……」
急に風が強く吹いたせいで何と言っていたのか分からなかった。
「なんて?」
「何でもない!」
そう言って傘を拾った花蓮はこの日一番の笑顔を俺に向けた。
「もう少し遊んでこ! 夕飯も奢るよ!」
やれやれ、と俺も傘を拾って花蓮に並んで歩き出した。
あんなことがあってすっかり失念していたが、お互い雨に濡れてしまっている。
「こんなビショビショで店入ったら迷惑がられるだろ」
「あ、それもそうだね。じゃぁ、暖取るついでにホテルでも入る?」
「は、はぁ???」
ただのリア充かと思っていたが、ビッチでもあったとは……。
「ははは。冗談だよ。本気にすんなって。小雨だったし、濡れてるって言っても大したことないじゃん。このくらいなら迷惑にならないよ!」
不安が取り除かれたおかげなのか、俺を照らすかのように花蓮の表情は一段と明るいものになっていた。
未だドキドキしているのは花蓮の表情を可愛いと思ってしまったからなのか、それとも先ほどのキスがまだ尾を引いているからなのか。
乙女のような複雑な気持ちを抱えていたが、隣で楽しそうに話をしている花蓮は何も気にしていない様に見えて、膨らんでいた何かがシュンと萎む感じがした。
そう、俺は一日限定の彼氏役。
キスだって花蓮は数え切れないくらいしているんだろう。
ドキドキしているのは俺だけで、それもファーストキスだったせいだ。
勘違いしてあの男みたいにならない様にしないとな。
そのあとカラオケに行き、2時間たっぷりと歌いファミレスで夕飯をとって解散となった。
色々なイベントが発生してすっかり疲れてしまったが、花蓮と過ごす時間はなんだかんだとても心地が良かった。
「疲れた」
制服を脱ぎ散らかしたままベッドにダイブ。
このまま寝てしまいそうだ。
そこでふとあることを考えてしまった。
あの男、仕返しに来ないよな?
そんなことを考えたら、先ほどまでの眠気は何処へやら。
はぁ。厄介な友達を作ってしまったものだ。
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