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11 入学式


 入学式当日の朝、いつもより早く起きたローズは、素早く着替えると部屋にある大きな全身鏡の前で自分の姿をじっくりと観察していた。

 まだ、あどけなさは残るものの美しく成長している自分の姿を見つめ、鏡の前の自分の手と手を重ね合わせてみる。


 前世の自分が平凡だった事は覚えているが、もう ハッキリとした容姿は思い出せず、鏡の前に居る自分の方が馴染みつつあった。


 前世の自分が亡くなる直前まで通っていたような学校生活を、この世界でも送れるようになった事に、少しの期待と少しの不安を胸にローズは一度、大きく深呼吸した。


 この国では、身分制度を適用している為、この学園には平民も貴族も大勢通ってくる。

 なので差別化を無くす意味も込めて全員、同じ制服着用が義務付けられている。

 この国にある全ての学園が同じデザインの制服の着用を義務付けていて、ベージュのブレザーに金ボタン、袖やエリなどに茶色のラインが引いてある。

 女子は胸に茶色のチェックのリボンをつけ、男子はチェックのネクタイを締める。


 スカートはリボンと同様のチェックのスカートで男子は茶色のズボンを履く。


 前世の名残りでスカートを短くしたくなるのだが、きちんと膝丈で着用しないとルイとジュリアスが鬼の形相で直しそうなので、とりあえず規定通りに着用していた。


 鏡の前の自分を見つめながら、なんとなく懐かしいような、全く新しい様な、なんだか落ち着かない気持ちを胸に押し込めてローズは自分の部屋を後にした。




***


 

「おはようございます。クロード父様。

 ルイとジョイもおはよう!!」


 ローズが部屋を出ると既にクロードが書類片手にソファに腰掛けており、ルイとジョイも真新しい制服に身を包んでローズを待っていた。


「おはよう。ローズ。学園の制服とても似合っているよ!!まるでローズの為だけに作られた服みたいだ。

 寧ろ似合い過ぎていて男性達が卒倒するんじゃ無いかって心配になるよ……」


 ローズが扉を開けた途端、まるで瞬間移動でもした様にローズの側まできたクロードは、ローズの両手をそっと持ち上げると少し屈んでおでこを付ける。


「ふふっ。父様は身内贔屓し過ぎですよ!!

 これで卒倒していたら、綺麗な人が沢山いる社交界になんて出られないんじゃ無いですか!?」


 ローズは、朝から親バカ全開のクロードに対してクスクス笑いながら答えているが、クロードは、社交界の中でもローズは ずば抜けて美しく成長してるんだから呑気に構えていたらダメだよと朝っぱらから真剣な顔でローズを諭しだす…

 ……が………今一、本気にして貰えなかったようだった……


 そのままクロードを交えて朝食を取ると、ローズ達は入学式に向かう為クロードに挨拶する。


「クロード父様。では、行って参ります」


「「行って参ります!!」」


「ルイ。ジョイ。この先は、私達はローズを見守る事が出来ない。

 しっかりと頼んだぞ!!」


「「はい!!!」」


 ルイとジョイをしっかりと見据えると、断腸の思いでローズを託す。

 ルイとジョイもその想いに応える様に力強い返事をし返した。


「ローズ。学園は家と違うんだから迂闊な行動をしてはいけないよ。

 好意的に寄ってくる男性達にも常に警戒心を持って接しなさい。

 授業以外では、絶対にルイとジョイから離れてはいけないからね!!

 はぁ………心配すぎる……やはり公爵家に連れて帰ろうかな………」


 クロードは、いつまで経っても不安が拭えないのか、ローズの両手を握ったまま何度も注意を促し中々手を離す事ができない………


「もう……お父様は本当に心配性なんですから……大丈夫ですよ!!

 では、行って参りますね!!じゃあ学園の入学式で!!」


 クロードの切なる思いなど軽く遇らうように、一度クロードの手をギュッと握り返すと上目遣いに可愛らしい笑顔を見せ、クロードが薄らと頬を染めて一瞬 戸惑った隙に、サッと手を引き抜いた。


 そのまま溢れるような笑顔を向けると胸の前で手を振りながら部屋をでるローズに


「ローーーズ!!!気をつけるんだぞーーー!!」


 クロードは心配そうに瞳を揺らしローズを見送るのだった。



***



「ルイ!!ジョイ!!!凄い いっぱい人が歩いてるよ!!!この人達、皆んな学園にむかってるんだよね!!」


 ローズはこの世界に来てから初めて見る大勢の同年代の人々に目をらんらんと輝かせながら周りをキョロキョロと見渡している。


「フッ。大袈裟だな!!ホラ…あんまりよそ見するなよ。またぶつかるぞ!!」


 町や騎士団で大勢人達を見慣れているジョイは、大して気にもならないのか軽く微笑むと犬でも追い払うかのようにシッシと手を振ってローズに前を向く様に促す。


「でも、見てほら……」


「オラ。ローズ!!!前向け前!!!」


 それでも色々気になってしまうのか、中々 前を向かないローズに剛を煮やしたルイによって頭を掴まれて強制的に前を向かされてしまう。

 頭が固定されてしまったが、どうしても学園に向かって歩いている人達が気になって仕方ないのか、強制的に前しか向かないように固定されている動かない頭の事は諦めて目だけを必死に動かし、キョロキョロと周りを観察している完全に挙動不審な女だった。



…………



「おい……女が居るぞ!!スゲェー可愛くないか!?」


「あぁ!!!マジで可愛いな!!何学年なんだろうな?」


「おい!!声掛けて見ろって」


「いや……無理だよ……お前が掛けろって!!」


 ローズを見かける度に、同じ学園に通うであろう男子生徒達は立ち止まりコソコソと話し合っている。

 彼等の会話が全て耳に入っているであろうルイの眉間に深い皺が寄り始めているし、ジョイも全てでは無いが彼等の会話を耳にしたようで2人の雰囲気が徐々にピリつき出した。

 とてもじゃ無いが、これから入学を迎える新入生の顔付きのそれではなかった。


 前世が全くモテなかったローズは、男子達が噂するほどの美人に成長した事に嬉しくなり、不機嫌そうについてくる2人の事は無視して、1人楽しそうに入学式が行われるホールへと向かうのだった。

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