10 学園散策 3
「ルイ、入学前からモテモテじゃん!!」
ルイの先程の様子を思い出しながらニヤつくローズに、嫌そうな視線を向けるルイは
「あんなもん俺が好きなんじゃ無くて、俺が手にしてるであろう財力に目が眩んでるだけなんだよ!!
ただ、その殆どがお前のもんだけどな!!」
呆れ混じりにローズに話すルイに、そんな話しは聞いて無いとばかりに驚くローズは
「えっ!?何それ……別に要らないよ!!ルイが託されたんだからルイの物でしょ!?
ただでさえ身に余る扱いに恐縮しまくりなのに、これ以上色んな物増やさないでよ!!」
「フッ。そんな事言うのお前位だぞ!!皆んな金と権力が欲しくて仕方ない奴等ばかりなのに……」
莫大な資産が手に入る事を面倒臭そうに嫌そうな顔をするローズに、何故か気分が良くなったルイは思わず笑みを漏らすとローズの頭をくしゃっと撫でた。
「う〜ん……あんまりそう言うのに興味無いんだよね……家族皆んなが幸せに暮らせるだけあればいいや!!!
って……ダメだ!!!この先、公爵家を継ぐなら領民達の事も考えられるようにならないと、領民達も皆んな家族みたいな人達でしょ??
ついつい忘れちゃうけど、しっかりしないとね……」
ローズはお父様達やルイ達と楽しく生活出来ればそれでいいと思っていたのだが、いずれ公爵家を継ぐ人間としてそれではダメなんだと思い至り気持ちを入れ替える。
そんなローズを愛おしそうに見つめたジョイは
「お前みたいに考える奴は少ないと思うけどな……
でも、そんな風に思ってくれる奴が上に立てば下の者達は幸せだろうな……」
そんな風に言いながら今までの自分の生活を思い出したのか、遠くを見つめながら切なそうな笑みを漏らすのだった。
そんなやり取りをしつつも一通り学園内を見て回ったローズ達は自分達の部屋へ戻る為に寮へ向かって歩きだす……
陽も落ちてきてオレンジがかった空を見上げながら今日から始まる新生活に胸をときめかせていると、寮の方から一人の男性が焦ったように此方に向かって走って来る姿が目に止まった。
「うぉっ!!ヤベっ!!!ジュリアス様だ!!」
いち早くジュリアスと気が付いルイが数歩後退るように呟いた。
「ローズ様!!心配致しましたよ!!一体、どちらにいらしていたんですか!?」
「クス。ジュリアス父様、ごめんなさい!!ルイ達と一緒に学園内を探検してたんです!!明日から通う場所がどうしても気になってしまって!!」
「そうだったんですね!!それはそうと、その面白い格好はどうしたんですか!?」
「あっ!!忘れてた!?どうですか!?男の子みたいに見えますか!?」
「私には天使のようにしか見えませんよ!!どんな姿をしていてもローズ様は、私の特別な存在なんですから」
そう言って愛おしそうにローズの頭を撫でたジュリアスは、男性の格好をしているローズを気にする事無くエスコートし出す。
それを見ていたルイ達は、自分達の今までの葛藤などジュリアスにとっては取るに足らないものなのだと、覚悟の違いをまざまざと見せつけてられるのだった……
ジュリアスに流れるようにエスコートされながら寮の部屋へと着いた。
部屋の中には、既にクロードやアルベルトなど全員が揃ってリビングにあるローズに合わせて新調されたシンプルだが高級そうなソファなどに腰掛けてくつろいでおり、中央に置かれている大きなテーブルには豪華な料理が並んでいた。
「ローズ!!帰ったか!?部屋を訪れたらローズが居ないから心配したぞ!!
って……!!フッ。何だその可愛らしい格好は??」
「お母様に用意してもらっていたんです!!この格好の方が目立たないかなぁって思って!!
今日、前回 学園の見学した時に会ったジーナ様にお会いしたんですけど全然気付かれませんでしたよ!!
お父様達はよく分かりますね!!あまり驚かないし……」
ローズは、皆がビックリするかと思って楽しみにしていたのに、ルイ達ほどのリアクションが無くて少しがっかりしていた。
「だって、ローズの可愛さが、全然 隠し切れていないじゃないか!?
それは変装じゃ無くて可愛さの強調だよ!!」
「……………」
(絶対違うと思いますよ……そんな事思うの貴方達だけですからね……」
「え〜〜でも、学園を探検中に話した男性は、私が男の子だって疑いもしなかったのに……」
「「ローーーズ!!!」」
これ以上余計な事を言う前に慌ててローズを止めに入ろうとしたルイ達が同じタイミングで名前を叫んでしまった事で、逆に何かあったのでは…と、怪しむジュリアスが冷たい視線を送る。
「ルイ。ジョイ。ローズではありませんよ!!!ローズ様ですからね。
それと、あとで話がありますのでそのつもりで……」
「「申し訳ありません……」」
ジュリアスの視線を受けながらの死刑宣告に、せっかく明日から気楽な学園生活を謳歌しよと思っていたのに、ガックリと肩を落とすルイとジョイだった。
***
「お父様達は、この後 帰ってしまうんですよね!?」
皆で楽しく料理を囲みながら会話をしていた時、ローズはふとそんな事を言い出した。
「あぁ。そうだな!!今日は、クロードがこの部屋に泊まる予定だが、俺等は皆それぞれ帰るよ!!
ただ、ギルバートとジュリアス、ノアは、明日の事もあるから王城に泊まるんだろ!?」
「そうだな。明日の入学式に呼ばれてるから、今日は王城に泊まる予定だ!!
でも、突然どうしたんだ!?」
ローズの問いかけに答えるアルベルトと、話を振られて不思議そうにするギルバートは何故、突然そんな事を言い出したのかとローズに問いかけた。
「う〜ん……何か…今まで、ずっと同じ屋敷で生活していたのに、急に帰ってしまうのかと思ったら少し寂しくなってしまって……」
ローズは、今までは、朝から晩まで誰かしらと一緒に居て皆で過ごしていたのに、帰ってしまうんだと思ったら何だか急に寂しくなってきてしまったのか切なそうに呟くのだった……
「ローズ!!!なんて可愛らしい事を言い出すんだ!!とりあえず、ルイとジョイを始末して横の部屋を開けるか!?」
ローズの寂しい発言に、珍しく取り乱したギルバートが とんでもない物騒な提案をし出したので、ローズは今まで感じていた寂しさや切なさなどが一気に吹き飛び慌てて止めに入る。
「ギル兄様!!何言ってるんですか!!冗談でもそんな事を言ったらダメですよ!!!
もう……ちょっと、寂しくなっただけなのに……」
冗談だと思ってるのはお前のだけだぞ、と喉まで出かかったがグッと堪えて自分達の守りに入るルイとジョイだったが、ローズの寂しい発言のせいで、その後もクロード達の興奮は収まらずに本気で自分達の身を案じる羽目になるルイ達だった。
***
「ねぇ。それより、ローズちゃんがその格好していれば女性としてバレないのは一つの手よね!!」
「まぁ一理あるな!!だが、既に女性として学園に書類を提出してしまっているから、今更 男装したところでローズが、お前みたいに変な奴だと思われて好機な目で見られるだけじゃ無いのか!?」
エリオットの提案に難しい顔で考え込むアルベルトは存外酷い言い回しをするが、エリオット自身ですら気にも留めずに話しが進んでいく。
「そうだなぁ……それによって逆に変な興味持たれても困るし、直ぐに判断出来ないな……」
「そうね……気安く接しられても困るしね……」
クロードも眉間を指で揉みながら考え込むと、提案し出したはずのエリオットまで考え込んでしまう……
「えっ??私は気安く話して欲しいです!!せっかく学園に行くなら友達沢山欲しいし……」
「ダメよ!!ローズちゃん!!!男達は、全員獣と思いなさい!!全く……ちょっと!!!ルイ達しっかり見張りなさいよ!!ローズちゃんは男の事、何にも分かって無いんだから!!」
純粋に友達が欲しいだけなのに頭から否定されてしまうローズだったが、尚も大袈裟過ぎるとあまり気にも留めずに言い返す。
「えぇ〜少し大袈裟じゃないですか!?全員が全員そうとは限りませんよ!!父様達見たいな人達だっているでしょうし……」
「いや……俺達だってローズに夢中になってしまっているじゃないか……」
「ふふっ。だって父様達は、ただの親バカでしょ」
女嫌いの俺達でさえメロメロにしてしまうローズだから、余計に不安に思ってるんだよ!!と、切実に訴えるも、また大袈裟にそんな親バカな事を言い出してと、全然取り合って貰えないクロード達はそのまま頭を抱えてしまうのだった。
結局、どう言う方向性で学園に通うのか結論は出ないまま、只々、夜は更けて行くのだった……