9 学園散策 2
「よし!!じゃあ、気を取り直して食堂の方へ行ってみようよ!!
夕食もそこで食べるか、部屋で食べるかのどちらかなんでしょ!?」
昼は殆どの学生が食堂を利用するのだが、夜は、食堂へ行くか、ルームサービスにするかを選べるようだった。
寮にも料理を作る為の厨房があるようで、ルームサービスを取る時は、そこにお願いするのだが 食堂で食べる方が食事のメニューは豊富のようだ。
ただ、夕食は ある程度 値は張るが、貴族達はルームサービスを取るのが主流のようだった。
「あぁ、そうだな!!だけど、夜は多分、クロード達の誰かしらが居ると思うから部屋で食事する事の方が多いと思うぞ!!だから、学食を使うのは基本昼だけだな……まぁ、俺らは、どうするか分かんねぇけど……」
ルイが苦笑い気味にそうローズに伝えると、ルイの言っている意味がわからずにローズは首を傾げながら、さも当たり前の様に話し出した。
「えっ??部屋で食べるなら、ルイもジョイも一緒に決まってるじゃん!!」
「まぁ…….お前はな……」
国でトップクラスの貴族女性になったのに、いつまでも 変わらない素朴さを待ち合わせているローズに、なんだかホッコリとした気持ちになったルイ達は、軽く息を吐き出すとローズを連れて歩き出した。
………
「改めて見るとやっぱり素敵だね!!」
前回の案内中は、目まぐるしく色々な場所を見て回ったので、素敵だと言う印象だけは残っていたのだが、改めて見た食堂はまた違った感動があった。
「そうか??まぁ、高級そうではあるけど……女っつーのはこう言う雰囲気のとこ好きだよな!!」
「はっ??何!!??大人ぶって!!ルイなんて、私以外の女の人と話した事なんてあんまり無いじゃん!!この学園には私 以外の女の人も居るんだから迂闊な発言は控えなきゃだめだよ!!!全く……」
ルイの色んな女性を知ってますと言わんばかりの発言に引っ掛かりを覚えたローズは、自分以外の女性と接した事も無いクセに偉そうにと女性代表としてツッコんだ。
「おい!!チビのクセに何偉そうにしてんだよ!!お前が知らないだけで俺だって……って、何言わせんだよ!!」
「……………」
この世界の女性の事を一番理解していないであろうローズの上から発言に、こめかみをピクつかせて反論しようとするが、成人を迎えていない少女に対して何を言う気なのかと慌てて踏みとどまるルイだった。
「お前……何やってんだよ……」
「チッ!!うっせ……」
ジョイの呆れたようなツッコミに不機嫌そうに返すも、ルイの視線は泳ぎまくっている。
「今は、昼のメニューだよね!!夜はどんなものがあるのかなぁ!?」
今はまだ、入学予定の学生達があまり居ないのか混雑していない食堂の窓際の席に腰掛けたローズはメニューを手に取り真剣な顔で眺めていた。
「夜は昼と違って色んなコース料理が食べられるみたいだぞ。寮だと肉と魚のどちらかを選んで持って来て貰うコース料理だけど、食堂は、此処の料理人がその時々で色々な食材を使って作ってくれるから!色んな旬の食材の中から好きな物を選べるんだ。前もって言っておけばそれに応じた料理を作る事も可能なんだって!!」
「何なの!!ルイ……本当詳しいね……」
「いや……だから……ジュリアス様が……」
「あぁ……そうだった……何かごめん……」
ルイが入学前から様々な事に詳しい事に感心してるローズだったが、ルイが溜息混じりにジュリアスの名前を出した事で、そうだったと思い出し、ジュリアスにネチネチと嫌味を交えた説明を受けたんだろうなと言う事が容易に想像でき、ルイの事を可哀想な子を見る目でみつめるのだった。
「やめろ!!その、憐れむような顔すんの!!」
「フッ!!どんまいルイ!!」
「おい!!!お前は、ぶっ殺すぞ!!」
「まぁ、まぁ、まぁ、2人とも落ち着いて」
「「ぁん??お前が言うなよ!!問題児!!!」」
ジョイにもローズと同じ様な表情で見つめられて頭にきたルイはジョイに向かって突っ掛かり出しそうになってしまう。
また、険悪な雰囲気になりそうな2人を止めようと2人の間に入って宥めるローズだったが、何故か息ピッタリな2人によって逆にツッコまれるのだった。
「ぶぅ……問題児じゃないもん……」
「だな!!!ただの子豚か……」
「ルーーーイーーー!!!」
ルイの軽口に頬を膨らませて怒るローズをニヤつきながら見つめ、自分のイラついた気持ちを落ち着けるルイは、ローズが予想通りの態度を取る事に安心感を覚え同時に愛おしさが込み上げてくるのだった。
「お前等って本当 仲良いよな!!」
ルイとローズの遣り取りを見て、改めて呟くジョイに
「まぁね。私が公爵家に保護された5歳くらいから、ずっと一緒に過ごしてるし、ある意味、父様達より一緒にいる時間が長いから、もう本当の家族のような存在だよ!!ずっと一緒に居るって約束もしてるし!!!ねぇ〜ルイ!!??」
「ぁ??まぁな……こんな手が掛かる妹だとは思わなかったけどな」
依然ニヤついたままのルイにオデコを突かれて、何か釈然としないローズだったが
「それなら!!これからは俺もずっと一緒だぞ!!」
と、なんだか嬉しそうなジョイの言葉に慌ててジョイを見つめ返した。
「えっ??ジョイって一緒に居るの学園に居る間だけじゃないの!?」
「ぁん!?違ぇよ!!今日からずっとお前付きで一緒に行動するんだよ」
「えぇーーー!!!そうなの!?だって騎士団は??アルベルト父様の跡を継ぐんじゃないの!?」
「あぁ、騎士団には在籍するけど、お前付きで特殊任務扱いになるみたいだぞ!!」
「ぶっはっ!!お前……特殊扱いされてんじゃねぇか……」
ローズの従者が特殊任務扱いと聞いて思わずルイは吹き出してしまった。
「ルイっ!!!!もう、本気で怒るよ!!」
少し収まっていたルイに対する怒りが、また込み上げてきたローズはルイに向かって鼻息荒く詰め寄った。
「クスクス。止めろよ!!そう言う訳じゃねぇけど、国にもそれで申請して許可取ってあるらしいぞ!!」
あまり気にしていなかったが、ルイのツッコミにそれもそうかと可笑しくなってきたジョイも笑いながらフォローし出した。
「…………」
(何だ……その特殊な任務扱いは……こんな可愛らしい少女を捕まえて大人達は一体何考えてんだか……)
自分が日々とんでもない事を仕出かしている自覚が皆無なローズは、ジョイの言葉の意味が理解出来ずに首を傾げているが、ルイとジョイは何処か納得しているようだった。
そんな風に3人で他愛も無い話をしていると、少し離れた場所から女性特有の甲高い声が食堂内に響き渡った。
「ルイ様〜〜〜!!お久しぶりでございます!!ジーナです!!覚えていらっしゃいますか!!!」
突然現れた身分の高そうな女性が、何故か獣人の従者に媚びる姿にその場に居る人達が驚き注目している。
「…はぁ……ジーナ嬢。お久しぶりでございます。
明日から宜しくお願い致します」
軽く溜め息を吐いたルイが、形だけの形式ばった挨拶をするが、そんな事は気にも止めないジーナが自分勝手に話しまくる
「ルイ様!!ジーナ嬢なんて堅苦しい言い方ではなくて、ジーナと気安くお呼びください。
私も明日から一緒に生活出来るのを楽しみにしておりましたのよ!!!
それはそうと、この前一緒にいらした女性は今日はいらっしゃらないのね……
でも、そちらの方が宜しいですよ!!
あまり、ルイ様の周りに他の女性が彷徨くのは好ましく無いですからね!!
あぁん。私…この日をどれだけ心待ちにしていたか……
これから宜しくお願い致しますね」
私はここに居るんだよ!!と手を上げたくなったローズだったが、グッと堪え 入学前からモテモテなルイをニヤつきながら眺めるのだった……