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5 入学祝い(?)


 入学式を2日後に控えたファルスター公爵家は、ローズが居なくなる寂しさからお通夜の様に静まり返っていた。


 着替えや入学に必要な品々は、既に学園の寮に運び込まれており、明日は、身一つで学園の寮に向かうだけどなっていた。


 ファステリア国の入学式は、社交の季節が終わる秋頃に毎回行っており、今回の入学式も社交の時期を終え、少し肌寒くなって来た時期に行われる事になっていた。


 前世の日本での入学式は、少し暖かくなって来た桜の花が綺麗に咲き誇る春の時期なのだが、この国では、木々が鮮やかに色づき出した時期に入学式が行われるので、学園に行く道も様々な木々が鮮やかに色付いて新入生達を迎えてくれるらしい。


 ただ、鮮やかに景色が色づき出すのに比例するかの様に寒さを肌で感じる季節になっていく事から、家族と離れて生活する事に、より寂しさが身に染みる季節の入学となっていた。


 学園への入学が近くなるに連れ段々と元気が無くなっていったジュリアスは、いつもの如く学園など行かなくても等とぶつぶつ呟いているし、アルベルトでさえも何かに付けてローズの側まで来ると、中々 離れようとしなかった。


 だが、そんな中でもルイだけは心なしか嬉しそうで、多分、お目付役のジュリアスの目の届かない所で自由に過ごせるのが待ち遠しいのか、珍しくローズに嫌味を言う事なく毎日 ご機嫌に過ごしているのだった。


 学園への旅立ちを明日に控えたローズの為に、今日は皆、仕事はせずに昼間から入学のお祝い(?)パーティーを行う事になっていた。


 一応、ローズ以外にもルイとジョイも入学するのでお祝いの席には招かれているものの、完全に小間使いの様な扱いになっており、今も自分達のパーティーの為にせっせと準備を手伝っているのであった。



…………



「なぁ……おい!!!明日からローズ様と寮で一緒に過ごす事になってるけど、マジで、毎日 アルベルト様達が泊まりに来そうじゃないか!?」


 ジョイは出来上がった料理や飲み物の配膳を行いながら、普段は仲が悪く目も合わせない筈のルイに、入学式を2日後に控えてどうしても気になって仕方が無かった事を問いかけた。


「ぁん!?…んなもん来るに決まってんだろ!!ヤツ等が来ないとでも思ってたのか!?」


 ジョイと同じ様に配膳を手伝っていたルイは、ジョイからの問いかけに視線を上げる事もなく、さも当たり前のように返答する。


「いや……そう言う訳じゃねぇけど…何か息が詰まりそうだな…って思ってさ……」


 何となくはそんな気がしていたが、寮に帰る度に、部屋にクロード達の誰かしらがいたら休まるもんも休まらないと、常に動向を監視されている様で、面倒くさそうだなと苦笑い気味に答えたジョイに、ルイは配膳していた手を止め顔を上げると馬鹿にした様な視線を向ける。


「フッ。馬鹿か!!アイツ等が、お前の事なんか気にする訳ねぇだろ!!俺らなんて、その辺のゴミと一緒だよ!!ローズ以外は居ても居なくても同じなんだから、気にするだけ無駄なんだよ」


「……あぁ……まぁ….そうか……そうだよな!!」


 普段は毛嫌いして会話など全くしない癖にルイの言葉で安心した様な素振りを見せているジョイに


「お前も…案外、肝の小さい男なんだな」


 ルイは更に馬鹿にした様に嫌らしい笑みを漏らしながらジョイを揶揄い出す。


「ぁん!!ぅるせーよ!!お前みたいに、アルベルト様達とずっと一緒に居た訳じゃねぇから、対応に困るだけだよ!!」


 ルイに馬鹿にされ頭にきたジョイは、配膳している手を止めてテーブルに乗り上げそうな勢いで慌てて言い訳し出すが


「安心しろ!!アイツらがローズと一緒に居る時に、お前が呼ばれる事なんてねぇよ!!あっても、俺だから」


 ルイの勝ち誇った様な顔に、さっきこんな奴の言葉に安心してしまったのかと悔しくなり、拳を握りしめるジョイだった。

 だが、これ以上話していても分が悪いと思い至り、そのまま苦虫を噛み潰したような顔をしながらルイの言葉はスルーした。


 そうこうしている間に自分達(?)のパーティーの準備も整った為、ルイはローズを呼びに部屋へと向かうのだった。



…………



「クロード様。ローズ様。パーティーの準備が整いました」


 ローズの部屋の扉をノックし、クロード達に声を掛けながら中に入ったルイは目の前の光景を見て軽く目を見開いてしまう……


 ローズの部屋のソファに腰掛けるクロードとギルバートの間にローズが居るのはいつものことなのだが、横に居る2人は愛おしそうにローズの頬を撫でているし、ジュリアスとアルベルトはローズの前に跪き片方ずつ手を取りながらな何やら話をしている。

 エリオットもローズの後ろに立ちながらローズの髪の毛を弄っていて、何処ぞの高級ホストクラブでも此処までの接待はしないであろうと言う光景だった。


 1人の少女に寄って集って国でもトップレベルの高貴な人間達が跪く様は、何とも言えない光景で、何故か喉に刺さった小骨の様な引っかかりを覚え、形容し難い不快感を覚えるのだった……

 

「ローズ。パーティーの準備が出来たようだが、このままパーティーには行かずに私の部屋に閉じ込めてしまってもいいだろうか?」


 クロードはローズが屋敷から出て行ってしまう寂しさから完全なヤンデレ発言を思わず口にしてしまう……


(ダメに決まってるでしょうが!!明日から離れて生活する現実が受け入れられないのか言動がジュリアス父様みたいになってしまっていますよ!!だいたい、私が学園に入っても日替わりで泊まりに来るくせに、一々 大袈裟じゃない!?)


 そんな事を思いつつ、ローズは普段よりもしっかりとした声で、クロードの腕を引っ張りながら

「ダメですよ!!せっかく皆さんが準備してくれたのに!クロード父様。早く行きましょう。

 お父様にお祝いして欲しいな……」


 そう言ってクロードを強引に立たせる。


「はぁ……可愛い……嫌だ!!やっぱり離れたくない!!!クレイブ国王に言って学園制度自体を廃止しよう!」


「……父様……皆様のご迷惑になる事はダメですよ!!」


 ジュリアスが賛成し出すよりも前にNOを突き付けるローズにクロードもジュリアスも肩を落としながら付いて行き、その後ろを苦笑い気味のアルベルト達が続いて行く。


 外は寒くなって来たので、綺麗な庭が見渡せる大きな窓が付いている少し広めの部屋をパーティー会場にして、季節の花々や料理人達が腕によりをかけた料理達が綺麗に並べられてとても華やかな雰囲気が漂っていた。


「うわー素敵ですね!!皆様、私やルイ、ジョイの為にありがとうございます!!」


 準備を終えて後ろに控えている使用人達に丁寧に挨拶をすると、使用人達も嬉しそうに軽く頭を下げる。


 だが、ローズの後ろに控えているルイとジョイだけは、このパーティーの主役は、お前で俺等は使用人の如く準備を手伝わされたんだけどな!!と腑に落ちない表情を浮かべていた。


 様々なお酒やジュースなども用意されている為、各々が自分の好きな飲み物を手に取るとパーティーが始まる。


 今回のパーティーは立食形式では無く、着席形式なので円形の大きなテーブルに、ローズ挟んでクロードとギルバート、その横にジュリアスとアルベルト、アルベルトの横にジョイ、ジュリアスの横にルイが座りルイの横にエリオットが腰掛けていた。


「ローズ。入学おめでとう。出会った時は一人で歩くのもままならない程小さな女の子だったのに、こんなに大きくなったんだな……」


 クロードは目に涙を浮かべながらローズの手を取り、ローズと出会ってからの事を反芻している様だが、ローズはそんな気持ちに共感する事なく元気に挨拶し出す。


 「ありがとうございます。公爵家を出て、同年代の子たちとの共同生活に不安もありますが、公爵家の名に恥じないように一生懸命頑張って来ます」


 ローズが元気な笑顔と声で挨拶しているのを見つめていたアルベルトは、ローズに向かって一言


「あぁ。頑張って来い!!何かあれば直ぐに駆け付けるから何も心配する事無いからな」


 と、ニカッと笑うとローズに向けてウインクをしてみせた。


「あり……が…とうござ……います……」

(ギャーーー!!!何!!!!!カッコ良すぎるんだけど…

 ヤバい…‥ときめき過ぎて胸が痛い……クロード父様、ジュリアス父様、このスマートさを見習って欲しい……)


 ローズがアルベルトのさりげない愛情表現とアピールにドキドキしていると、横に座ったいるギルバートが明日からの予定を説明し出した。


「ローズ。私も、ローズが居なくなってしまうのはとても寂しいけど直ぐに会いに行くからね!!

 それと明日からの予定なんだけど、明日は、朝食後に屋敷を出発して昼頃には学園に到着出来るようにするつもりだよ。

 そのままその日は、寮でゆっくりしながら自分の部屋に慣れてもらって次の日の入学式に備えて欲しい。

 入学式には僕とクロードが出席予定だから不安になる事は無いからね」


「そうなんですね!!何か嬉しいです」


 ローズはクロードとギルバートが来てくれる事が嬉しいやら恥ずかしいやらで頬を赤く染めながら喜んだ。


「ふふ。良かった!!僕は王弟だしクロードも公爵だから、こう言った席には自ずと呼ばれるんだよ!!

 普段は面倒だから、仕事を理由に行かないけど、今回は……ね……」


 ギルバートは唇に人差し指を押し当てイタズラに微笑んだ。


「ふふっ。普段からサボってはダメですよ!!」


 ローズはその仕草に苦笑い気味に微笑むとギルバートをサラッと嗜める。


「ふふっ。はい はい。申し訳ありません。我が愛しのお姫様」


 そんな事を言いながらそっと愛おしそうに頬を撫でるギルバートの手を掴んで頬から離すと恥ずかしさから頬を膨らませて誤魔化そうとする。


「もう……揶揄わないで下さい!!」


「はぁ……ローズ……寂しいよ」


「そんな事言って、どうせ直ぐ泊まりに来ますよね」


「クスクス。どうだろうね!!」


 そう言いながらギルバートは瞳を細めてもう一度ローズ頬を優しく撫でた。


 終始こんな状態のクロード達を眺めながら、3人の入学祝いと言う名目で自分達もお祝いの席に呼ばれてお祝いしてもらえる筈が、誰からもお祝いの一言も無く、ずっと砂糖を吐きそうな気持ちでこの場に留まらなければならない軽い拷問状態のジョイ達だった。


 そんなジョイ達を尻目に、入学を祝うパーティーは ローズを中心に執り行われていった。

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