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1 顔合わせ


 13歳を迎え、夏の日差しが眩しく照りつける ある日の午後、その日のレッスンを全て終わらせたローズは、クロード達の居る執務室へ呼び出されていた。


 18歳になり、また一段と体付きも逞しくなったルイは、元々の美貌も相俟って何も知らない人間からすれば、如何に獣人と言えど、気軽に接する事が出来ないような近寄り難さを感じる雰囲気を纏うようになっていた。

 常日頃から特に何かを考えている訳ではないのだが、終始不機嫌そうな雰囲気を纏わせたルイを伴ってローズはクロード達の居る執務室を訪れた。


 少し後ろを歩いていたルイがスッとローズの前に立ち、執務室の扉をノックすると「ローズ様をお連れ致しました」と礼儀正しく声を掛ける。


「入れ!!」


 クロードの短い返答の後、静かに扉を開いたルイはクロード達に向かって一礼すると、そのまま扉を大きく開きローズを中へと促した。


「お父様。お仕事中失礼致します。私をお呼びとの事でしたが如何なさいましたか!?」


 ローズもマナーの先生から習った通りの礼を取るとクロードに向けてお淑やかに微笑んだ。(よし!!完璧!!)

 心の中でガッツポーズしているローズをよそにローズが顔を見せた瞬間、仕事の手を止めたクロードは嬉しそうに近づくと

「わざわざ呼び出してすまないな。だが、もうそろそろ学園の入学の時期が近づいて来たので、その説明と紹介したい人間もいるから来て貰ったんだ。そいつも、もう来る頃だからソファに座ってお茶でもしていようか」


 ローズが顔を見せた事でご機嫌なクロードが甲斐甲斐しくローズをエスコートしながらソファに座らせると目線でルイに合図を送る。

 そのまま静かにお茶の準備を始めたルイを他所にジュリアスがしれっとローズの横に腰掛けると耳をくすぐるように髪を撫で始めた。


「ローズ様を待たせるなんて……そんな身の程知らずはさっさと始末した方がいいのでは無いですか?」


 愛おしそうに見つめながらローズを捏ねくり回しているのに発せられる言葉ひ物凄く物騒であった……


(ジュリアス父様…顔を合わせて早々、物騒過ぎる発言はやめて欲しいんですけど……言動が違いすぎて気持ちが追いついて行きませんけど……誰かは知らないけど、これから来る人にご愁傷様としか言えないよ…….

 そっ…それに……その手つきを一体いつまで続けるおつもりですか……もう貴方の愛情表現は、セクハラすれすれ……寧ろ、アウトですからね……)


 ローズはジュリアスの自分を見つめる視線と態度にドギマギし過ぎて狼狽え出してしまう……


 ジュリアスもジュリアスで、もうすぐ自分から離れて学園生活を送るローズに対して自分の感情を持て余し、抑え切れなくなっているようだった。


 夏季休暇や冬季休暇もあると言えばあるのだが、長い休みは夏季休暇の社交シーズンだけで、冬季休暇とは言っても、新しい年を迎えるにあたり5日間くらいの休みがあるだけなので、長い間、ローズと離れての生活など本当に出来るのか……

 むしろ、今やローズが生き甲斐のジュリアスにとってローズのいない生活に意味などあるのか……ジュリアス自身も甚だ疑問であり、消化しきれないまま今に至っている……


 そんな風にジュリアスがローズを弄り倒しながら自分自身と葛藤していると執務室の扉がノックされギルバートとノア、エリオットとアルベルトに連れられたジョイが顔を出した。


「あれ??なんで???ジョイまで居る!?」


 普段のメンバーの他にジョイが居る事に驚いたローズは、思わず声を出してしまうが、余計な事は言うんじゃねぇぞと言うジョイからの無言の圧力を感じ、それ以上は何も言わずに静かに口を閉ざした。

 少し大人になったローズは空気を読む力を身に付けたのである……

 まぁ、前世合わせればアラサーなので遅すぎるとも言えなくないが…


 学園に入学する頃には17歳を迎えるジョイは、ルイ程では無いが、日々 騎士団での鍛錬で鍛え抜かれた引き締まった体に、成長期真っ只中で身長も伸びてきていて、少し前までは、ローズと同じような感じのあどけなさの残る少年だったのだが、今や見た目だけは逞しい青年だった。


(うわ〜男の子の成長って早いなぁ〜)などと、うっかりと口に出したら睨まれそうなので、心の中で呟きながら親戚の子供の成長に驚くおばちゃんのような心境でジョイを見つめるローズだが、一人、男の子の成長の早さに感心しているローズの横にしれっとジュリアスが座っていたのを、半ば無理矢理立たせたクロードが、ジュリアスからその座を奪ってローズの横に腰掛けると、反対側のローズの横にギルバート、向かいにエリオットとアルベルトが腰掛け、それぞれの従者が主人の後ろに控え立つ。


 そんな中、しれっとアルベルトの横に立ったジョイに対して不思議そうな視線を送るローズに気が付いたアルベルトが優しく微笑みながらローズに向かって説明しだした。


「あぁ…ローズには、まだ言って無かったが、ジョイには騎士としての見込みがあるしまだ若いから、知り合ったのも何かの縁って事で、俺の領地を継いで貰おうと思って少し前に爵位を譲ったんだ!!」


 しれっととんでもない発言をするアルベルトにローズは溢れ落ちそうな程目を見開くと未だに処理が追いつかない様で言葉に詰まってしまう。

 そんなローズの戸惑いなどお構いなしにアルベルトは説明を続けていく。

 アルベルトにとっては些細な事なのだが、簡単に爵位を譲ってしまうアルベルトを理解出来ずにパニックを起こしている困っているローズさえも愛おしく思え慈愛の笑みを浮かべるのだった……


「俺はクロード達と婚姻契約を結んでいるからファルスターを名乗っているだろ!?

 俺自身に結婚の意思は無いから父が他界している今、俺の爵位と領地を受け継いでくれる奴が居なくて困ってたんだ。

 だからコイツに出会えて俺は助かったし、今は俺の伯爵位を継いでジョイ・ダチェスって言うんだぞ!!

 ローズと同年代にあたるから学園生活も共に過ごす事になる。

 学園生活を送るにあたってルイと共にローズ付きの従者にするつもりだから宜しく頼むよ!!」


 しれっとまた爆弾発言を投下したアルベルトにローズは更に驚愕に目を見開くのだった。

 本当に目が溢れ落ちそうである……


「えぇーー!!!そんな…ルイだけで大丈夫ですよ!!ジョイだって、自分の生活も学校もあるのに、私の側にずっと居させられたら迷惑でしょうし……」


 そんな事をジョイに無理矢理押し付けた日には、毎日どんな嫌味を言われるか分かったもんじゃ無いと怯えを見せるローズに、本当はお前を守る為にわざわざ爵位を与えて側に居させるんだよ……と苦笑い気味に喉まで出かかったのをグッと堪えたアルベルトは、冷静を装ってローズに話を続けようとするが、後ろに控えているルイによって遮られてしまう。


「そうですよ!!!私だけで大丈夫ですよね。ローズ様!!アイツの手を借りる必要なんてあるわけ……」


「ルイ!!この事については何度も話し合った筈ですが……まだ理解していませんでしたか!?」


 元々あまり馬が合わないと感じていたジョイが一緒にローズ付き従者をする事を快く思っていなかったルイはローズが自分だけで充分だと慌ててジョイの従者を拒否した事に気分を良くし思わず意気揚々と話し出してしまうのだが、ジュリアスの纏う冷たい空気と冷めた様な視線によって途端に口を閉ざして俯いてしまう。


「ゴホンッン….…まぁ、この事はジョイも望んだ事だからローズが気にする必要はない!!」


 なんとも言えない場の雰囲気を変えるべくわざとらしい咳払いの後、アルベルトは気を取り直した様にローズに告げるが、今一信用出来ないローズは、ジト見でジョイの事を見つめてしまう……


 ローズの視線を感じたジョイは、視線を合わせローズを見つめ返すと、出会ってから今まで見た事も無い様な溢れんばかりの笑顔をローズに向けるのだった。

 だが、ローズはその笑顔を見た瞬間あまりの胡散臭さから思わず顔を顰めてしまうのだった


「チッ……」


 ローズのその表情を受けて軽い舌打ちと共に、そっぽを向き不機嫌そうに顔を顰めるジョイとは別に、一連の流れを楽しそうに見ていたエリオットが堰を切ったように突然笑い出してしまう。


「あはははは。ローズちゃんは、相変わらず面白いわね〜

 しかもルイは私の爵位を継いで男爵の位を持ってるんだし、今や国の一大事業になりそうな財団の代表でしょ!!獣人とは言え、国一番の商団を構える男爵位を持って、一大事業の代表になった男と、騎士団の中でも名門中の名門の伯爵位を継いだジョイ!!その2人を従えるローズちゃん……本当に素敵だわ!!」


「…………」

 何やら邪な想像に胸躍らせ瞳を輝かせるエリオットに言い知れぬ不安を覚えるのローズだったが、突っ込んだところで泥沼にハマっていきそうなのを感じとったローズはしれっとスルーした。


 だが、昔からずっと一緒に居てくれて、兄妹のように感じているルイには何でも話してきたのに、ルイがエリオットの爵位を継いだ事を、ローズに何も話さずにローズだけ知らなかった事を思い出し、以前の寂しさや不満が再燃したのか思わず頬を膨らませてルイを睨んでしまうのだった。


「まぁ、そう言う事で学園の入学と同時にローズ付きの従者としてルイと一緒にローズと行動を共にすると思うから、そのつもりでいてくれると助かる」


 頃合いを見計らいアルベルトが話をまとめ出したので、ローズも一度きちんと畏まるとジョイを見つめ真剣な顔でしっかりと話し出す。


「ジョイ。私の側に居ると、自分の思う様に行動出来ない事もあると思うけど本当にいいの!?」


「あぁ…そんな事は些末な問題だ。俺はこれからローズ様を守る為に生きて、ローズ様の側から離れる事はない!!アルベルト様にも誓ったし、今ここでローズ様にも誓う。俺の全てを掛けて守ると!!だから宜しくな!!」


「……あっ……はい……宜しく…お願い……します……」

(どうした……ジョイよ!!そんな熱い奴じゃ無かった気がするんだけど……やめてよ…恥ずかしい……何なの…お酒でも飲んだんじゃないの!?)


 ローズはジョイの男らしい宣言に羞恥のあまり頬を赤らめて俯いてしまうが、それを面白く思わないクロード達が一瞬にしてピリつきだした。


 だが、羞恥に悶えるローズはその事に全く気付かずに照れているのに対して、周りの温度差を素早く察知したジョイが気まず気に視線を彷徨わせるのだった。


 学園生活の話しなど細かい打ち合わせがあったのだが、面白く思わないクロード達により、半ば強引に退出させられたジョイのせいで説明は後日に行う事になったのだが、終わりとしては微妙な雰囲気の顔合わせは、クロード達のピリついた空気の中、静かに終了していくのだった……


 



大人になり少し状況も変わってきたので改めて書きます。


ルイ・クロイツ 男爵位 18歳


身長187㎝ 


髪の毛も耳も尻尾もグレーがかったシルバー


尖った鼻 赤い唇 黄色がかったオレンジの瞳


 魔力は風と炎のみだが魔力自体は高く、それ以外にも身体能力が高い。


 少し口が悪いツンデレで、親に売られてローズと出会う。

 現在は、エリオットの男爵家を継いで、正式名はルイ・クロイツになった。

 領地は無いが、国で一番の商団を纏める爵位を持ち、最近では道を整備する為に作った財団の代表も兼任している為、若くして国の中でもトップレベルの財力を手に入れた男でもある。


 元々 兄弟が多い為、ローズの事も妹の様に思っていたが、最近はローズが自分以外の人間と楽しそうにしているのを見ると、何とも言えない不快感が襲ってくるのだが、その正体にはまだ気が付いていない。



***



ジョイ・ダチェス 伯爵位  16歳


身長178㎝ 乱暴に切り揃えられたグレーの短髪


黒い瞳 切長の瞳 細い通った鼻 薄い唇


 一見普通の見た目だがよく見ると整った顔をしている。

 騎士団で訓練をしているうちに浅黒い少しワイルドな見た目に変わり大人と少年の丁度、中間の魅力を持った青年である。


 魔力は高くオールマイティーに使えそうで、今は騎士団で特訓中である。


 学園入学時には17歳になるジョイは、実質ルイとは一歳しか離れておらず、何かにつけてぶつかりそうな雰囲気があり、3年間の学園生活で親交を深められるかは謎である。


 仕事中に怪我をして思う様に動けなくなった父親を幼い頃から助け互いに支え合って生活してきたがローズと出会い環境が一変する。

 自分より幼い少女だが貴族も平民も分け隔て無く接するローズを心の底では尊敬しており、お転婆だが、美しいローズに惹かれてはいるが、イマイチ ローズのお転婆さが相俟って自分の気持ちに中々気付かないでいる。

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