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28 ローズの謀


 ギユウが去ってから数週間が経ち、ギユウの居ない寂しさにも慣れ出したある日の朝……


 ひんやりとした空気が流れ出し、肌寒さを感じる日も多くなる季節が訪れた。

 本来なら外へ出るのも億劫になって行くのだが、そんな事はお構い無しの 今日も元気なローズは、朝からジュリアスを捕まえて午後にでも一緒にお茶をしようと話していた。


 ローズに誘われたジュリアスは、あからさまに機嫌が上向き まるで後ろに大輪の花でも咲き乱れるかの様に顔を綻ばせると、急いで仕事を終わらせて来ると言いながら嬉しそうに仕事へ向かって行くのだった。


 だが、数刻も経たないうちに申し訳無さそうな顔をした落ち込み気味のジュリアスがローズの部屋を訪れるのだった…


「ローズ様….申し訳ありませんが、クロード様から頼まれ物をしまして、アルベルト様に届けなければならない物が有りますので急遽 騎士団へ行く事になってしまいました。

 ですので、午後のお茶には間に合わないかも知れません。

 誘って頂いたのに申し訳無いのですが、午後はルイと過ごしていて下さい。」


 縋る様な目を向けながら、寂しそうに そう 呟いたジュリアスを見つめながらハッと何かを思い立ったローズは、勢いよく立ち上がると不敵な笑みを浮かべながらジュリアスの方へ向かって歩き出した。


 今日の予定は特に無く、暇を持て余していたローズは、ジュリアスの報告を聞いてある事を思い立ったのだ。


「ジュリアス父様。それは急ぎですか!?」


 突然、ものすごい勢いで詰め寄るローズに圧倒されたジュリアスは、仰反り気味になりつつ


「いえ…物凄く急いでいるわけではありませんが、なるべく早くとは想っております」

 

 普段から何事にも物怖じしないジュリアスを圧倒させ、動揺させる事が出来るのは、この国 広しと言えど、この美しい少女くらいでは無いだろうか……


 本人は全くの無自覚だろうが……


 戸惑うジュリアスに尚も楽しそうに詰め寄り、到頭ジュリアスを捉えたローズは


「じゃあ、お仕事を頑張っているアルベルト父様にお弁当を作るので、一緒に持って行っても良いですか!?」

 

 ジュリアスが逃げない様にがっしりと腰に腕を回し可愛らしく首を傾げる。


「……一緒に…持って…行っても……と…仰いますと……?」


 ローズに突然抱きつかれた動揺で、何か…絶対に聞き逃したらいけない言葉を聞いた様な気がするが、突然抱きつかれた驚きと嬉しさから完全に挙動不審に陥ってしまい言葉の意味を上手く理解出来ないジュリアスに、もう一息だとほくそ笑むローズは


「ふふっ!!私も騎士団へ付いて行くって事です!!」


 そう言いながら、もう一度ギュッとジュリアスを抱き締めた。


「なっ…な…な…な…な…なりません!!あんな…むさ苦しい男達ばかりの所など、天使の様に可愛らしいローズ様を連れて行けるわけ無いではないですか!!」


 挙動不審になりながらも、しっかりと却下したジュリアスに、暇すぎてどんな手を使ってでもお出掛けしたいローズは、もう…仕留めるまであと一息だど、ノックアウト寸前のジュリアスに必殺技を使って仕留めに掛かる。


「え〜〜ジュリアス父様と一緒に、お弁当を持ってデートしたかったのに……」


 もう一度、腰に回した手にキュッと力を込めて瞳を潤ませ上目遣いでジュリアスを見つめるのだった。

 ローズの作られた圧倒的な可愛さにジュリアスは軽く息を呑み頬を赤らめると


「…っ……仕方ないですね……絶対に私から離れないって約束して下さいよ!」


 そう言いながら自分でも気付かないうちに了承しているのだった……


(ちょろいぜジュリアス父様!!お出掛けラッキー!!)


 久しぶりのお出掛けに心を弾ませるローズは、ルンルン気分でスキップしながら調理部屋に向かい出す。

 後ろから静かに付いて来ているルイは、先程からずっと黙って難しい顔をしていたが、到頭、重く閉ざしていた口を開き出した。


「おい。ローズ…!!アルベルト様は仕事をしているんだぞ!!遊びじゃ無いんだからな!!」


「えっ??何なの!?そんな事、真剣な顔で言われなくても分かってるよ!!」


 ルイの厳しい口調に(そりゃ〜暇だからお出掛けしたかったけど、お父様の仕事の邪魔なんてしないもん!!)と少し口を尖らせて反論するローズに向かって、何故か突然ニヤリと嫌な笑みを漏らすルイは


「じゃあ、お前の作った料理なんて食わせて、腹でも壊したらどうするだよ!!」


 そう言い放つのだった。


「むーーーぅ!!ルイ酷い!!ちゃんと上達してるもん!!お腹なんて壊さないし!!ギユウだって美味しそうに食べてたじゃん!!」


「フッ……だと…良いけどな……!!」


 あの…この世界で最強の生物とされる竜でさえ、お前の作った料理で死にそうになってたぞ!!と喉まで出かかったのを辛うじて堪えたルイは、ローズに頼まれた為 渋々ながらも料理を手伝ってもらう為にディタを呼びに行くのだった。



………



「ローズ様。お待たせ致しました。本日は何をお作りになられますか?」


「後で、アルベルト父様に届け物があるって言うから、ついでにお弁当でも作って持って行こうと思って!!手軽に食べれるサンドウィッチとかを作りたいの!!」

 

 ローズは騎士団の仕事が忙しいアルベルトの為に手軽に手早く食べられそうなサンドウィッチを提案した。


 ローズの言葉に軽く頷いたディタは、素早く食材を確認し出す


「畏まりました。それでは一緒に準備致しましょう」


 その言葉を皮切りにローズとディタは慣れた手付きで手際良く準備し出し、楽しそうにサンドウィッチを作り出すのだった……



「ローズ様。料理、本当に上達しましたよね!!」


「本当!?ありがとう。ディタにそう言ってもらえると凄く嬉しい!!」


 料理人のディタに褒められて嬉しそうなローズは、上機嫌で野菜を洗っている。


「フッ。褒められて嬉しそうにしてるけど、お前…野菜洗ってるだけじゃねぇかよ!!」


 ローズが先程から野菜などを洗い、ディタがそれを手際よく調理する様子を眺めていたルイは、ディタに褒められて恥ずかしそうに頬を染めながら嬉しそうにしているローズに思わずツッコんだ!!


「ルイっ!!もう….うるさい!!せっかく褒められて楽しく料理してたのに!!」


「あぁ。わりぃ!わりぃ!!もう邪魔しないから上達した野菜洗いを頑張れよ!!」


「ルイっ!!!!!」


 頬を膨らませルイに怒りながらも、野菜を洗う手を止めないローズを楽しそうに見つめ、特にする事が無く手持ち無沙汰だったルイは、一通りローズを揶揄い終わると側にある椅子に腰掛け、肘をつきながらぼんやりと楽しそうにディタと料理をするローズを眺めるのだった……




***




 ディタの手伝いもあり、無事にお弁当を作り終わったローズは現在、ジュリアス、ルイと共に馬車に揺られていた。


 アルベルトが率いる第二師団は、公爵家から馬車で1時間程 進んだ距離にあり、ファステリア公爵家から王都へ向かう道の丁度中間に位置していた。

 第二師団は、ファステリア公爵領がメインの管轄ではあるが何かあれば直ぐに王都へも向かえるような位置付けになっていた。


 徐々に整備が始まっている道を通りながら馬車に揺られジュリアス達と楽しそうに他愛もない話をしていると、整備された道から少し外れ出したのか、少々道の悪さを感じ出したジュリアスが、何かを思い出したかの様にローズに話しかけてきた。


「ローズ様の提案で徐々にではありますが、道が綺麗になっているのを皆とても喜んでいますよ」


「本当ですか!?そうだったら嬉しいです。全ての道が綺麗になるには、まだまだ相当な時間が掛かると思いますが、今からとても楽しみですね!!」


 皆が喜んでいると聞いたローズは、たちまち瞳を輝かせると、とても嬉しそうに微笑んだ。


「本当にそうですね。ただ…ローズ様のお考えなのにその事を公に出来ない心苦しさもありますが…ローズ様があまり表立って目立たないで欲しい気持ちも強くあるので、とても もどかしいです…」


 ジュリアスは申し訳なさそうに眉を下げると、ローズの髪を撫でるように梳きながら自身の切ない胸の内をこぼした。


 自分の愛する娘が素晴らしい行いをしていると、皆に自慢したい反面、それによってローズが注目され余計な人間が群がって来てしまうのでは無いかと、危惧する思いとが交差して形容し難い思いが胸を締め付けるのだった……

 

「ふふっ。誰がやったって良いんですよ!!皆んなが喜んでくれるような事があるなら色々試してみて、皆んなで喜びを分かち合えれば、それが一番良いんです!!

 私も目立つのはあまり好きじゃないので丁度いいですしね!!」


 そう言うと、ローズは照れ臭そうに頬を染めながら微笑んだ。

 馬車の窓から差し込む光に照らされて、恥ずかしそうに微笑むローズの姿があまりにも美しくて、ルイもジュリアスも暫く惚けたようにローズを見つめてしまうのだった…

 惚けた2人を不思議そうに見つめるローズと、アホみたいに惚けている2人とで馬車の中が不思議な空間に包まれている中……

 ふと我に返ったジュリアスは、この国で生活する人達が此処まで慈愛に満ちた考えを待てるのか疑問を持つと共に、成長しても揺らぐ事が無いローズの純粋さと清らかさに危うさを感じるのだった……


 そんなローズの危うさを心配する気持ちがジュリアスの頭を占めている間に馬車は騎士団へと到着した……



「ローズ様。到着したようです。では参りますよ」


 馬車が止まったのを確認したジュリアスは、音も立てずに立ち上がると扉を開け素早く降り立った。

 そしてルイにエスコートされながら席から立ち上がり扉に近づくローズに手を伸ばし、流れるような動作でエスコートする。


 ジュリアスにエスコートされながら馬車を降り立ったローズは、初めて見る騎士団に圧倒されたように見上げると、キョロキョロと辺りを見回してしまうのだった。


「うわ〜思ったより大きいですね……」


 アルベルトが勤めている騎士団は公爵家や王城の様な華やかさはないが、石造の城壁に囲まれた重厚な造りの建物だった。


 馬車で通り抜けた頑丈そうな門の前には、先程、通るのに対応してくれた騎士団の団員達が数人立っており公爵家の馬車から従者と一緒に降り立った美少女に興味深々のようで、仕事そっちのけでローズを凝視している。

 後で絶対にアルベルトに怒られるヤツである。


 ジュリアスもルイもそんな彼等の事など完全に居ないものとしてローズをエスコートしながらアルベルトの所へ向かう為に歩き出した。




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