27 竜とローズと人間と 4
「たっ……大変です!!や…や…や…屋敷の庭に数頭の竜が降り立ちました!!!」
息も絶え絶えにクロード達の元へ駆け込んできた使用人は恐怖に顔を引き攣らせながらクロード達へ報告し出した。
クロード達は一体、何がどうなっているのかも分からずに顔を見合わせると怪訝そうな顔をしつつも、皆を伴って急ぎ庭へと足を運ぶ事にするのだった……
……………
「なっ……これは……」
急いで庭へと出たクロード達の目に映ったのは公爵家に植えてある丁寧に整えられた庭の木々を薙ぎ倒すような形で降り立った3頭の竜だった。
クロード達や屋敷の人間を睨むかのような形で前に立ちはだかる竜達を前に息をするのも忘れて呆然と見上げ立ちすくんでいると、ローズに抱かれているギユウが唸り声を上げた。
「グキャャァーー」
【お前達は、一体何をしているのだ!!!】
今までとは違いクロード達にはギユウが何と言っているのか分からないがギユウが3頭に向けて放った唸り声に応えるかの様に3頭の竜達も唸り出した。
「グギャ グッアァ」
【そんなものは、竜王様を探していたに決まっているではありませんか!!】
「グォー グギャー」
【そんな事は頼んでおらん!!それと、これからの会話は、此処におる人間達にも伝わる様にしろ】
「グァアーー」
【竜王様……一体、何を仰っておられるのですか!!何故、私共がこんな下等な人間共にも分かる言葉で話さなければならないのですか!?】
ギユウと竜達は頻りに何か言い合っている様で、クロード達は竜達のやり取りを固唾を呑んで見守っている。
「グゥルルー」
【お前達に、一々説明する義務などない。ただ言われた通りにすればいいんだ!!それとも何か!?我の言葉に不満でもあるのか!?】
終始不機嫌そうなギユウは、ちゃっかりとローズの腕の中に収まっているものの、目の前に現れた竜達を前に唸り声をあげて威嚇しているようたった。
「グギャ…グギャー」
《申し訳ありませんでした。何も問題はございません。
ただ……やっと……貴方様を見つける事が出来た我々の気持ちもお考え下さい。
竜王様……一体….どれだけ探したと思っておられるのですか!?》
「グッア グギャー」
《本当ですよ!!今にも消え入りそうな魔力を辿って、貴方様が亡くなってしまうのでは無いかと……お姿を見るまで生きた心地がしませんでした》
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる竜達の声がやっと分かる様になったものの、屋敷の人間が怯えきっている中で、クロード達は未だ警戒は怠らずに緊張感ある面持ちで竜達のやり取りを見守っている。
そんな中、ギユウは何をそんなに慌てて自分を探すのかと疑問そうに首を傾げた。
「グギャー グギャー」
《何故、我を探す!?我は王を巡る争いに敗れた身、故にどうなろうとも其方等の預かり知らぬ事だろう??》
「ギャゥー ギャガー」
《そんな事を、仰らないで下さい。貴方様は負けたのでは無く、王を巡る争いで制御出来なくなった魔力から我々を守るために犠牲になっただけの事、だいたい魔力を暴発させた竜は自分の放った魔力の犠牲になって結局は助かりませんでした。貴方様は未だに我々 竜を統べる王で有らせられます》
ギユウは竜王の座を巡る争いの中で王座を欲するあまり、力を出し過ぎて制御出来なくなった魔力の塊から竜達を守る為、身を挺して傷を負ったようだった。
どうにか群れは守られたものの、その時の暴発に巻き込まれたギユウは吹き飛ばされ息も絶え絶え、自分を治癒しながら公爵領へと辿り着いたと言う事らしい。
「グギュー グギャー」
《そんなものは、もう今更どうだって良いのだ。我は死んだ者としてお前達で新たな王を立てろ!!》
理由はなんであれ、相手を止める事も出来ずに、自身も死の淵を彷徨い情け無い姿を晒しておいて今更王の資格は無いと、プライドの高いギユウは一歩も引く気は無かった。
「グギャー グギュ」
《そんな訳に参りません!!貴方様以上に王に相応しい者などいないのです!!私共と急ぎ戻り皆を導いて下さい!!》
クレイブ達は、もしかしたら此処へ来た竜達がギユウを連れて帰ってくれるかも知れないと、期待に胸躍らせながらを固唾を飲んで見守っている。
そんな中、竜達の会話などこれっぽっちも分かっていないローズが、この場の雰囲気など一切無視した呑気な言葉をかけ始めた。
「ギユウ!!!まさか…….お父さんとお母さんが迎えに来てくれたの!?」
「ギ…ュッ………」
《ローズ!!!全然違うぞ!!!おい。コラ!!やめろ!!!我を差し出そうとするな!!》
完全に両親が迎えに来たと思っているローズは、数メートルはありそうな竜達に臆する事なく近寄って行きギユウを差し出そうとギユウを抱いている腕を伸ばしている。
これにはクレイブ達も目を見張り慌てて止めようとするが時すでに遅かった。
「グギャーーー」
《この人間の子供は一体何を言っているのだ??だいたい先程から竜王様に軽々しく触れているが、我等の王に軽々しく触れるなど、この世から消し去られたいって事か!?》
その言葉に反応したクロード達が一瞬にしてピリつき臨戦体制を取ろうとするよりも早くギユウの厳しい声が響き渡る。
「グオォォーーーー」
《この少女に無闇に触れるな!!いいかお前達、よく聞け!!!此処に居る人間…特にこの少女に危害を加える事を固く禁じる。万が一擦り傷ひとつでも付けようものなら一瞬でお前達を消し炭にするからな!!》
ギユウの唸り声と共に厳しい言葉が響き目の前の竜達も固まったように瞬き一つ出来なくなってしまっている。
「グギャー グギャー」
《何故です!!人間などに肩入れしてどうすると言うのです??一人では何も出来ない、こんな弱い生き物を大切にしてどうなさるおつもりなのですか!?》
ギユウの言葉に納得出来ない竜が更に騒ぎ立てるもギユウは一切耳を傾け無かった。
「グキャゥ グギャァーーー」
《ローズは我の番だ!!我の唯一に決めたのだ!!何者であっても傷付ける事は許さない!!》
「ガギャゥ グギャー」
《何を仰っておられるのですか??人間など番に出来る訳無いではないですか!!気を確かに持って下さい!!》
「グキャゥ グギュ」
《そうです!!我ら竜族に人間を迎え入れるなどあってはならない事です!!》
クロード達もその事だけは同感なのだが、ギユウは一切引かなかった。
「ギャァぁーーー」
《五月蝿い!!!我は正気だ!!!お前達に指図される覚えは無い!!》
「ギュー グギュー」
《ハァ……….とりあえず、一度群れへとお戻り下さい。話はそれからに致しましょう。皆とても心配していて貴方様の無事の帰還を待ち望んでいます》
「ギュゥ……」
《はぁ……嫌だ……帰りたく無い……》
これ以上は引き伸ばさないと感じ取ったのか、ローズの腕の中でガックリと首を下げたギユウは、そっとローズの腕から降りるとトテトテと小さな体で竜達の側へと寄って行った。
「グギャー グァァー」
《おい!!人間共よ!!我は一度群れへ帰らねばならん。だが、此奴等を説得して必ずローズの元へと戻って来る!!それまでしかとローズを守るんだぞ!!我の唯一の花嫁だからな!!あと契約書も作っておけ!!我とローズの婚姻に欠かせないものだからな!!我も群れの者達を説得しておく、それまでローズを頼んだぞ!!》
頼まれなくたってローズは守るし、お前なんかにも渡すつもりは毛頭無い!!!と、クロード達は心に固く誓っているのだが、一先ずギユウが去ってくれる事にホッと胸を撫で下ろしていた。
「ギユウ……行っちゃうのね……私の事…忘れないでね」
「ギュー グッギュ」
《忘れる訳無いだろ!!直ぐに迎えに来るぞ、それまでに美しく成長して我を待っておれよ!!》
イマイチお互いの気持ちに微妙な温度差がある気がするが、ギユウはそのまま竜達と一緒に飛び立って行った。
その姿を目に涙を浮かべて寂しそうにローズは見つめているが、クロード達はとても嬉しそうにギユウの事を見送ってるのだった……