25 竜とローズと人間と 2
「クロード!!一体どう言う事なのだ!!!竜が会話できるなどと言う話は報告には無かったし、肝心のローズだけ、会話 出来ていないではないか!!」
竜の言葉が突然頭に響いて来た時から、本心では物凄く動揺していたクレイブだったが、国王の意地とプライドで必死に平静を保っていた…
だが、ローズと竜が見えなくなった途端、どうにも我慢出来なくなったクレイブは、鼻息荒くクロード達に詰め寄った。
「伝える前にそっちが勝手に押し掛けて来たんじゃないですか。だいたいその事については私達も困っているんですよ……」
若干、呆れ気味のギルバートがクレイブに言い返すとクレイブも久しぶりに転移装置で移動してみたくて半ば強引に訪問したところもある事からそれ以上は強く出れなかった。
そんな中、先程から あまり言葉を発していなかったキャロラインはクロード達に向けて竜を見た時からずっと感じていた疑問を呈した。
「あら?なんで??貴方達が通訳してあげればいいだけじゃない!!」
キャロラインは、彼等が何をそんなに困っているのか訳が分からないと言うような顔で、クロード達に疑問を投げかけるが、クロードは少し困ったように眉を下げるとキャロラインに今までの事の成り行きを説明しだした。
「そうなんだが…以前、ローズが居ない間に竜と話す機会があったのだが、その時に自分の言葉を人間如きが軽々しく発する事など許さないと言われてしまってな…」
「大体、常にローズ様に対して卑猥な言葉を浴びせているのに、それを一々ローズ様のお耳に入れたり、口にするのを考えただけでも頭が痛くなりますね……」
ジュリアスも日々、ローズに対して卑猥な言葉を浴びせている竜に対して頭を悩ませている様で、ローズが理解していない事だけが彼の中で唯一の救いでもあった。
「だな。俺もそれだけは避けたいし、このままローズが成長しても聞き取れないであって欲しいな……」
「面白そうなのに……」
アルベルトも苦笑い気味に頭を掻きながらジュリアスの意見に同意するが、キャロラインは何処か納得出来ないようでボソッと呟くも絶対に聞こえてる筈なのに全員に全力でスルーされてしまう。
「……だが……ローズも直に13歳になるのだろう?そろそろ魔力が安定してきても良さそうだがのぅ……」
クレイブは、直に13歳の誕生日を迎えるローズの魔力が安定していない事に疑問を呈した。
人は、16歳を迎える時に魔力検査を行う。
何故かと言うと。人は10歳を過ぎた辺りから徐々に魔力が安定し出し、16歳で成人を迎える頃には魔力が安定して数年が、経っている事から、魔力判定の誤差も少ないだろうと言う理由で成人と同時に魔力検査を実施しているのだ。
なので本来であれば安定していてもいいローズの魔力が不安定な事に皆も常々疑問を感じていた。
「そうなんですよ。我々もその事を少し心配しておりまして……」
クロードも時々感じるローズの魔力の不安定さに不安が残る様で言葉尻に含みを持たせた。
「そうだな……個人差があるにしても、あと数年の内に成人を迎えるんだ。流石に安定しても良さそうなんだがな…こればかりは我々には何も分からないからな…」
アルベルトも不安な思いを口に出すが、こればかりは自分達では調べようが無いのでどうする事もできなかった。
「あまり心配な様なら国の研究機関の者を寄越すぞ!!」
そんなクロード達の不安な思いを感じ取ったクレイブは、王都の近くにある魔力の研究所に魔力の調査を依頼できる様に取り計らおうとするもクロードによって一刀両断される
「いえ…大丈夫です。ローズをあまり余計な人間には接触させたくありませんし、どちらにしてもあと数年で成人ですので」
「そうよ。どうせいつかは安定するんだし、先の長い人生で人より少し安定するのが遅くても何も問題はないわ!!」
エリオット自身は、あまり気にしていない様子で、どうせいつかは安定するのだから焦る必要など無いと、持論を呈した。
「ですね。ローズ様にはゆっくりと大人になって頂ければいいんです。むしろ成人などしなくても……その内、ローズ様に変な虫達が集るかと思うとゾッとしますね!!クレイブ国王陛下。虫達があんまりにも五月蝿い様なら駆除しても宜しいでしょうか!?」
「やめろ。ジュリアス!!!ここで私が良いと口を開いたら、この国の貴族達が殆ど居なくなりそうではないか……」
魔王の様な歪んだ笑みを見せるジュリアスに、焦るクレイブは慌てて制止するが…
「ふふっ。ご冗談を……殆どではなく蟻の子一匹残しませんよ!!」
「おい!!!全然面白くないからな。お前のは冗談に聞こえない…」
ジュリアスの言葉に一喜一憂させられるクレイブは、この国の国王の筈なのに完全にジュリアスの手のひらで遊ばれていた。
「ふふっ」
ジュリアスの意味深な笑いが会場に響いたところで、国王らしく真面目な顔をしたクレイブが口を開いた。
「一度、ローズ抜きで話をしないとダメかもしれないな。あの竜は、この先一体どうするつもりなのか……
本当にこの国に居座るつもりなら色々と対策を練らねばならないからな」
「そうですね…人間と竜が共存するなど聞いた事が無いですが、もしそうなると本気で色々考えないといけないですからね!」
先程の軽い会話とは打って変わって真剣な顔つきになったクロード達は竜との共存を考え出すが、より真剣な顔をしたジュリアスが苦々しく話し出した。
「ただ、ローズ様との結婚だけは絶対に認めませんけどね」
「そうだな!!それだけは全員一致の意見だな!!あんな変態竜などには、ローズは絶対に渡せん。どんな手を使ってでも阻止するぞ!!」
男達の思いが一つになった所で国王と竜との顔合わせは終了していった。
………
あの後、ローズ抜きで竜と話したいクレイブ達は、夕食後に談話室に竜を連れてローズにも来てもらい、その後。適当な理由をつけてルイにローズだけ連れ出して貰う事を決めた。
そして一度は解散したものの晩餐会の時間になると、ギユウと共に現れたローズと共に表面上はとても和やかな晩餐会が行われていった……
「ローズ、少し見ない間にまた綺麗になったんじゃない!?」
和やかな晩餐会の最中に、キャロラインは不意にローズにそんな事を言い出した。
「本当ですか??キャロライン様にそう言って頂けると凄く嬉しいです!!キャロライン様も相変わらずお綺麗で私の憧れです!!」
同性であるキャロラインから褒められた事で嬉しくなってしまったローズは、机から乗り出す勢いでキャロラインに詰め寄った。
「あら??可愛らしい事を言ってくれるのね!!聞いた!?エリオット!!ローズは女性である私に憧れているらしわよ」
「あら??嫌だわ。子供のお世辞を本気にするなんて、貴方もやっぱり王室育ちの箱入りのお嬢様なのね!!」
「…………」
(イヤ〜〜〜〜!!!止めてよ!!!そんなつもりで言った訳じゃないのに……どうする…….どうするのローズ!!!この…何を言っても角が立ちそうな状況をどうやって乗り切るの!!早く考えるのよローズ!!)
普段はあまり使わない頭をフル回転させて考えたローズは、振り絞る様に声を出すと「お二人とも素敵で私の憧れです」と平凡な答えしか導き出せなかった……
自分の凡庸さに軽く落ち込むローズだったが、殊の外 2人は満足だった様で、そのまま何事も無かったかの様に食事を食べ始めるのだった……
隣のギユウも美味しそうに食事をしているのを見つめながら、始まったばかりの晩餐会にローズはどっと疲れを見せるのだった……
「ギユウ、美味しい!?」
「グッ!!ギュー!!」
《美味しいぞ!!でも、ローズの方が美味しそうだけどな!!あと数年で食〜べ〜頃♪♪楽しみだぞ!!》
思わず握っていたグラスを握り潰しそうになったジュリアスが、ドス黒いオーラを纏い出したのに気が付いたクレイブが、焦った様にローズに問いかける。
「ロ…ローズは、本当にその竜を可愛がってあるのだな!!でも、もし…そこにおるギユウ殿がローズの思う様な竜と違っておったら其方はどうするつもりなのだ?」
「それは一体どう言う意味でしょうか……??
う〜ん…………
私は、今でもギユウが本当は何を思っているのかなんて全く分かりません……ただ、傷も癒えた筈の子供の竜が、親の元に戻らずに此処に居て私に懐いてくれている事が全てだと思っています。
竜の事など全然分かりませんが、助けを求めて来た生き物を助けたのなら最後まで責任を持ってお世話をしたいです!!きっと大きくなれば飛び立って行ってしまうのだから……」
ギユウが居なくなってしまった時の事を思い、少し寂しい気持ちになるローズだったが、クロード達は心の中で(その変態クソ竜は、子竜なんかじゃ無くて、何百年も生きてる成竜で常にお前の事をエロい目で見て、お前の事を番いだなんだと言って嫁にしようとしてるんだぞ…!!)と、突っ込んでいるが、何も知らないローズは「ねぇ、ギユウ!!」と言いながら優しく竜の背中を撫でていた。
少女の純粋な気持ちを悪用している変態竜の鬼畜な所業に、全員の堪忍袋の尾が切れそうになった頃、晩餐会は静かにお開きになっていった……