23 国王襲来 2
「ローズ様。そろそろ国王陛下がお見えになります。転移装置の前までご移動願えますか?」
エリオットが去ったあと、ルイと一緒にミルクティーを飲んでいると、部屋の扉がノックされ、普段より幾分か畏まった様子のジュリアスが、ローズの部屋を訪れた。
部屋に入ったジュリアスは丁寧に頭を下げながらローズを促しエスコートしようと手を差し伸べた。
「はい!!ジュリアス父様。でも、転移装置を使っていらっしゃるんですね!?私、てっきり馬車だと思ってました!!」
ローズは、元気よくジュリアスに返事をしながら立ち上がると、ジュリアスの手を取りながらクレイブ達も転移装置を使って屋敷を訪れる事に驚きを表した。
前に説明を受けた時は、気軽には使えないとか言ってなかったっけと頭にハテナを浮かべていると、微笑ましそうに見つめるジュリアスは愛おしそうにローズの頭を撫でながら説明し出した。
「ふふ。本来ならそうでしょうね。
ですが、クレイブ王はなんでも、自分達もローズの家族にあたるんだから公爵家に行く時は転移装置を好きに使わせろって言ってごねたらしいですよ!!」
ローズがギルバートの娘になったなら俺の姪になるんだから自分の家族だと言い張り、ギルバートだけ転移装置を気軽に使えるなど不公平だとただを捏ねたクライブは、一々仰々しく腰の痛くなる馬車移動ではなくサックっと移動出来る転移装置を強く希望し、この度使える様に許可が降りたらしい。
これからはファルスターとファディル公爵家の移動に限り転移装置が使用出来るので何かに付けてクレイブが現れそうだとクロード達は頭を抱えている様だった。
ジュリアスは、片眉を上げながら唇に指を当ててローズに秘密でも打ち明けるように教えてくれ、それを聞いたローズは楽しそうに笑い出すのだった。
「クスクス。そうなんですね!!でも、クレイブ王様らしいですね!」
「そうですね!!きっと転移装置が使えるようになって意気揚々とやって来ますよ!!」
「クスクス。なんだか想像出来る気がします」
そんな話をしながら馴れた手つきでローズをエスコートするジュリアスは、ローズと一緒に過ごせる至福の時間を過ごしていると、あっという間に転移装置の前まで辿り着いてしまっていた。
あっという間に終わってしまうローズとの楽しいひと時に転移装置の道のりがもう少し長ければと、ローズをエスコートする手に力を込めてしまうジュリアスだった。
転移装置は公爵家の地下にあり、普段は魔道具を用いた鍵で厳重に施錠してあり、この鍵は登録してある2人以上の魔力を介さないと開かない仕組みになっていた。
しかも解除する度に誰が開けたのかが登録され年に一度、使用の有無に関係なくその魔力のデーターを国の管理機関に提出しなければいけないと言う面倒くさい義務があった。
無闇に人が行き来出来ないようにしっかりとした管理体制が敷かれているはずなのだが、ローズが養女になってからと言うもの、やりたい放題の公爵家に、本当にそれで大丈夫なのかと、きちんと制度を守って使用している人達に対して申し訳なさを感じてしまうローズだった。
………
「ローズ来たか!!」
「クロード父様お待たせしました」
ローズが来た事で瞳を輝かせたクロードが、しれっと自分の隣へと促す。
「ふっ。いや…私達も今来たところだよ!!でも、ホラ……そろそろ御出でになりそうだ」
そう言いながら転移装置へ目を向けるクロードに釣られてローズも其方へと目を向け出す。
転移装置の置いてある部屋の中は無駄な物は一切無い真っ白な部屋の中で、部屋の中央に大きな魔法陣だけが描かれている。
その魔法陣が転移装置の役割をするのだが、その部屋自体は地下室だと言うのに誇り臭さやカビ臭さなど一切無く少し澄んだような空気さえ感じられる神聖さを持った部屋になっていた。
ローズが着いてから 皆との挨拶も済ませ 少し経った頃、床中央の魔法陣が輝き出した。
この部屋全体が転生する為の造りになっている為、魔法陣が発動するまでは ただの真っ白な壁なのだが、魔法陣が発動し輝き出すと、その輝きに応じるように壁などに張り巡らされている魔法陣もキラキラと輝き出す。
何度見てもその幻想的な光景に、ローズは瞳を輝かせるのだった……
やがて目を開けていられないほどの大きな光が部屋中を包み込み徐々に光が弱まり落ち着い頃、クレイブ王とキャロラインが魔法陣の中に現れた。
「ローズ!!久しぶりね!!貴方、とんでもない拾い物をしたらしいじゃない!!流石私の認めた女性だわ!!早く会わせてちょうだい!!」
「キャロライン様。お久しぶりです!!あとで連れて行きますね」
皆が怯える竜の存在に心躍らせるなんて流石としか言いようがないが、ローズは自分以外にも竜好きが現れそうで嬉しくなっていた。
「ローズ…久しいなぁ。元気にしておったか!?また一段と美しく成長したのではないか!?素晴らしいぞ!!」
何が素晴らしいのかよく分からないが、転移装置を使用出来た事がよっぽど嬉しいのか、ご機嫌なクレイブがローズに声をかけてきた。
「国王陛下。お久しぶりでございます。本日は私の為に貴重なお時間を割いて頂きましてありがとうございます」
ローズはマナーの先生より厳しく教えて貰った淑女の礼をとると
「よいよい!!此処には我々しか居らぬからな、畏まった挨拶などいらん。さぁ早く叔父さんの胸に飛び込んでおいで!!」
「……えっ…」
(えっ??何故??この国で一番偉い国王陛下の胸に飛び込むなんて恐ろし過ぎて出来る訳無いじゃん!!大体あんまり親しくも無いし…….)
ローズがあまり親しくも無い国王からの冗談だか本気だか分からない要求に戸惑っていると、横から少し怒り気味のギルバートが止めに入った。
「兄さん。いい加減にして下さい!!そんな事ばかり言っていると今すぐ装置を再起動させて城に送り返しますよ!!」
目が全く笑っていないギルバートに嗜められても、どこ吹く風のクレイブは、ご機嫌な様子でギルバートの肩を軽く叩くとローズの前までいき軽く屈んでローズの頬にキスをした。
その瞬間、クロードに奪うように抱き上げられたローズは、まるでテレポートでもして来たかのように一瞬で側まできたジュリアスによって頬が擦り切れる勢いでハンカチで擦られるのだった……
この国の国王に対して不敬過ぎる扱いだが、誰一人として気にしている者などいなく、ローズも擦られ過ぎて痛む頬よりも久しぶりに抱き上げられ間近に感じるクロードにドキドキしてしまいそれどころでは無かった。
だが、それはクロードも同じようで、久しぶりに抱き上げたローズの感触と暖かさに幸福感を感じ、自分でも無意識のうちにギュッとローズ抱き締めてしまうのだった。
この感覚を思い出してしまうと、もうローズを下ろすのが出来なくなってしまいそのままローズの肩に顔を埋めると飼っている子犬を抱き上げた時のようにスリスリとローズの首元に擦り寄ってしまう……
「クロード様。皆様見ておいでですよ!」
「嫌だ!!離したくない!!」
クロードはローズの肩に顔を埋めたまま首を振り拒否し続ける。
(ええっ〜!!そんな駄々っ子みたいな事言って……うっわ!!ちっ…ちょっと……くすぐった…い)
「ふふっ。クスクス。お父様…くすぐったいです!!」
ローズの可愛らしい笑い声と仕草に堪らなくなったジュリアスが一瞬の隙をついて奪うようにローズを取り上げるとそのままクロードと同じようにローズを抱き締め擦り寄り始める。
その一連の流れを他の皆は死んだ魚の目のような顔付きで眺めていたが、何故かクレイブ一人だけが楽しそうに腕を組みながらニヤついて眺めていた。
折角の神聖な空気感の持つ大切な転移部屋が完全に色物の空気に変わってしまっているのだった。
暫く経った後、我を取り戻したクロード達とその場を辞す事になったローズなのだが、まだクレイブ達が来ただけと言うのに既に疲労困憊気味だった。
フラフラになりながらも一度部屋に戻ったローズは部屋で待っていたルイとギューちゃんを連れてこの後お茶会の会場へと足を運ぶ事になる。