21 兄と妹
「そう言えばクロード父様、道の整備はどうなったのですか!?」
よく晴れた日の午後、天気が良かったので庭のガゼボでクロード達とお茶をしていた時、ローズはふとそんな事を言い出した。
「あぁ。それならもう、大まかな目処が立っているから近いうちに着工するんじゃないかなぁ?」
「そうですね。来週にも整備が始まる筈です。
それと、お金の方なのですが、結局 ローズ様のお金は使わなくて済みそうです。」
「えっ!!??なんで!?」
正確な金額は分からないが、道を整備するのには莫大なお金がかかると思っていたローズは、自分のお金を使ったところで全く足りないだろうと思っていた。
なので、ジュリアスのそもそも使わなくて済んだと言う言葉の意味が分からずに目を丸くしてしまっていた。
「公爵家の私財を使って道を整備すると言う噂を何処かから聞きつけた近隣の貴族達が自分達も融資したいと仰いまして、その方達から頂いたお金などを使用する事でどうにかなりそうなのです。
ただ、此処の領地の整備が落ち着いた後は融資した貴族達の領地などを優先的に行う事になりそうなのですが…」
そう言いながら、丁寧に説明してくれたジュリアスが申し訳無さそうな顔でローズを見つめるのでローズはニッコリと微笑み返すと
「それは全然構わないですよ!いずれはこの国の全ての道を綺麗にしようと思っているので!!」
と、自分が直接するわけでは無いのに胸を張って断言していた。
クロードはそんなローズを愛おしそうに見つめながら頭を撫でているし、ローズも撫でられて満更でも無さそうだった。
ジュリアスは、その光景を見つめながら少し眉がピクついたがグッと堪え続きを話し出した。
本当は、自分がローズの頭を撫で撫でしたかったのにクロードに先を越された可哀想なヤツであった。
「それと、道を整備するにあたって財団を作ることに致しました。
その代表として本来ならローズ様に立って頂く事になるはずなのですが、先日、クロード様達との話し合いにおいてローズ様があまり表立って目立つ存在になるのは好ましく無いと言う方向に話が纏まりました。
ですからその結果、ルイに代わりをお願いしましたのでルイが財団の代表を務める事になり、この度エリオット様の実家の養子になられました」
一度に全てを言い終えたジュリアスは、一人やり切った表情だが、ローズは話の内容が消化しきれずに困惑気味だった。
「えっ??ちょっ…ちょっと待って!!色んな情報がありすぎて頭に入って来なかったんだけど……えっ??ルイがどうしたって言ったの??」
一気にジュリアスが言い切った事で色んな情報が頭に入り込んできてしまい絶賛困惑中のローズは、ルイとジュリアスを交互に見回すと
「あぁ…ローズ様にはまだ伝えておりませんでしたね。今後の事を考えまして、先日、エリオット様とルイが養子縁組の為の契約魔法を行いました。
それによりエリオット様とルイには魔力による血縁関係が生じ現在は国に認められた歴とした親子にあたります」
「はぁ…」
(えっ??お母様とルイが親子??そうなったらお母様はルイのお母様なの?お父様なの?そしてルイはお母様の事を何て呼ぶの???)
正解はどちらとも呼ばずに、今まで通りエリオット様なのだが、ローズはそんなどうでもいい疑問を浮かべつつこの話を終わらせてしまっていた。
本来なら他にも聞かなければいけない重要な事がありそうだがローズにしてみれば差したる問題でもないらしい……
「じゃあ、ルイが財団の代表になるんですか!?その事をルイは納得してるんですか?」
ローズは目立つ事を嫌うルイが、国の一大事業になりそうな物の代表に立つなんて本当に受けるのかと頭に疑問が浮かんでいる。
クロード達の事なので嫌がるルイを無理矢理なんて事になっていたら大変だと慌てて問いかけた。
「あぁ。了承は得ている。契約を行う際にきちんと確認済みだ!!」
「そうだ。俺は納得してる。お前を守るのに必要な事なら大した問題じゃない」
(か…カッコいい……よう〜〜!!!何なの!!偶に出すイケメン発言……)
「なら…….いいんです……嫌なのを無理矢理とかじゃなければ…」
クロード達もルイにきちんと了承を得ているようでホッとしたローズは恥ずかしさから顔を赤らめながらも少し安心したようで軽い笑みを漏らした。
「ルイ。お前では無くローズ様ですよ!!全く……
ローズ様。大丈夫に決まってるではないですか。だいたい、ローズ様の為になる事をルイが嫌がる訳が無いではないですか。」
「そう…なんですかね……」
(いや〜結構ある気がしますけど……)
自分に関する事でどんな事でも喜んでするのはお前だけだよ!!とジュリアスにツッコミを入れたくなったローズは、ルイとエリオットが親子になったったと言う面白情報を手にルイと一緒に自分の部屋へと戻って行くのだった……
***
「お・兄・ちゃ・ん!!」
楽しそうにスキップしながら部屋へと戻ったローズは、丁度お茶を入れ終わったルイと一緒にお茶を飲んでいる時、不意ににそんな事を口にした。
「ブッハッッ!!!ゴホッ……ゴホッ…いきなり何を……言い出す……」
突然の、ローズからのお兄ちゃん呼びに驚いたルイは思わず飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。
「もう…ルイ、汚い!!…ルイ!!お母様と親子になった事を、内緒にしてるなんて酷いよ!!」
「ゴホッ…ゴホ……あぁ。悪りぃ悪りぃ。そんな事すっかり忘れてたんだよ!!」
未だに焦りが治らないのか少し咽せながらも理由が分かり動揺が収まってきたルイだったが、ローズは未だに頬を膨らませて不貞腐れている。
「ぶぅ…もう…そう言う大事な事はきちんと教えてよね!!でも…お母様と親子になったって事は私とも兄妹になったって事でしょ!!お・兄・ちゃん!!」
「だー!!!やめろ!!全然違ぇーから!!だいたい子豚の妹なんて出来た覚えはねぇよ!!」
ルイは、ローズに見つめられながらのお兄ちゃん呼びに堪らず顔を真っ赤にしながら悪態を吐くが、ローズはいつもの仕返しとばかりに意地の悪い顔でニヤついている。
「酷い!!ルイお兄ちゃん!!」
「それ、マジでやめろって!!」
「照れちゃって……可愛いんだから。お・兄・ちゃん!!」
普段とは逆で主導権を握られ、当分このセリフでイジられそうな予感がするルイは、残りの紅茶を飲みながら小さくため息を漏らすのだった。
だが、やられっぱなしも性に合わないルイは、力強い瞳でニヤついているローズを見返すと「おい。俺の妹になったんなら兄の言う事はしっかり聞かないといけないよなぁ??」と逆に意地の悪い笑みを漏らし出した。
「はっ??……….とっ……突然…何…言い出すわ…け….」
今まで主導権を握っていた筈のローズなのだが、まだ 何かをされた訳でも無いのにルイが一言発しただけで既に主導権を奪われたような気になってしまい狼狽え出してしまう……
「どうした??妹よ!!目が泳ぎまくってるけど、俺等は兄妹なんだろ!!兄弟2人で仲良くしようじゃないか…」
そう言いながら楽しそうに微笑んでいるルイの目が笑っていない様な気がするのだが、何故か隣に座られ、首筋から頬にかけて撫でられるローズは蛇に睨まれた蛙の様に身動きが取れなくなってしまう……
前世含めて兄妹などいた事がなかったローズは、兄弟で仲良くするとはどう言う事なのか想像も出来なかったが、せっかく取った主導権を奪われて、このままやられっぱなしになるのは絶対に嫌だったので意を決してそのまま倒れ込む様にルイの胸に顔を寄せた。
「じゃあ…仲良くする方法……優しく教えてね。お・兄・ちゃん……」
この瞬間、ルイの負けが決定し、暫くの間 ジュリアスによって凍らされたかの様にルイはその場から動けなかった……
そんなルイを見て、ご満悦のローズと、残念な生き物でも見る様にルイを眺めているギユウは、ルイが回復するまでの長い間、ルイを視界の端に捉えつつも無視を決め込んで楽しそうに戯れ合うのだった……