20 Let'sクッキング Part2
ローズは今日も、朝からご機嫌でソファに腰掛けギユウを膝の上に乗せると楽しそうに話しかけている。
ローズとギユウは一見、ペットとそれを愛でる美少女だが、その実を知ってしまうと、何も知らない無垢な少女にセクハラを繰り返す変態オヤジの構図だった……
結局、クロード達とも話し合った結果、ローズの部屋で過ごすことになったギユウは、常にローズにべったりしており、寝る瞬間でさえもローズのベッドに潜り込んで行く始末であった。
その度にクロード達のこめかみがピクついているが、ローズもギユウも何処吹く風で、日々 きゃっきゃして戯れ合っている。
今朝もそんなローズとギユウのやりとりを、少し後ろで控えているルイが表情を殺し無言で眺めているのだが……
「ギユウ!!今日は、ギユウの為に私が腕によりをかけて美味しいご飯を作るよ!!」
「グゥー!ギュー!!」
《それよりもローズを味見、させろ!させろ!させろーーー!!》
「ふふっ。嬉しいのね!!じゃあ、お利口さんで待っててね」
「ギュー!!」
《しっかりと綺麗にして来いよ!!》
「……くっ………」
(あのクソ竜!!調子に乗りやがって…….絶対にこの屋敷から追い出してやるからな!!)
我慢の限界が近く、怒りに震えているルイを尻目に、勝ち誇ったかの様な雰囲気を醸し出し見つめているギユウに、更に怒りが増すが、ローズはそんな2人の無言の攻防には全く気づく事なく、るんるん気分で料理部屋へと向かって行った。
***
「ディタ。今日は宜しくね!!ギユウの為に美味しいご飯を作りたいの!!」
やる気満々で胸の前で拳を握りしめたローズとは対照的で苦笑い気味のディタは
「ローズ様、聞きましたよ。また、とんでもない拾い物をしたそうですね。屋敷中の人間が怯えていますよ。まぁ、私もそのうちの1人なんですけどね」
ディタを含めた屋敷の人間が大多数 ローズの拾ってきた竜に怯えている事を報告すると、ローズは少し申し訳なさそうな顔をするが、それでも自分が保護した竜は可愛い子竜だと微塵も疑っていないようで
「ディタ…ごめんね。でも、ギユウは話に聞くような凶暴な竜じゃなくて、凄くいい子で、大人しいし誰も傷付けないから大丈夫だよ!!」
1000年以上は生きている変態ジジイの竜なのだが、そんな事は知る由もないローズは自信満々に無い胸を張って主張する。
「ふふ。では、ローズ様のそのお言葉を信じると致しましょう。それで、今日はどんなものを作りますか?」
結局、この屋敷の人間の殆どがローズに激甘の為、荒唐無稽なローズの話をディタは笑顔で頷き納得すると、早速料理の話を始めるが側で控えているルイは、そんな訳あるかー!!と心の中で一人叫び声を上げているのだった……
「今日はね!!ギユウの好きな物を詰め込んだスペシャル料理だよ!!早速、作り始めようーーー!!」
そう言って元気よく片手を突き出したローズは慣れた手つきで手早く材料の準備をし出した。
「よし、じゃあまず初めに、これをこうして……ここにこうやって…….こうして行くと……」
「ローズ様……本気ですか……!?」
「えっ!!!???ギユウは喜びそうだけど……」
驚きか隠せないディタの横でローズが何をしているのかと言うと、鳥を丸々一匹持って来ると躊躇うことなく切り落とされている鳥の首に手を突っ込んでぐしゃぐしゃと中を洗い出し始めた。
そのまま鳥の中と表面も綺麗に洗い終わると乾いた布でしっかりと水気を拭き取っていくのだった。
「いや、そうですよね。竜の事はローズ様が一番よく分かってらっしゃいますしね。申し訳ありませんでした。それではお手伝いします!!」
「ありがとう……じゃあこれとコレもお願いね」
「はい!!畏まりました!!」
そこで自信満々に料理しようとしてる人間が、一番 竜の事を分かって無いんだから、そいつの言う事だけは信用するなよ!!と、ツッコみたくなる気持ちをグッと堪えたルイは、二人の事を無言で見つめている。
そうこうしている間にもローズとディタの2人で、鳥の首から手を突っ込んで楽しそうに食材を詰め出していく。
テキパキと料理を仕上げて行くローズの後ろ姿を無言で見ていた 料理の事をよく知らないルイは、その一連の動作に驚愕し、魔女の料理だと恐怖に震えるのだった……
***
「ギユウお待たせ!!」
「ギュー!!」
《淋しかったぞローズ!!早く我を抱きしめろ!!》
「ごめんねギユウ!!お腹減ったでしょ!!でも、もうご飯だからね!!」
昼食の時間になり、ローズがギユウの為に作った愛情たぷりの手料理が出来上がった頃、ローズは少し焦った様に息を弾ませながら料理を持って現れた。
やはり会話は噛み合ってないが……
今日、一緒にお昼を食べるのはクロード、ジュリアス、ギルバートとルイで、ジュリアスとルイはローズの強い希望により、家族だけしか居ない時は基本的に一緒に食事を摂るようになっていた。
最近の食事の席では、わざわざローズの隣の席に竜の為の席も用意されており、今回の昼食ではローズの隣にジュリアスとギユウ、ギユウの隣に渋々ルイ、向かいにクロードとギルバートが腰を掛けていた。
「さぁ、ギユウも一緒に食べましょう!!私がギユウの為に一生懸命作ったんだよ!!」
「ギュ。ギュー」
《可愛いローズ、そんなに我の事が好きなのか?あとでお礼のキッスでもしてやろう!!》
「ヴッンン!!ローズ……それがローズの作った料理か!?」
わざとらしく大きめな咳払いをしたクロードが、横目でギユウを睨みつつ話の流れを変えようとローズに話題を振るが…….
「はい!!鳥の丸焼きです!!ギユウは鶏肉好きだもんね!!」
「グッギュー!!」
《そんな物よりローズの方が好きだ!!ローズを味見、させろ!!させろ!!させろーー!!》
「ふふっ、ギユウは本当食いしん坊なんだから…!!じゃあクロード父様、ギユウに食べさせてもいいですか!?」
「……ここで、はい。とは、言いづらいが……とりあえず皆で昼食を取ろう。では、皆で感謝を込めて頂くとするか、午後も健やかに過ごせるように乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
各々思うところがあるようだったが、そう言いながらも渋々、食事を食べ始めた。
ギユウもローズが腕によりを掛けて作った鳥の丸焼きに嬉しそうに齧り付いた………
「….…ギュッ グッ グホッ!!」
《おぉい!!ローズ!!コレは一体なんだ!!!》
ローズの作った鳥の丸焼きを嬉しそうに齧り付いた瞬間、何故かギユウが思い切り咳き込みだした。
「ギユウ!いくらお腹減っててもゆっくり食べないと喉に詰まっちゃうよ!!もう、まだ子供なんだから……ね!!」
「………ギュ……」
《………………………》
「…仕方ないなぁ……私が食べさせてあげる」
『…………………』
皆が無言で成り行きを見守る中、手の掛かる子供を持つ母親のようにローズは丸焼きを上手に切り分け中身と一緒にギユウの口の中へ運んでいく。
「ギッ グッ……グゥー………ウェ」
《うっ…ローズ…もうやめてくれ!!コレは一体何なんだ…肉に色々なフルーツの味と食感が混じり合って……ゔぇー…いくらローズが作ったと言っても……》
ローズがギユウの為にとディタと一生懸命作ったのは、鳥のお腹の中にギユウの好きなフルーツが沢山詰まった鳥の丸焼きだった。
こんがり焼けた鶏肉と温められて柔らかくドロドロになった様々なフルーツ達が絶妙なハーモニーを作り上げていた。
初めてディタがコレを作ると知った時はローズの正気を疑ったが、竜の食べ物の事など全く分からないので全てローズに任せてしまっていた。
ローズを諭せる者がいない調理場は、ローズの独壇場と化しローズ渾身の創作料理が誕生したのだった。
ローズによる繊細な気遣いで人とは違う生き物に食べ物を作る為、薄味に拘り、殆どフルーツの甘味と鶏肉の味しかしない食べ物はいくらローズを愛する竜と言えども受け付けなかったらしい……
だが、そんなギユウの思いになど微塵も気が付かないローズは、ギユウと意思の疎通も出来ない為、ギユウに対して更に追い討ちをかける。
「ギユウ!!今、グゥーって言った!?美味しいって事!?凄い!!美味しいの!?ホラもっと食べて!!」
「グッ…ギュー……グゥッ ウェー」
《お前等、何 笑い堪えてんだよ!!覚えてろよ!!後で全員殺すぞ!!………嘘です……って言うか…ローズをどうにかしてくれ、頼む!!我が殺される!!もう食えん……無理だ……》
無垢な少女の無自覚の暴力に、皆 俯いて肩を震わせていたが、嬉しそうに料理をギユウの口の中へ運び続ける悪魔……もといローズを見て、流石にギユウに同情したのかクロードが止めに入った……
「ローズ…ギユウは、まだ子供なんだからあんまり食べさせても可哀想だよ!!」
「そっか!!ごめんねギユウ!!もうお腹いっぱいだった!?」
「ギュー!!」
《無理!!もう無理!!いくらローズを好きでもこんな物は食べられん!!》
ギユウは、ローズに分かって貰いたくて必死に首を何度も縦に振り下ろした。
「そっか…そしたらコレは夕食に取っておくね!!」
「…………」
可愛い愛しのローズの死刑宣告に、ギユウはガックリと肩を落としてその場に項垂れるのだが、クロード達は、ギユウとローズの一連のやり取りを顔を伏せて肩を震わせながら必死に耐えるのだった…….
その日からクロード達の中では、竜は怖い存在では無く、ローズには何をされても拒否出来ない、残念な生き物に格下げされたのだった……