18 ローズの秘めごと 6
「それで、2人揃って重要な話とは何だ!?」
ローズは自室のベットの中で深い眠りにつき 自分達の気配以外は感じられない程 辺りが静まり返った夜も更けて来た頃、ルイとジョイに呼び出されたクロード達5人は談話室へと集まっていた。
急な呼び出しの為に皆が集まるのが遅い時間になってしまい少し不機嫌そうなクロード達は、今日に限ってお酒も飲まずに各々がいつもの自分のポジションに座っており、重苦しい雰囲気が部屋の中を包んでいた。
だいたい普段からローズが一緒に居なければ、皆コレが通常状態なのだが、そんな事は知る由もないローズは一人夢の中で幸せな奴だとルイ達は心の中で悪態を付いていた。
だが、そんなルイ達もまた、クロード達と似たようなものでもあった。
そんな自分達の事は棚に上げているルイ達は、これから話す内容に 気が重くなって仕方なかったが、これ以上躊躇っても彼等の機嫌を損ねるだけなので、ルイは意を決して口を開いた。
「落ち着いて聞いて下さいね。最近ローズがよく居なくなっていたと思うんですが、何をしていたかが判明しました!!」
「ルイ!!ローズではなくて、ローズ様ですよ!!いい加減覚えなさい。まったく……
それで、一体…ローズ様は何をしていたんですか!?」
場の雰囲気に呑まれジュリアスの前で、また うっかり呼び捨てにしてしまったルイは、ジュリアスからの小言と、これから話す話の内容に軽く肩を落としながら普段より少し小さくなってしまった声で話しを続ける
「はい…申し訳ありません。それで…ローズ様は、ある生き物の世話をしていたようで、今日、こっそりと自分の部屋へと持ち帰っていました」
「それの何が問題なんだ!?別に厩舎で飼えばいいだろう……??」
アルベルトは何だそんな話かと軽く格好を崩すと片手を振りながらルイの言葉を軽くあしらった。
「はっ!!まさか…また魔獣なのですか!?」
ジュリアスは、ローズがまた魔獣と一緒に居たのかも知れないと少し焦るが、ルイとジョイは、唯の魔獣ならどんなに良かっただろう…と、軽く天を仰いだ。
だが此処でモタモタしている場合では無いんだと己を奮い立たせ覚悟を決めると……
「それが………子供の竜のようです……」
『………………』
皆の目が点になった……
「ちょっと、待って!!貴方達、自分達が何を言ってるか分かって言ってるの!?
まぁ……仕方がないのかも…ねぇ……??まだ、子供だから魔獣と竜の違いが分からないのかしら??」
一瞬、皆の目が点になり固まってしまった為、時間が止まったような感覚に陥ったが、エリオットの呆れた様な声でクロード達は少しずつ我に返っていった。
「フフッ。何を改って言い出すかと思ったら、まだまだ子供だな!!」
ギルバートも自分を取り戻したようでルイ達を鼻で笑い出す
「まぁ…仕方ないだろ!!竜なんて一生のうちに一度見られるかどうかの存在なんだ!!若い奴らが見間違える事くらいあるだろう!!」
アルベルトは、そんなルイ達に同情するように、クロード達に向かってルイ達のフォローを入れるが
「だとしても魔獣がローズ様の部屋にいるのも不味くないですか!?」
「そうだな……そっと駆除するか!?」
ジュリアスとアルベルトの間で駆除の話が出たところでルイとジョイは慌て出した。
「やっ…止めてください!!今は、ローズ様の料理部屋に居るんですが絶対に刺激しないでください!!」
「そうです!!それと、ローズ様がいない間に勝手に見に行くのは禁止です。何が起こるか分かりませんので…」
普段は比較的冷静で物怖じしない2人の異様なまでの焦りに軽く目を見開いたクロード達は、次の瞬間にはルイ達を馬鹿にでもするかのように笑いだした。
「あはっはは。大丈夫だよ!!俺たちを誰だと思ってんだ!!この国でも有数の魔法と剣の使い手だぞ!!」
そう言いながらアルベルトが部屋を出て行こうとするのをルイとジョイでアルベルトの腰にしがみ付き必死で阻止しようとする。
「絶対ダメですって!!じゃあせめてローズ様を起こしましょう!!」
『そんな事、出来るわけないだろう!!』
彼等の魂の叫びが部屋の中に木霊した……
結局、ルイとジョイにクロード達を止める術はなく、気がつくと全員揃って料理部屋の前まで来てしまっていた……
ルイとジョイは、未だに小声で不味いですって!!と静止するも、彼等はそんなルイ達を鼻で笑うとそっと部屋の扉を開いて中を覗き込んだ……
『…………………』
…が………無言でそのまま、そっと扉を閉めた……
「おい!確認したか!?」
突然小声になったアルベルトがクロード達に声を掛けると
「あぁ…確認した……見間違いじゃないよな!?」
少し焦った様なギルバートが小声で尚も確認するかの様に問いかける。
「いや…もしかしたら見間違いかもしれない……似たような魔獣って何かいなかったか!?」
クロードも普段は見せないような少し焦った表情でアルベルトに問いかけ返すと
「おいっ!?ちょっと待て!!そんな事、急に言われても……」
アルベルトも焦っている為、上手く思い出せずに狼狽え出した…
「でも……まさか……こんな事ってあり得るのかしら…….!?」
エリオットも驚いている様で、誰に言うでも無く一人でブツブツと呟いている……
普段は貴族然としてオーラがあり、とても高貴そうで振る舞いや仕草の一つ一つが優雅な人達が、夜中に廊下の隅に集まってコソコソしている姿に、あぁ〜ぁ〜だから言ったただろう…と軽く溜息を吐くルイとジョイは小さく固まる彼等の背中を同情的な瞳で見つめるのだった…
暫くの間、料理部屋から少し離れた隅で彼等が小声でヒソヒソと話し合っていると…
《そんな所でコソコソしておらずに、中に入って来い!!》
『!!!!!』
クロード達の頭の中に男の声が響いてきた……
クロード達は突然頭に響いたその声に驚いて完全に固まってしまうが、何故かその声を無視をする事も出来ずに、緊張で高鳴る胸を隠し、中々 動かない体を動かしながら、腕を必死に伸ばすと、そっと料理部屋の扉を開いた。
《早く中に入って来い!!なんだ??お前達はノロノロと我に喰われたいのか?》
『……っ………』
クロード達はその声に慌てたように中に入ると、急いで扉を閉めた。
「…あ…貴方様は喋れるのですか!?」
恐る恐るクロードが問いかけると
《我を誰だと思っておる!!お前らの様な下等生物と一緒にするな!!他種の言語を覚えるのなど造作もない事だ!!》
「えっ??でも……ローズ様には……」
ローズが一緒の時にはギューギュー言って会話になっていなかったのを思い出したジョイはボソリと呟くと
《その方が可愛らしく見えるうえに、保護欲がそそられるだろう……》
竜のクセにそんな事を言いながら、少しニヤついている様な気がするクロード達は驚愕に目を見開く……
「……なっ!!………」
(…はっ??……何なんだよ!!このクソ竜が!!竜のくせに人間の子供に対して何って事思ってんだよ!!こっちが何も出来ないと思って調子にのんじゃねぇよ)
竜の言葉に絶句したジョイは、言葉には絶対出せないが心の中で悪態を吐く……
だが、クロード達も皆 気持ちは同じだった………
そんな彼等の思いなど微塵も気にかける事なく竜は好き勝手に喋り出した。
《まぁ、冗談はこのくらいにしておいてやろう。今、しておるこの会話は互いの魔力を介して伝達しているからな、ローズは魔力が安定していないから上手く伝達できないのだよ!!それより其方達からはローズと同じような魔力を感じるが家族で合っているか!?》
「そうです。私どもは皆、ローズの家族です!!」
竜の問いかけに、しっかりとした声で答えたクロードに
《そうか…なら仕方ない……ローズと共にいる事を許してやろうではないか》
少し偉そうな雰囲気を醸し出している竜に、カチンときている様子のクロード達は
((((((( はっ??おおい!!誰目線なんだよ!!保護者は俺らだぞ!!クソっ!!また面倒くさい奴が現れやがって……)))))))
と皆の思いは一つに纏まっているが、誰一人として言葉を発する者は居なかった。
《それに、我は其方達よりもずっと年上なのだぞ!!しっかりと敬うのだ!!》
「えっ??幼体じゃないんですか!?ローズ様は、まだ子供だって言ってましたけど……」
何処からどう見てもまだ成体になっていなそうな竜に、思わず口を衝いて出てしまったジョイに、ギユウは、ローズに出会う前の出来事を思い返すかの様に話し出した。
《王の座を巡って争いが起きた時に相手の魔力で吹き飛ばされて…な……気が付いたらこの国の辺りに居たのだが、負った傷が結構深くて……そのまま必死で飛び続けたのだが、成体だと飛ぶだけでも魔力を多量に使う。
だから幼体に姿を変えて魔力と体力を温存していたんだが、ローズに助けられた辺りで力尽きてな……もうダメかと諦めかけた時にローズが突然現れて……
我の前に天使が舞い降りたかと思ったぞ!!》
(いや…まぁ…ローズは天使だけれども……)
そんな事を思いつつ、どうにか竜の住む土地へ帰って欲しいクロードは、意を決してギユウに帰りを促す。
「傷も治ってきたなら竜達の居る場所に帰った方が良いのではないですか!?」
《負けた元竜王に戻る場所など無い!!それにローズは我の番にするのだ!!》
胸を張って偉そうに宣言する竜に、思わず
「無理に決まってるでしょうが!!」
と、ツッコんでしまったジュリアスに少しムッとしたような雰囲気を出した竜が口を開いた。
《何故だ!!我は地上最強の生物の竜だぞ!!名誉な事ではないか!!
だが……まぁ…今は、ローズの腕に抱かれているのが気に入っているから、当分は幼体のまま過ごすのもいいけどな!!あの…小さくて柔らかくて暖かい腕の中は最高だからな!!》
((((((このクソエロ竜が!!))))))
皆の思いはやはり一つだった……
《いいか…ローズと我は一心同体なのだ!!コレからは我の事も家族と思い、ローズ同様に丁重にもてなせよ!!》
『………はぁ〜………』
無闇に手を出せない……出したところで敵う確率などほぼ無い竜を前に、マジで面倒くさい生き物を拾ってきたと、今度ばかりはローズの行動にクロード達もガックリと肩を落とすのだった。
本人には強く言えないが……