16 ローズの秘めごと 4
「えっ??何で……えっ!?凄く大人しくていい子だよ!!」
ジョイの公爵領の端まで届きそうな断末魔に、ローズはギユウを抱いたまま挙動不審に狼狽えてしまう……
「ばっ……お前……それ、竜だぞ!!」
「……はっ??………」
(リュウ……??りゅう……???竜……??竜!!!!竜ってまさか竜!?あの絵本とかに出てきてた!!伝説の生き物の代名詞の!!えっ……??でも…想像より小さいんだけど……??)
「お前…ヤバいよ。それ!!内緒にしてとか言う問題じゃねぇぞ!!このままにしてたら公爵家だけじゃなくて国を巻き込んでの大問題になるぞ!!」
ジョイは顔を顰めながら真剣にローズに諭し出すが、今一危機感に欠けるローズは
「えっ!?何で!!小さいし大人しいんだよ!!人懐っこいし!!あんまり危険そうじゃないけど……
ねぇ〜〜〜ギユウ〜〜!!いい子だよね〜」
「グッギュー!!!」
「うおっ!!怖ぇ〜!!」
「何でよ!!可愛いじゃん!!」
ローズはジョイの大袈裟な驚きぶりに頬を膨らませて反論する。
「いいか…ちゃんと聞けよ!!その生き物は、古来から居る伝説の生き物として国の保護生物になってるんだけど獰猛で危険なんだ!!」
ジョイは真剣な顔でローズをしっかりと見据えると、竜についての説明を詳しくしはじめる。
人間が生活する何千年も前から存在したとされる竜は、国の保護生物に指定されており、無闇に攻撃する事を禁止されている。
竜自体も獰猛な生物とされているが、無闇に人間の住む地に来る事は無く基本的には互いに干渉する事無く生活していた。
だが、この国にある記録の中で、数千年前に一度だけ竜が暴れた事があり、たった1匹の竜に対して国に在籍している全ての騎士団や魔術師の力を使い討伐に当たらなければいけないほどの力を持っているようだった。
自在に空中を飛び回り魔力も高く、力も強くて頑丈の為、討伐には相当の犠牲を強いられ、その時ばかりは国の存続も危ぶまれたほどだった。
そんな絶対的な強さを持つ竜なのだが、実は仲間意識が強く基本的には群れで行動している為、一匹で居る事自体が珍しく、数千年前の竜の事件も、竜の素材が欲しかった当時のハンター達が番と一緒に居た竜の雌竜に無闇に攻撃を仕掛けた所、怒った雄竜に襲われたのがきっかけだったらしい……
雌竜はハンター達の不意の攻撃により死亡したらしいが、もし、その時に雌竜が死亡しなかったり、近くに他の仲間が居たとしたら、この国は終わっていたとも言われるほど危険な生物のようだった。
ローズはこんな小さな可愛らしい生き物が、そんな凶暴な生物に成長するのか甚だ疑問だったが、ギユウの背を撫でながら大人しくジョイの話を聞いていた。
「でも…この子は普通の竜より小さそうだけど、ジョイの勘違いじゃない!?」
「あ??違ぇよ!!竜は人間よりも成長のスピードがずっと遅いんだ!!いくらこの国の人間が長生きするって言っても、人間とは比較にならないくらい魔力の高い竜は、その何倍も長生きするんだ。
だからその分、成長スピードも遅いらしくて、成体に成長するまでに100年くらいかかるって言われてるぞ!!」
(マジか……竜さん……こんなに可愛らしいのに君は本当は何歳なんだい!?お願いだから年下でありますように……)
「ねぇ……そしたらこの子どうすればいい!?内緒で飼ってたら怒られるかなぁ!?」
「そんなの俺に分かるわけねぇだろ!!って言うかマジでヤバいから元の場所に戻して来なさい!!」
ギユウをギュッと抱きしめながら不安そうにジョイに問いかけるも、少し呆れ顔のジョイは何処かの母親のようなセリフを吐いて諭す。
………が……戻すも何も元々ここで見つけたので、ローズにはどうする事も出来ない……
何故子供の竜が怪我をして此処に1匹で居たのかは分からないが、ローズが来る度に嬉しそうにする子竜に愛着を持ってしまったローズは、もう手放す事など考えられないので、ギユウを抱いたままそっとジョイに近づいて行った。
「おっ……おい!!!」
「グッ…ギー ギー グゥー!!!」
ギユウはローズの腕の中にしっかりと抱き抱えられているが、ジョイに近づく度に歯を見せ威嚇するように鳴きだした。
「ギユウ大丈夫だよ!!ジョイはお友達だから安心だよ!!」
「ギュー!!!ギュー!!!」
尚もローズの腕の中で暴れるギユウをそっと抱きしめて優しく撫でていると、ギユウも少し落ち着いて来たのか威嚇するように歯は見せるものの暴れはしなくなり、そのうちに大人しくなっていった……
それに味を占めたローズは、とてもいい事を思いついたようで一度ニッコリ笑うと小屋の中の布にギユウを包みギユウを抱き上げたまま歩き出した。
「おい!!お前…それどうする気だよ!!まさか……」
ローズの笑顔に嫌な予感を感じたジョイは急いでローズの後を追いかけた….…
***
ギユウを布に包んでそっと腕の中に隠しバレないように持ち帰ったローズは、自室に戻ると驚愕した顔のジョイが焦ったように声をかける。
「おい!!まずいって!!それどうする気だよ!!」
「えっ!?無闇に攻撃出来ないなら丁度いいからお互いに徐々に慣れて貰って、此処で怪我が治るまで飼うつもりだよ!!」
ギユウを抱き締めたまま何て事ない様に答えるローズにジョイは思わず声を荒げてしまう……
「無理に決まってんだろ!!馬とか飼うのと訳が違うんだぞ!!」
「大丈夫だって!!私 以外は触れられないなら、勝手に捨てられる心配もないし…」
「話が噛み合ってねぇーし、大丈夫って……そう言う意味じゃねぇんだよ………」
ジョイはどうすればいいのか分からずに額を手で押さえると天を仰いだ……
「よし!!まずルイからだね!!ギユウ此処で待っててね!!」
「ギュ??」
「絶対…ヤバいって……!!」
ギユウに部屋で待つように伝えると、楽しそうに部屋から出て行くローズの背中を慌てて追いかけるジョイは、この後のルイの惨状を思うと、普段は敬遠し合って相手を思い遣る事など殆ど無いのだが、愁傷様です……とルイを哀れに思い心の中で静かに手を合わせるのだった……