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14 ローズの秘めごと 2



    グキャ  ギャッ  グエッ



「ちょっ……止めっ……フッ……キャハハハ…くっ……擽ったいよ……やーーめーーてーー」


 手当が終わった後、鳥のような生き物の顔が近づいて来たと思った瞬間、ローズの顔を舐め回しだした生き物にローズは堪らず笑い出した。


「ふふっ。もうやめて!!分かった…分かったから!!」


「クギュ?」


「ふふっ。可愛い!!う〜ん…….名前が無いと呼びづらいなぁ〜!!グギュ、グギュ言うから君は今日から君はギユウね!!」


「グッギュー!!」


 ローズに名前を付けられたギユウは、首を伸ばして空を見上げると嬉しそうに空に向かって鳴き出した。

 そんなギユウを見ながらローズはクスクスと嬉しそうに笑った後、はたとギユウを屋敷に連れて帰ろうと思い立ったのだが、明らかに普通の生き物とは違いそうなその見た目に、万が一連れて帰ってサギュウの時のような事になっても困ると思い留まり、ギユウの傷が治るまではローズが此処に来て面倒を見る事を決めた。


 嬉しそうにローズの体に頭を擦り付け擦り寄っているギユウの首を撫でながら


「ギユウ…私、そろそろ屋敷に一度戻らないと行けないんだけど…ここで、いい子にしてられる!?」


「グギュウ??」


 ローズが申し訳なさそうにギュウを覗き込みギュウの切長の鋭い瞳を見つめながらそう問いかけると、不思議そうに首を傾げるギユウに、ローズはまた愛おしさが込み上げ優しく背中を撫でながら


「明日、食べ物を持って来るから、それまでいい子にしていてね!!」


 そう微笑むのだった。


「グュギュー!!!」


 ローズが食べ物を持ってくると言った瞬間に、まるで言葉が分かっているかの様に大きく縦に首を振ったギユウにローズはクスクスと可笑しそうに笑うと抱き締める様にしていたギュウから離れ静かに立ち上がった。


 そのままスカートの汚れを落とすかの様に数回手で叩き落とすと


「クスクス。じゃあいい子にしててね!!」


 そう言いながらローズは急いで屋敷に戻る為、走り出すのだった。


 ローズが去って行くのを心なしか寂しそうな顔で見つめるギユウの姿に後ろ髪を引かれる思いがあったが、これ以上は不味いと入ってきた穴から急いで屋敷へと戻って行った。




***




「ローズ!!!お前、何処に行ってたんだよ!!皆、心配してたんだぞ!!一人で勝手に出歩くなって何回言ったら分かるんだ!!お前は女なんだから、もっと慎重に行動しろよ!!」


 部屋に戻る途中で何やら焦ったようにキョロキョロと視線を彷徨わせているルイとばったりと出会したローズは、目が合った途端物凄い剣幕で怒鳴られた…


「ごめん……ルイ……屋敷の庭を散歩してたんだけど気付いたらこんなに時間が経っちゃってて……直ぐ戻るつもりだったんだよ!!」


 あの焦ったような表情は自分を探していたのだと、心配を掛けてしまった事に反省したローズは素直にルイに謝った。


「チッ……次は無いからな!!早く公爵様達にも謝って来い!!凄い心配しててこれから探しに行く所だったんだからな!!」


「ごめん……今から行ってくる……」


 未だに怒りが収まらないようで普段の数倍不機嫌そうな顔をしているルイに小さな声で謝ると、そのままクロード達の居る執務室へ向かい歩き出した。


 …が、ルイに背を向けた瞬間、ローズは胸に手を当て


(あっぶな……もう少し遅かったら勝手に屋敷から出た事がバレる所だった……屋敷の近くだし、魔力で探られたら一瞬だもんね!!ハァ〜。。。セーフ!!)


 ルイ達の心配を他所に、勝手に屋敷を出たのがバレたら今以上に怒られ、万が一は部屋から出して貰えなくなると、自分の魔力が探りづらい事を気付いていないローズは、探し出されずに済んでホッと胸を撫で下ろすのだった。


 本来ならルイから怒られた事を落ち込むところを、何故だか少し歩みの軽くなったローズは、心なしか楽しそうな雰囲気を纏い足取り軽くクロード達の元へ向かって歩き出した。


 何故か嬉しそうなローズの姿を後ろで見ていたルイは、なんだか腑に落ちない気持ちになり、自分達に心配を掛け怒られたくせに何故 ローズはご機嫌なのかと、ローズの不可解な行動に眉根を寄せるのだった。


「クロード父様、心配かけてごめんなさい!!」


 ローズはクロード達の居る執務室へ入った瞬間、思い切り頭を下げた。


「ローズ…無事ならいいんだ!!ただ、いくら屋敷の敷地内でも、迂闊に一人で出歩いては行けないよ!!」


 クロードはそう言いながらローズをエスコートする為に立ち上がると、慣れた手つきでローズをソファに座らせる。


「そうですよ!!一応、この屋敷で働いている人間は家族関係や素行も含めてこちらで全て把握していますが、何があるか分かりませんからね。ローズ様はとても可愛らしいんです、その事に自覚を持って気を付けて行動してください。いいですね!!」


「はい…ごめんなさいジュリアス父様!」


「……っ………」


 しれっと隣に腰掛けたジュリアスからお小言言われるが、ジュリアスの太腿に手を置いて上目遣いで申し訳なさそうに謝れば、ローズの可愛さに充てられたジュリアスは、口元に手を当てて悶えだし、それ以上は何も言わなかった…


 その一部始終をローズの後ろで見ていたルイは、呆れた様な表情をジュリアスに向けていたが、ジュリアスは そんなルイを横目でチラ見するも、ルイの存在は完全に無視するかのように愛するローズを愛でている。


「それで……私の天使は今日どんな冒険をしていたんだい!?」


 クロードがイタズラな笑みを浮かべながら楽しそうにローズに問いかけて来た。


「今日は……神殿の先まで行って来ました!!!」


「あの辺りは手入れもされて無いし、特に何も無いだろう??」


 クロードは不思議そうに首を傾げるが、尚もローズは楽しそうに元気よく答える。


 さっきまではしおらしく反省した素振りを見せていた筈なのに、ローズの楽しそうな雰囲気を見たルイは「お前の変わり様は一体なんなんだ!!こいつ絶対反省してねぇな!!」

 と、ルイの額に青筋が立っている気がするが、全く気が付かないローズは楽しそうに会話を続け、横にいるジュリアスがルイを見ながら何故かニヤついている……


「そうですね。特に何がある訳では無かったですが、でも、あまり行った事の無い場所だったので面白かったですよ!!」


「ふっ。そうか……でも屋敷内だからと言って気を抜いてはいけないからね!!」


「はーい。クロード父様!!」


 そう言いながらクロードにギュッと抱きついた。

 これ以上は何も言わせない為のローズの必殺技である。

 案の定クロードはそれ以上何も言えなくなり羨ましそうにしていたジュリアスにも同じ事してその場を収めたローズだった。


 そんなローズを後で見守っていたルイが拳を握りしめ苦虫を噛み潰したような顔をしていたが…

 そんなルイにはローズは全く気が付かず、クロード達はルイの存在などしれっと無視をしてローズを愛でる事を楽しんでいた。




***



 次の日、ローズは「少し疲れてるから午後は少しお昼寝したい…」と言ってルイを追いやると、ギルバートとアスレチックを作る時に使う道具や果物などの食べ物を大きな布に絡んで持ち、急いでギユウの所へ向かうのだった。


「ギユウごめんね!!淋しかった!?食べ物とか持って来たよ!!」


「グッ、ギューーー!!」


 嬉しそうに空に向かって鳴いたギユウは、ローズが近づいて行くと顔を擦り付けながら甘えて来た。

 その人懐っこい可愛らしさにローズの胸は撃ち抜かれてしまい、一頻り撫で回したあと、ギュウが何を食べるのか分からなかった為に、こっそりローズ専用の料理部屋から拝借した果物や肉などをギユウの前に置いてみた。


 ローズ専用の料理部屋はローズがいつでも何でも作れるように常に食材で溢れているが、ローズが使用しなくても余った食材は動物達のエサや使用人達の賄いなどに消える為、とくに無駄にはならずローズが変に気を遣わないような配慮がしてあった。


 ギユウは不思議そうに首を傾げながらローズの持って来たものを眺めた後、目の前にあった果物を一つ咥えてパクンと口の中に入れた。


「クッ キュー!!ギューーー!!!」


「ふふっ。ギユウ美味しい!?それはリンゴだよ!!他にも葡萄やバナナもあるから沢山食べてね!!」


「ギュー!!ギュー!!」


 ギユウは嬉しそうにローズの持って来た果物をパクついている。


 この国には季節の果物とかは特に無く、魔法を使って温度管理が出来るので、どんなフルーツも野菜でも一年中食べられる。


 ローズはその中でも比較的食べやすそうな果物を選んでギユウの元へ持って来ていた。


 ギユウは、まだ傷口が痛いのか羽は動かさずに少し長めの首を動かしながら必死に果物をパクついている。


 ローズは暫くの間ギュウの背中を撫でながらその可愛らしい姿を眺めていたが、何かを思い立ったように立ち上がるとギルバートと使っている工具を取り出し、近くの木の枝などを切り落とし出した。

 ギユウが雨風を凌げるように即席の小屋を作ろうと思い立ったからだ!!


 この数年の間にギルバートと様々な物を作り上げて来たローズにとっては簡易的な小屋などお手の物なのだ。


 1時間も経たないうちに四角い小屋を作り上げたローズは、そこに果物などを包んできた大きめな布を敷きギユウを抱き上げるとそっと小屋の中に入れてあげた。


「ギユウどう!?寒くない!?」


「グッギュー ギューーー!!」


 使い心地を確かめる為に小屋を覗き込んだローズにギユウは嬉しそうに返事する。


「クスクス。大丈夫そうね!!ギユウ……今日は私、もう行かないと行けないの……明日また来るから、この中でいい子にしてられる!?」


「ク……キュ……ッ….」


 嬉しそうにローズに擦り寄っていたギユウは、ローズが帰らないと行けないと分かった様で、首を下げ寂しそうに俯くと小さく鳴いた。


「ギユウ……ごめんね。そんな寂しそうにしないで……明日も沢山フルーツを持ってくるから……ね!!」


「…キュ………」


 ローズがギユウの頭を撫でながら必死に慰めるも、まだ少し寂しそうに瞳を潤ませたギユウに引き止められそうになってしまうローズは、小さく首を振りながら自分を奮い立たせると、その場で立ち上がった。


「ギユウ……ごめんね!!いい子にしててね!」


 ローズはそう言ってギユウを一度ギュッと抱きしめると急いで自分の部屋に戻って行った。



***



(ふぅ〜〜危ない!!外に出た事はバレてないよね!!)


 誰にも会わずに自室へ戻ったローズは、急いでナイトドレスに着替えるとベッドの中へ潜り込んだ。

 すると10分も経たないうちに部屋の扉が開きルイが部屋の中へと入ってきた。


(うわ〜〜ギリギリセーフ!!もう少し遅かったら危なかった!!ルイって直ぐ怒るんだもん!!)


 そんな事をベッドの中で考えていたローズにルイはそっと近づくと、ローズを起こす事無くそのままベッドの中へ入ってきた


(……はっ??……何故…???ナゼにルイもベッドに入って来るの!?何???ルイも眠いとか!?でも…もう小さい子供じゃないのに……)


 突然ベッドの中に入って来たルイにローズが戸惑っていると、そのまま後ろから抱きしめるようにローズを引き寄せたルイはローズの耳元に唇を寄せ


「随分とゆっくり寝てたんだなぁ……なんだ??楽しそうに…一人で外で遊んでる夢でも見てたのか!?」


 と耳元で息を吹きかけるように囁いて来た。


(バレてるーーー!!絶対バレてる!!やばい!!!ルイさん……物凄くご立腹のようですが、怖くて後ろを振り向けない……って言うか物理的に振り向けない……離して……!!このままだと違う意味でルイに強制的に眠らされる!!!)


 前回の二の舞になりそうなほど羞恥に悶えるローズは、自分でも分かるくらいに顔が真っ赤になってしまっている。


 だが、ルイの顔を見るのが怖くて目を開けられずにさっきよりも強く目をギュッと瞑っていると、後ろから抱きしめる手を一度緩めたルイは、ゴロンとローズを自分の方へ向けてもう一度抱き締めだした。


 「あれ。。ローズ……顔が赤くなってるけど、熱でもあるんじゃ無いのか。。。大変だ。直ぐに確かめないと…」


 酷く棒読みで言葉を発したルイは、一度 片手でローズの髪をかき上げローズの顔がはっきり分かるようにオデコを出すと、ゆっくりと顔を近づけキスでもしそうな距離でオデコ同士をくっ付けると、熱を測る素振りをして来た。


 その瞬間ローズは、とてもじゃないが耐えられなくなり思い切り腕を突っぱねて、全くびくともしないルイの胸を押しながら叫んだ


「ルイーーー!!!もう〜無理!!!やめてよ!!起きてるって知っててやってるんでしょ!!」



「ぁん!?なんだ…ローズ起きてたのか。。。全然知らなかったよ。。顔が赤いからてっきり熱でもあるのかと思ったけど元気そうだな。こんなに元気なら昼寝なんてしてなくても、一人でだって出掛けられそうじゃないか……」


 尚も棒読みなルイは、ローズの横で肩肘を付きながら意地の悪い笑みを浮かべローズの長い髪を指に絡ませ遊ばせながら楽しそうに話している。


(あっ……完全に怒ってる……)


「くっ……すみませんでした……」


「クス。何の事だ!?……ただ……次は無いからな!」


 溢れんばかりの笑顔のルイの目が全く笑っていない事に、ローズはただならぬ恐怖を感じるのだった……




……


 だが、それで懲りるローズではなく、この日からローズとルイの熱い戦いが始まるのだった……


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