13 ローズの秘めごと
ローズは、今 一人きりで庭を散策していた。
何故、1人きりなのかと言うと、遡る事 一時間程前……
世話をしている動物達との触れ合いを終えて自室に戻っている最中のこと……
「ねぇ、ルイ!今日も みんな元気いっぱいだったね!!しかもピーちゃん2号に おいで〜 って呼びかけたら、ちゃんとこっちに向かって来たんだよ!!凄くない!!!???」
ローズは、毎朝の日課である動物達の世話の合間に新しいウサギ(誤って最初のウサギはローズのお腹の中へと旅立ったので…)ピーちゃん2号との触れ合いを思い出して楽しそうにルンルン気分でルイに話しかけた。
「フッ。。その内、食べられるとも知らないで呑気なウサギだな!!」
嬉しそうにピーちゃん2号との触れ合いを話すローズを横目に意地悪そうな顔をしながら酷い発言をしたルイに、ローズはカチンときたのかムキになって反論しだした。
「食べないよ!!もう飼ってる動物は食べないって言ったじゃん!!」
「そんな事言ったって、お前……あいつ等がこっそり別の奴に変わってても絶対気付かないだろ!!」
知らない間に可愛がっていたウサギを食べてしまった事があまりにもショックだった為、クロード達に もう2度と飼っている生き物は食さないと宣言をしたローズだが、その事を側で見ていたルイは知っているにも拘らず、揶揄うように酷いことを口にしてローズのオデコを突っついた。
ルイに突かれたオデコを両手で押さえつつも少し不機嫌そうに頬を膨らませるローズは
「そんなの気付くに決まってるじゃん!!毎日 世話して触れ合ってるんだから!!」
そう言い放つとルイの脛を思い切り蹴飛ばそうとした。
……が……軽く躱され鼻で笑われる。
(チクショウ…)
「フッ…そうかよ!!この間、夕食でウサギ肉のシチューが出てたけど、さっきのヤツは本当にピーちゃん2号なのかなぁ〜」
片眉を上げて勝ち誇ったようにローズの事を見下ろすルイに、完全に頭にきたローズは尚も鼻息荒く詰め寄った!!
「ルイ!!!意地悪!!いい加減にしないと本当に怒るよ!!」
「悪りぃ!!悪りぃ!!もし変わってたとしても今度からは、お前には言わないからさ!!」
ローズのあまりの剣幕に軽く仰け反りながら謝りつつも、全く悪びれた様子が無いルイに何故か言い知れぬ不安が頭を過ぎるローズは……
「……………」
(えっ!?何??まさか…本当に変わってるとかないよね??もうヤダ〜〜!!この手の冗談は、冗談なのか、真実か分かりづらいんだよ……!!!ルイめ……ちょっと大人になってきたからって調子に乗って………私だってルイの事をギャフンと言わせられるんだから!!!今に見ててろよ!!)
何処ぞの小悪党みたいなセリフを胸に抱いたローズは、全然 悪びれる様子もないルイに一泡吹かせたくなり、着替えると言ってルイを衣装部屋から締め出すとさっさと動き易いワンピースに着替え、窓からバルコニーへと飛び出した。
更にバルコニーから隣の部屋に飛び移り自分の部屋から抜け出したローズは、してやったりとほくそ笑み スキップしながら庭へと出て行くのだった。
何も知らないルイは、ローズの着替えが終わるのを部屋のソファに腰掛けて窓の外を眺めながらニヤついて待っている。
先日の夕食以降、ウサギ(ピーちゃん2号)が別のウサギに変わっているのに全く気が付かないで、楽しそうに話し掛けながら世話をするおバカで鈍感なローズの姿を思い出し、可愛くてポンコツ気味なローズが愛おしくなってしまっていたのだ……
獣人のルイは臭いや微妙な変化で直ぐに気が付くが、元々天然なローズは、ルイが軽く指摘してみても全く気が付かず、ルイを酷い呼ばわりしながらプリプリ怒っている。
ルイは先程の怒って頬を膨らませていたローズを思い浮かべながら馬鹿な子ほど可愛いとはよく言ったもんだなぁ…とニヤつく顔を必死で堪えながらローズの事を待っていた。
***
(ふーんだ!!ルイなんて、馬鹿みたいにずっと部屋で待ってればいいよ!!
でも…公爵家の庭を一人で散歩って初めてかも……さぁて、何処に行こうかなぁ??)
ルイを出し抜いて一人で散歩している事に気を良くしたローズは、ルンルン気分で庭を散策しだした。
いつも遊んでいる庭の方ではなく、契約する時に向かった神殿がある方へ向かい歩きだし、神殿を抜け、さらに奥へ向かい歩いて行く。
あまり手入れが行き届いていない草木が多い茂った場所を手でかき分けながら気にも留めずに鼻歌混じりで進んでいくと……
キュー キュー キュー
(んっ??何か聞こえた?)
ローズは何か生き物の様な声が聞こえた気がした為、その場で立ち止まり辺りを見回しながら耳を澄ませてもう一度、聞いてみる。
キュー キュー キュー
(あっ!!!やっぱり聞こえる!!何処かで鳥が鳴いてるかも!)
何処からかキューキューと鳥の鳴くような声が聞こえ、何か生き物が近くに居ると確信したローズは、鳴き声のする方へ向かって歩き出した。
公爵家の庭と言っても、とても広大で周りをぐるっと一周するだけでも半日は掛かりそうなほど広い。
神殿の奥になると皆は普段からあまり使用する機会もなく、滅多には行かない方なのか草木が生い茂っていて歩くのもやっとであった。
そんな道なき道を進んだ先の壁に囲われた向こう側から先程の生き物の声が聞こえてきていた。
ローズは屋敷の外から聞こえているのではどうする事も出来ないと半ば諦めて腫を返そうとした時…
ふと壁から草が出ているような場所が何故か目に留まり、惹きつけらたかのようにその部分を凝視してしまう……
そこの一部分だけ変な風に草が生えており、壁から生えているように見えるのがどうしても気になったローズはそのまま近づいて行くと、そっと草に手を伸ばした……
(あっ……穴が空いてる…)
ローズが触れた草の部分は壁から生えている訳ではなく、穴が空いている場所から草が出てきているようだった。
小柄なローズならギリギリ入れそうな穴を見つけたローズは、自分でも気が付かない内に穴へと自分の体をねじ込んで外の様子を覗き込もうとしていた。
穴に身体を捩じ込んで通り抜けようとするローズはは、ジュリアスが見たら卒倒しそうな、とても公爵令嬢とは思えない見るに耐えない姿と行動力であった……
(あっ!!入った!!このまま外に出られそう……)
本人に危機感と言うものが全く備わっていないローズは、何も考えずに公爵家の外へと一人で出て行ってしまう……
そこはローズが以前連れ去られた小屋がある森の外れなのだが、本人はそんな事には全く気が付かないまま泣き声のする方へと向かい歩き出した。
歩みを進めるにつれて大きくなる鳴き声にローズが耳を傾けていた時、ローズの視線の先に普通の鳥よりは少し大きな、中型犬くらいの首の長い鳥のような生き物が地面に倒れて鳴いているのが見えた。
(あっ!!鳴き声はあの子だ!!なんか様子がおかしいけど、どうしたんだろう??怪我してるのかもしれない!!)
ローズは不自然に倒れている鳥にそっと近づくと様子を伺う様に優しく声をかけた。
「どうしたの??怪我でもしたの!?大丈夫!?」
キューキューと大きな声で鳴いていた鳥は、ローズの声に反応したようで不意に鳴き声を止めると首だけを動かしローズの事を仰ぎ見た。
暫くお互い微動だにしないで見つめ合っていたが、鳥のようなモノは不思議そうに首を傾げるとローズに向かって頭を下げるようなポーズをとった。
その姿を呆然と、見ていたローズは鳥が頭を下げるようなポーズをしたのを見ると、ハッと我に帰り 鳥のすぐ側までそっと近づき、その姿をよく観察して見る。
(あっ!!怪我してる!!)
横たわる鳥に近づいたローズは鳥の羽のような部分に何かで切られたような傷があり、そこからドクドクと血を流しているのに気が付いた。
(大変!!直ぐに手当をしないと……でも鳥の手当てって何したらいいんだろう!?)
暫く悩んでいたローズだが、モランの存在を思い出すと、何か手当する方法を知っているかも知れないと、モランの所へ向かうために鳥のような生き物に向かって
「今 助けてあげるから、ちょっと待っててね!!」
そう言うと急いで駆け出した。
***
「はぁ。はあ。はあ。モランさん……鳥の羽が傷付いて血を流していたらどうすればいいんでしょうか!?」
息を切らしたローズが厩舎に居たモランに唐突にそんな事を言い出した!?
モランは、ローズの突然の訪問に驚いた後、不思議そうな顔をしていたが少し考える素振りを見せた後……
「そうだなぁ……あっ!そうだ!!ちょっとまってて!!」
そう言い残し、モランは厩舎の中の用具入れの中で「あれ…どこやったっけなぁ…」とゴソゴソと探し始めた……
「あぁ。あった!!これは動物用の止血剤なんだ。
魔力も込められているから大概の傷はこれで大丈夫だと思うけど、もしその生き物の傷があまりにも深い場合は傷の部分を焼く事も考えないといけないんだ。ただ、そうじゃなければこれで大丈夫だと思うよ!!」
そう言って瓶の中に入っているクリーム状の薬をローズに手渡してきた。
「ありがとうございます!!」
ローズは、ホッとした様にお礼を言いながらその瓶を受け取るがモランの顔は晴れずに少し心配そうにローズを見つめている。
「ローズちゃん…もし、新しい羽が折れて出血していたとしたら、そこが生え変わるまで治りが遅いし、血も止まりにくい、その場合は傷付いた新しい羽根を抜いてあげないといけない場合もある。
見てみない事にはなんとも言えないけど、その怪我した鳥を直接ここに連れて来る事は出来ないのかなぁ!?それとも、その場所に僕も一緒に行こうか!?」
心配そうなモランの言葉にローズは少し考えるも、やはり無理だと言う様に首を横に振ると
「う〜ん、今のところどっちも難しいから止血剤と包帯だけもらってそれでも無理そうならまた来ます!!じゃあ急いでるからありがとうモランさん!!」
とモランに言い残すと急ぐように走り去って行った……
「……………」
(ローズちゃん……連れて来られないし僕が行けない場所って何処なの……??また…皆んなに内緒で危ない事してないよね……)
ローズの言動に一抹の不安を覚えたモランは、走り去っていくローズを見つめながら溜息を漏らすのだった……
***
「ごめん!!お待たせ……!!待っててコレ止血剤なんだって今塗ってみるから!!じっとしててね!!」
ローズは血を流しながらグッタリと横たわる生き物の傷口に止血剤を塗ると持ってきた包帯でしっかりと羽根を巻き出した。
すると流れ出ていた出血が徐々に収まり出し、モランの所へもう一度行く必要は無さそうだった。
ローズが傷口がどうにか大丈夫そうでホッと胸を撫で下ろした瞬間
傷の手当てをしてもらっていた鳥が首を上にあげ
ギュイーーー
と大きな叫び声を上げた。
ローズはすぐ側で突然声を上げ鳴き出した事に目を見開き鳥の方へ顔を向けると、空に向かって吠えていた鳥がローズに向き直り真っ直ぐと見つめると、驚き過ぎて動けないローズに向かって顔を近づけて来た。
「えっ……ちょっ……まっ…やめてーー!!」