12 呼び出し
コン コン コン
「入るぞ、クロード。。言われた通り連れてきたぞ!!」
午後になり、騎士団の仕事に一区切りをつけたアルベルトは、急いでファルスター公爵家に戻り クロードのいる執務室を訪ねると、一人の男性を連れていた。
「あぁ。忙しいのに悪いな!!君もそこに掛けてくれ。ジュリアスは、ルイを呼んできてくれるか!?ローズとギルバートと一緒に居ると思うから、ローズはそのままギルバートに任せて、ちゃんとお前も戻って来るんだぞ!」
クロードは、いつもローズにくっ付いて側を離れないジュリアスを怪しんで、しっかりと念を押すが、心外そうに眉を上げ 困った様な顔で周りを見回しながら両手を上げたジュリアスがしれっとクロードに話し出した。
「分かっておりますよ。ローズ様に関する重要な話し合いですからね!ローズ様と過ごす時間も大切ですが、ローズ様の平穏を守ることは私の最重要課題です!!直ぐに呼んで参りますよ」
「…あぁ。頼んだ!!もうすぐエリオットもこちらに来るはずだからな!!」
「はい!!!」
普段ならしない様な とてもいい返事を笑顔でしたジュリアスにクロードは眉を寄せるが、ジュリアスは何食わぬ顔をしながら足速に退出して行くのだった。
***
「ごめんなさい!!お待たせしちゃったかしら!?」
「いや…今、ジュリアスとルイも来たところだ。エリオットも此処に掛けてくれ」
少し息を切らしたエリオットが執務室に入って来たのを確認すると、クロードはエリオットを自分の隣の席へと促し、エリオットも大人しくクロードの横に腰掛けた。
執務室の中には普段からクロードとジュリアスが仕事をしている机の他に、軽い打ち合わせなどを行う為に細長い重厚な作りのテーブルとそのテーブルを挟む様に大きな皮張りの2台のソファが置いてある。
現在はその1台のソファにクロードとエリオット、アルベルトが腰掛け反対側のソファにルイとアルベルトが連れて来た男性が腰掛けていた。
ジュリアスが彼等に紅茶を入れ終わり、クロードの後ろに着いたのを背中越しに感じながらエリオットは思いを巡らせるように話し出した。
「ローズちゃんも…もう、そんな時期になってきたのね……なんかあっという間ね………
それで、彼がクロード達が言っていた子?アルベルト…彼…本当に見込みはあるの!?」
エリオットは目の前の男性に何か思うところがあるようで、少し眉根を寄せてアルベルトに問いかけた。
「あぁ…問題は無さそうだ!!本人もやる気があるようだし、今、一緒に騎士団で訓練を受けさせているが、下の奴らには負けなくなってきている。
魔法の素質も充分だし、コイツはまだ若いからな!!このまま鍛えていば いい線は行くんじゃないか!?」
アルベルトは、なんの問題もないと、連れて来た男性の方を向きながら少し嬉しそうにエリオットに答えている。
「あら!?貴方、思ったよりも凄いじゃない!!初めて会った時は目も当てられなかったけど」
エリオットは彼を少し見直したように、目を見開くと茶化すように微笑んだ。
「ありがとうございます!!ローズ様を守る為にも、これからも頑張ります!!」
男性もやる気が漲っているようで、少し張り上げた声と共に机に付きそうなくらい頭を下げて決意表明をするが横に座っているルイは納得出来ないと言う様な表情を浮かべながら話し出した。
「俺は認めたくありません。こんな奴にローズを守れるとは思えないし、足手纏いです。ローズを守るのは俺一人でも充分事足ります!!」
ルイは終始不機嫌な様子で、ローズの周りにこれ以上 余計な人間を近づけたくないのか、隣に座る男性の存在を認められないようだった!!
「ルイ!!ローズではなくてローズ様ですよ!!それに私も本当なら余計な人間はあまり近づけたくないんです。
ですが、ローズ様はこの先 とても稀有な存在になっていくと思われます。
この先、ルイ一人では対処しきれなくなってきてしまう筈ですし、そうなってからでは遅いのですよ!!
ローズ様の為にも念には念を入れておいて損は無いのです!!」
「……はい……」
ジュリアスの尤もな意見に何も言い返せなくなったルイは未だに表情が冴えないが、小さな声で返事をした。
「まぁ、各々 色々と思うところがあるようだが、来年にはローズも学園に入る。その為にも色々準備をしておいて損な事は何一つ無い」
クロードもローズについては考える事が山程あるが、一先ずは置いておいて学園に入学してしまえば、クロード達の目が届かない場所で離れてる時間が増える事になるので完璧で入念な準備が必要だった。
「そうだな!!クロードの言う通りだ!!とりあえず、お前は来年のローズの学園生活を支えるべく、騎士団で訓練を積んでおけ!!」
「はい!!宜しくお願いします!」
アルベルトは力強く男性に叱咤激励をすると、男性も勢いよく頭を下げた。
「まぁ、本来なら学園生活を送るにあたって男除けの為に婚約者を作るのも一つの手なんだが、それは全員一致で却下だった!!だから学園でお前等と共に過ごせるように、きちんとこちらで手配する。しっかりとローズを守れるか!?」
「当たり前です!!」
「大丈夫です!!」
「よし!!頼んだぞ!!!ルイ!!ジョイ!!」
「「はい!!」」
クロードの熱い思いに勢いよく返事をすると、ルイもジョイも強い意志を持った瞳でクロード達を見返した。
「よし!!お前達の覚悟は、よく分かった!そしたら、まずは来年からローズと共に学園生活を送るにあたって、ローズの周りには沢山の貴族達が群がってくる筈だ!!だが、平民と獣人では彼等を抑える事は難しくなってくる。
貴族達を抑える為にもルイはエリオットの実家の男爵位、ジョイにはアルベルトの実家の伯爵位を受け継いでもらいたい。
丁度どちらも後継者がいなかったので問題は無いと思うがお前達はそれで本当に大丈夫か!?」
「はい…大丈夫です…でも、エリオット様…獣人の俺なんかに爵位を譲って本当に大丈夫ですか!?商団内から不満が出たりなど……」
「それは、大丈夫よ!!本来ならライカーに実質的な商団運営を任せて、ローズちゃんには将来、表向きだけ商団を率いてもらおうかと思っていたんだけど、最近になって、あまりローズちゃんを表に出さない方がいい気がしてたのよ!!実質的な運営はライカー達がするから、ルイは爵位と名前だけが商団のものになるの!!いいかしら??」
「まぁ…それは別にいいんですが……それでは、これから宜しくお願いします……」
ルイは未だにあまり納得出来ていない様だが、そんな事も言ってられないので一先ず了承して、先の事は後々考えることにした様だ。
「ふふっ。宜しくね!!その内、ライカー達ともきちんと話してくれるかしら??」
「はい…大丈夫です」
エリオットはルイに向かって可愛らしくウインクするがルイはどう反応していいのか分からずに少し俯いて返事をしてしまう。
すると横に座っていたジョイもアルベルトに確認しだした。
「アルベルト様も俺で大丈夫ですか?」
「あぁ問題ないぞ!!寧ろ助かるよ!!父も、既に他界しているし、俺も結婚する気は無かったからな!!
俺の家だと自ずと騎士団に入る事になっていくから、素質がない奴は養子にも出来ないしで、父親の爵位を継ぐのはもう、諦めていたんだ!!だからお前がこの先 ローズを助けながら継いでくれたら嬉しいよ!」
「はい!!ありがとうございます!!」
アルベルトは、ジョイに向かって優しく微笑むと、ジョイも嬉しそうに返事をした。
「これから養子縁組を行うが、終わったら俺の管理している領地の屋敷へお前の家族も一緒に連れて行って構わないからな!!屋敷の管理と領地運営は俺の信頼している人間に任せてあるから、お前の家族は屋敷でゆっくり過ごせばいい。その代わりお前は、訓練に励んでローズをしっかりサポートしろよ!!この間みたいな事は二度と許されないからな!!」
「はい!!ローズ様に二度とあんな思いはさせません!!」
アルベルトの真剣な問いかけにジョイも真剣な眼差しで答えるとクロードが話を区切りだす。
「よし!!そしたらこの後は、魔法契約を結ぶが、それが終わったら各々、新しい生活に慣れるように準備しろ!それでジョイは来年のローズの入学と同時にローズに付け、それまではローズにはバレないようにしろよ!!」
「はい!!宜しくお願い致します!!」
そうして来年のローズの学園入学に備えて新しい従者が誕生した。
彼もまた、近い将来ルイと一緒にローズに振り回される日々を送るハメになるのだった….
ジョイ
身長 168㎝ 乱暴に切り揃えられたグレーの短髪
黒い瞳 切長の瞳 細い通った鼻 薄い唇
成長期真っ只中の少年で、父親と共に暮らしている。
ジョイが幼い頃に父親は仕事の最中に事故に遭い、身体が少し不自由になってしまった為、幼い頃からジョイも協力しながらどうにか生活している状態だった。
だが、ローズと出会ってから町の人達もジョイに対して好意的になり、色々と助けてくれる様になっていったが、それを面白く思わない一部の人間から嫌がらせをされる事もあった様だ。
今回の養子縁組を機に父親にも楽をさせてあげられる様になったと、ジョイはとても喜んでおり、ファディル・ファルスター両公爵家に忠誠を誓う事を胸に刻んでいた。




