11 新たな決意 3
再起不能に陥っているクロード達を その場に残したまま、ローズはルイと一緒に自室へと戻っていた。
ナイトドレスに着替え、寝る支度を整えたローズは、自分の中でずっと燻っていた秘密を打ち明けた事により いくらかスッキリした面持ちだったが同時に昂っている気持ちを落ち着かせようと、ルイに入れてもらった温かいミルクティーをゆっくりと飲みだした。
「ルイ……ごめんね…驚いたでしょ!?」
湯気が立つ温かいミルクティーを見つめながらポツリと呟いたローズに
「ぁん!?別に……俺たち獣人の中では、別に珍しい話でも無いぞ!!
元々、生まれ変わりが信じられてるし、前世の記憶があるなんて話は、よく耳にしてたからな!!」
ルイはローズが何をそんなに気にしているのかと、不思議そうにすると自分にも淹れた紅茶を飲みながら何てこと無いように答えるのだった。
「へっ??そうなの!?」
ルイの思いもよらない反応に、少し俯き気味だった顔を勢いよく上げたローズは、目をまん丸と開け 零れ落ちそうな瞳でルイを見上げた。
「あぁ、獣人国では生まれ変わりが信じられているからな!!俺が向こうに居た頃は、子供だったから本当に転生したって人には会った事はなかったけど、そう言った噂話しは偶に耳にした気がするぞ!だからお前が何をそんなに怖がっているのか俺には全く理解出来ないな…」
獣人国では輪廻転生が信じられており、子供が産まれた時など祖先の生まれ変わりだとして、子供の名前に祖先の名前を付ける事なとがよくあるようだ。
その為、前世の記憶があると言ったところで、そこまでの驚きは無く、珍しい事もあるんだなぁ〜くらいの感覚のようだった。
ルイもローズの話を聞いていたが別段大した驚きもなく、ローズが何をそんなに気にして涙を流していたのか 今一理解できていないようだった。
ルイは未だに惚けた様子のローズに苦笑い気味な笑みを零すと何て事無いようにローズの頭をガシガシ撫でた。
「そうなんだね!!なんかちょっとホッとしたよ!」
ローズもやっと安心出来たようで、ルイを見上げながら笑みを漏らした。
「フッ。そっか……それに、万が一アイツ等から嫌われて捨てられたとしても俺はずっと傍にいるんぞ!!お前が成人したら俺は従属契約を結ぶつもりでいるんだ!!そうなったらお前が俺に飽きるか、お前が死ぬまでずっと一緒なんだ……だから、何も心配する必要なんてないだろ!?」
「…っ……!!」
(ぎゃーー!!何なの……!!!
愛してるって囁かれるより重い告白された気がするんだけど……
マジか……ルイさん…正気ですか……??女との免疫が無さすぎて自分がどんな発言してるのか分かってないんじゃないの!?リアル死ぬまで一緒って……何も心配要らないって……寧ろ貴方の偶に溢す発言の方が心配ですよ……
もう久しぶりに叫びたい……
あま〜〜〜い!!!甘すぎるよ!!もう甘さ通り越して、なんか…おっも〜〜〜い!!!よ……)
ルイに淹れてもらったミルクティーを吹き出しそうになったローズは、落ち着いてきていた気持ちが先程以上に昂り出した!!
心臓の音がドキドキと鳴り出してしまい、この後に眠れる気が全くしなくなっていた……
完全に挙動不審に陥ったローズの異変に素早く気が付いたルイは、ローズを上から見下ろすように見つめているが、その整った顔がひどく意地の悪い笑みを浮かべているが、その事にローズは気付いていない……
ローズはなんとなく視線を感じてフッとルイを見上げた瞬間、見てしまった事を酷く後悔したが、そのまま何故か固まった様に動けなくなってしまい、意地の悪い笑みを浮かべたまま、ゆっくりと近づいてきたルイに覗き込まれるような形で屈まれると耳元で「ずっと一緒だ」と囁かれるのだった……
ローズのキャパが完全にオーバーしてしまった瞬間、何故ルイの顔を見てしまったのかと後悔をしながらローズの意識はゆっくりと遠のいていった……
顔を真っ赤にして気絶するように眠りについたローズをそのまま抱き上げたルイは、ニヤつきながらもベッドに運び「まだまだガキだな…」と呟きそっと額にキスを落とすのだった……
***
「ローズちゃんはもう寝たかしら!?」
ルイの色気に当てられて強制的に寝かされているとは思いもよらないエリオットが、シャンパンを傾けながらローズの事を思案している
「流石にもう寝ただろう…相当、神経も使っただろうし、沢山泣かしてしまったからな……」
皆の前で散々泣いてしまった事など完全に吹き飛ばし、ルイに悶えてまくった挙句に気絶するように眠ってしまった事など知らないアルベルトが、ローズを気遣わし気に目を伏せ ウイスキーのグラスを傾けながら 中の氷を遊ばせている。
「でも…ローズに前世の記憶があるなんてな……しかも、違う世界と言っていたか?」
ギルバートは思いもしなかったローズの告白が未だに消化しきれていないようで、疑問の残る顔でクロードに問いかけた。
「そうだな…輪廻転生自体は獣人国でもよくあるようだし、この国でも耳にした事はある……珍しい事だがそれ自体は不思議ではないが……でも、それはこの世界に限った事で、ローズは前世がこの世界とは別の世界で記憶もあると言ってたな……しかも、あの知識は貴重だな。発想自体が斬新だし、この世界ではとても珍しい考え方を持っている…」
クロードは話しながらもローズの言葉を思い出し、自分の中で消化するように一人頷いている。
アルベルトも色々と思うところがあるようで
「あぁ…ローズがそう言った知識を持っていると広まるのは不味い気がするな……
何処までの知識があるかはまだ分からないが、ローズの持っている知識が何かに悪用される可能性は充分考えられるからな!!」
ローズは女性と言う ただでさえ この国では貴重な存在にあたるのに、未知の知識を持ち合わせているなどと言う付加価値が付く事をクロード達はとても危惧していた。
今でさえファディルとファルスター両公爵家の養女と言う事で貴族達から強い関心を持たれているのに、そんな事が発覚してしまえば、この国だけではなく諸外国からもローズを欲しがる人間がこの国に押し寄せてきそうだと今から頭を悩ませるのだった…
「そうですね…ローズ様にも口止めをして此処だけに留めておいた方良さそうですね」
ジュリアスも難しい顔をしながら足を組み手に持つグラスを見つめている。
「そうだな…万が一あれ以上の何かを秘めているなら面倒な事になりかねない…まぁ、どんな事があっても守っていくのは変わらないが…」
クロードもいつになく真剣な顔をしているが、そんな中……
「そうね……あの…不安そうに瞳を揺らして流す涙には悶えたわ……最高よね!!」
エリオットは一人だけテイストの違うはなしをしていた……
「やめろ変態!!お前、それローズには絶対バレるなよ!!」
アルベルトは嫌そうに眉を寄せるがエリオットは全く気にした素振りもなく煌々とした様子で、シャンパンを光に翳しながら見つめると、一口 口に含んで微笑んだ。
「フフッ。もう薄々気付いていると思うわよ!!」
エリオットの微笑みに皆が一斉に『チッ!!』と舌打ちしたところで、クロードが、何か決意した表情を浮かべ、真剣な顔でアルベルトに言付ける。
「よし!!アルベルト明日にでもアイツを呼び出す事は可能か!?」
「あぁ、大丈夫だ。こちらの方も大体の準備は整ってるぞ!!」
アルベルトも、何の事か分かっているようでしっかりと頷くとウイスキーを一気に煽った。
そうして彼等の夜は更けていった……