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10 新たな決意 2


「ローズ…そしたら、さっきの話の続きでもしようか…!?それとも…ローズの可愛さについて皆で話し合うかい!?」


 クロードはローズの横に腰掛け覗き込むようにローズを見つめると片眉を上げながら意地の悪い笑みを浮かべて話しかけた。


「い…いえ……大丈夫です!!!早く、さっきの話の続きをしましょう」


 クロードの端正な顔のあまりの近さに思わず仰け反ってしまうローズは、そんな事をされた日には、たまったもんじゃないと顔を赤らめながらも必死で否定するも


「ふふっ。ローズ様は照れ屋さんですね。まぁ でも、ローズ様の可愛さを語り出したら1日じゃ終りませんけどね」

 

「あぁ…それもそうだな!!」


 と、ジュリアスによる追い討ちにクロードが賛成し出したところで更に顔の赤みが増し変な汗が吹き出すのだった。


(やめて!!そこの親バカ2人組!!本人目の前にして何言ってんのよ!!そんな事、一日中された日には唯の拷問ですからね!!)


 現在は夕食も終わり、皆でお酒を飲みながら話でもしようと集まったのだが、クロード達の先制攻撃によりローズは既に疲労困憊気味であった。


 父親達に寄って集って褒められまくったら堪ったもんじゃないと話を矛先を変える為、昼間の話の続きを提案するが、実際は その話をした方が自分の首を絞める事になっていく事を本人はまだ気が付いていなかった……


「じゃあローズ。まず俺から質問してもいいかい!?」


 ギルバートは膝の上でシャンパングラスを遊ばせながら前屈みになるとローズを横から見上げる様なかたちで話だした。

 昼間の話の中で、どうしても気になっている事があったのだ…

 ニッコリと微笑みながらローズに問いかけるギルバートの笑顔を見たローズは、普段から見慣れている爽やかな笑顔の筈なのに何故だか背筋が寒くなるような気がしていた。


 「はい…いいですよ」


 今日は普段よりも若干肌寒かったし、背筋の寒気など気のせいかと呑気に構え、これから始まる尋問大会の事など知る由もないローズは、フルーツジュースを両手で持ちながら呑気に返事するのだった……


「ローズはどうして道を綺麗にしようと思ったの?お尻が痛くなるなら普通は自転車を改良した方が早くない?」


「そうですね……それも一理あると思いますが、私、普段からルイ達と一緒に町へ行く時があるんですけど、そんな時は色々な店の人達と話す機会も多くあって、話の中で道が悪いせいで、また品物がダメになったんだよって言う話をよく耳にしていたんです。

 そう言う話を聞く度に思っていたんです、だったら道を綺麗にすればいいのにって……

 だから今回、自転車に乗って町へ行った時にお尻が痛くなって、あっそうだ!!道を綺麗にすればいいんだって思いついたんです……」


 ローズは、馬車で出かけた際に通りすがる人が歩きにくそうにしている事や、商品が馬車の揺れで傷つきダメになった話、そもそも脱輪などで馬車が倒れて商品全てがダメになってしまった話を思い出していた。

 町へ行くようになってから、町の人達とも仲良くなったローズは、町の人達と色々話していく中で、偶に暗い顔をしている人達がおり、そう言う時に心配して声を掛けると、大体がそう言った話になる事が多かったのだ。

 その度に誰か道を綺麗にすればいいのにと思っていたが、まさか自分が提案する事になるとは当時は夢にも思っていなかった。


「そうだな…道と言えば、ああ言った物だと言う固定概念があったから、道を綺麗にするなんて発想は今まで無かったけど、よく考えたらとてもいい考えだ!!」


 クロードは何処か納得したように頷きながらローズの頭を誇らしそうに撫で付けた。


「あぁそうだな!!でも、よく道を作るのと雇用を結びつけられたな!!新たな雇用を作って町を活性化させたいなんて……素晴らしいよ!!

 ファディルもファルスターの領地も他領に比べると比較的潤ってはいるけど、まだまだ生活が苦しい人達も一定数は居る。だからとても素晴らしい考えだと思うよ!!!」


 ギルバートもローズの考えに賛成のようで、その様な事を思いついたローズを称賛するように両手を広げて抱きしめた。


(ひぃ〜!!恥ずかしい……)


「あ…ありがとうございます。私……国や領地の勉強をしていく中で、今、この国で深刻な問題になっているのが、少子化と、もう一つが民の自殺だって教わりました。

 この国は比較生活水準は高いですが、その中でも、中々 働き口を得られない方や得られたとしても低賃金の為、生活するには貧しい人達、その日暮らしの方も多く、いつまでも続く長い人生に絶望して自殺する人が後を絶たないと教わりました」


 ローズは国や領地の勉強の中で少子化と自殺が深刻な問題として国を挙げて改善を試みていると習った。

 それは前世の日本でも同じような問題が起きていた為、ローズも前世の社会科の授業で習った記憶があった…

 本当に貧しい国などは、それこそ日々の生活に一生懸命になるあまり、自殺を考える余裕も無い事が多いのだが、人々がある一定の生活水準に達すると、貧しいと言っても自分の生活を省みる心の余裕があり、そうなると他者と比べてしまいより絶望する事になっていく。

 何処の世界でも同じような事はあるが、この世界では、人の人生がとても長く、永遠に続くかのような人生の中で、人々の絶望もより濃くなっているような気がしていた……

 そのため、ローズはよく授業の中で新たな雇用を生み出せる何かは良い方法はないかと考えており、道の不便を感じた時に、これはいい考えだと思い提案したのだ。

 道を整備するにはとても時間がかかるし、道は国 全体に広がっている。

 一度整備したとしても、常に手入れは必要で雇用などがなくなる事はなく、とてもいい働き口になると考えていた。


「新たな雇用を生み出せばそれによって働き口を得て、人生に新たな光を見出せる人達が増えると思いますし、この前のジョイみたいな被害も減っていくと思うんです。

 それに、働き手が増えれば領地の税収も増えて、領自体も潤い、ひいては国全体に広がっていくと思うんです!!」


 ローズはずっと思っていた考えを口に出来てとてもスッキリした気持ちだった……


「素晴らしい考え方ですね。12歳でこれ程の事を考えられるなんて天才なんて言葉では収まりきれませんよ!!」


 普段よりも声を張り上げたジュリアスが感動した様に目に涙を浮かべてローズを讃え出した。


 その仕草に我に返ったローズは、周りを見渡すと皆も同じように感動していてローズは自分の発言がやり過ぎた事に気が付いた。


(ヤバっ!!調子乗りすぎた……ちょっとカッコいい事言ってる自分に酔っちゃってたよ…どうする……もう誤魔化すの…無理じゃない……??)


 完全に調子に乗って言いたい放題言ってしまったローズは、今更後悔したところで後の祭りである。

 全員がバッチリ耳にしているし、クロードなどはローズの考えに感動して瞳を潤ませている……

 ジュリアスも未だに、天才なんてもんじゃないと呟きながら、どこか光悦としていてローズを崇拝しそうな勢いだった……


 ローズは焦りに焦って瞳を彷徨わせるが、もう無理だと悟るとガックリと肩を落とした……


 そんな中、エリオットが好奇心に瞳を輝かせながらローズに質問しだした。


「でも、それならローズちゃんのお金を使う必要無いんじゃない!?領地のお金を使えば??別に今のところ困窮しているわけじゃないし、寧ろ他領よりも潤っているんじゃない!?」


「ゔ〜ん…それもそうなんですけど…今はその時じゃない気がするんです。

 いずれは領地、引いては国主体でやって行く事業だとは思いますが、領地のお金って事は民から預かった大切なお金ですよね!?

 道を綺麗にしようようと思ったのは私的な理由なので、この事業がある程度の軌道に乗るまでは領地のお金は使わずに私的財産を使いながら行いたいんです。 

 領民から頂いている大切なお金は、また別な機会に領民達の為に使いたいんです……無理ですかね……」


 ローズは道を整備するのに莫大な金額がかかる事は漠然としてたが分かっており、自分の私的なお金ではどうにもならないのではないかと少し不安になってきていた…….


「そこまで考えてたなんて……とてもいいと思うわよ!!足りない分は私の私財も寄付してあげるわ!!」


 ローズの意見に感銘を受けたエリオットは熱の篭った瞳でローズを見つめると、そっとローズの手を取るとローズの瞳から視線は逸らさずに優しく手の甲にキスを落とした。


「………っ………」


 エリオットの色気と限界を超えた羞恥でクラクラと立ち眩みに似た目眩に襲われるが麗しい笑顔のギルバートが追い討ちを掛けるように興味津々でローズにまた質問する。


「ローズは、そうやっていつも色々な事を思い付くけど一体、頭の中はどうなってるの!?一度思考回路を覗いてみたいよ!!

 アスレチックや自転車もそうだけど、何処かで見たり聞いたりしたの!?それとも全て自分で考えてとか!?」


「………………」


(えっ……どうしよう……まさかソコを指摘されるなんて……なんて言う……??自分で考えたフリする??それとも、前世の記憶があるって言っちゃうの!?)


 ローズはまさかそんな事まで指摘されるとは思っていなかったようで、先程まで羞恥に悶えていた気持ちが一気に焦りに変わり、思わず言葉に詰まってしまう……

 クロード達を信用していない訳では無いが、自分に別の世界の前世の記憶があって、それを元に色々考えていると話したところで信じて貰えるか分からないし……

 もし、頭のおかしい子だとか、気持ちが悪いとか思われて嫌われてしまったらと考えると、怖くなってしまいどうしても口に出す事が出来なかった。


 クロード達もローズが話し出すのを黙って待っていてくれているが、ローズは中々話す事が出来ずに、ただ口をハクハクとさせながら声にならない声を洩らすだけだった….


 どのくらい黙っていたかは分からないが、俯いてしまったローズを黙って見つめながら何とも言えない空気が部屋中を包み込んでいる中、そんな空気を変えるようにエリオットがローズに話しかけた…


「ローズちゃん…難しく考える事ないのよ……私達は家族なんだし、ローズちゃんが何を思っていても、それこそどんな人間であっても私達は もう 貴方から離れる事はないわ!!だから、安心して話していいのよ!!」


 ローズの表情から何か言いずらい事があるのだと察したエリオットは優しくローズに話しかける。

 ローズはそんなエリオットの心遣いに胸が温かくなるのを感じて、気付かない間に震えていた手で握っていたグラスをもう一度ギュッと握りしめた。


 自分を落ち着かせる為に一度ゆっくり深刻をすると緊張で震えそうになる声を抑え覚悟を決めて話し出す。


「あの……私………あの……前世の記憶があるって言ったらどう思いますか!?」


 ローズは到頭言ってしまったと、皆の顔が怖くて見れなくなり俯いてギュッと目を瞑ってしまう。


「えっ???それはどう言う……」


 ローズの発言に皆も戸惑いが隠せないようで、先程までは笑顔だったギルバートも呆然としながら、ローズを見つめると呟くように言葉を発した。


「私……皆様に保護される前……この国の森の中で、目が覚めた時……この世界の事や…今の自分の事は何も分からなかったのに……何故か違う世界の記憶があって……そこの世界の私は…16歳の女性の姿で生活していてちゃんと両親もいました……でも、ある日事故に遭って……もう、死んでしまう……って思った瞬間……気が付いたらこの世界の森の中で倒れていたんです……」


『……………』


 ローズは俯きながら話す中で未だに戸惑い、気持ちがついていかず涙が流れてきてしまう……

 何度も言葉に詰まり涙を拭いながら必死に話す姿にクロード達は言葉が出なかった….


「ごめんなさい……こんな話し……信じてもらえないと思うし……気持ち悪いですよね……あの……でも……私……」


 涙を流しながら自傷気味に話すローズに慌ててギルバートが口を開いた。


「違うんだ!!ローズの事を気持ち悪いなんて思うわけないし、ただ…あまりにも話の内容が想像と違ったから……前世の記憶があったって何の問題もないよ!!ローズはローズなんだから……」


「そうだぞ!!稀にそう言った人達も居ると聞いた事がある……だから、そんなに気にする必要は無いんだ!!」


 ギルバートに続き、アルベルトもローズの前で跪き、力強く励ますと涙で濡れているローズの頬を優しく拭ってくれる。


「そうだな!!少し驚いたけど……じゃあローズが考えた自転車とかは前世の時の記憶って事!?」


 クロードもローズに向き直るとローズの顔を両手挟むようにして涙を拭い優しく問いかける。


「そうです…前の世界では魔法なんてものは無くて、その代わり科学と言うものがあったんです……馬が引かなくても自動で動く乗り物や、空を飛んで移動する乗り物、遠くに居ても人と話せるものとか、それ以外にも色々な物があったんです……自転車もその一つで……本当は私が考えた訳じゃ無いのに…自分が考えたように話してごめんなさい」


 ローズは一度は治っりつつあったものの、話すうちに緩くなってしまった涙腺から、また涙が溢れた。


「あら!?どうして??この世界ではローズちゃんが初めて作ろうと思ったんだもの!!ローズちゃんが考えたでいいのよ!!この世界に生み出したのは貴方なんだから!!」


 エリオットはローズの側まで来ると優しく髪を梳きながらローズを慰める。


「…っ…お母様……ありがとう…ございます…」


「大体…16歳と言ったらまだ子供みたいなものではないですか!!それなのに目が覚めたら全く違う世界にいて、その世界の記憶は無いなんて……」


 ジュリアスはローズの当時と気持ちを思い心痛な面持ちでローズを見つめる


「ジュリアスお父様……」


「前の世界の記憶があるのに、今の自分の事は何も分からなかったのかい!?」


 ギルバートも心配そうにローズに問いかけた。


「…はい…….全く分かりません……

 何故あそこに居たのか、自分は誰なのか、今でも全く思い出せませんし、前世の記憶もどんどん曖昧になってきていて……あんなに大切に思っていた両親の顔や仲の良かった人達の事も今ではもう殆ど思い出せません……

 漠然とこんな世界だったなぁ…と、思い出せる程度になってきてしまっています……だから……」


 ローズは曖昧になってなっていく前世の記憶と、未だに分からない自分の存在に不安になる事があるようで、自分は一体何者なんだろうと言い知れない不安に駆られる事があった。

 自分の中にある不安をクロード達に伝えているうちにまた瞳が潤み出し零れ落ちそうになる涙を必死に堪えていると…


「そんなに不安そうな顔をしなくて大丈夫よ!!貴方はもうローゼマリー・ファディル・ファルスターでしょ!!この国一番の貴族女性で私達の大切な娘よ!!それが分かってれば大丈夫よ!!」


「お母様……」


 エリオットがローズの背中をバチンと叩くと、瞳に溜まっていた涙が一筋流れたが、エリオットはなんて事無いような笑顔に力強い声でローズを励ます。


「ほら….そんな哀しそうな顔する必要なんてないんだ!!どんなローズでも俺達は変わらず愛してるんだから!!!」


 クロードもローズを自分の方に向かせようと両手で頬を包むと真剣な目で見つめながら愛を囁いた……

 ローズはその告白により一瞬で涙も引っ込み顔を赤らめながらもクロードの手を取ってそっと自分の頬から放し、その手をキュッと握り締めながら皆の方へ向き直ると


「はい…私もお父様達の事が大好きです!!」


 ありったけの思いを込めて皆の顔を見回しながら大好きと伝えるのだった。

 ローズからの大好き発言によりクロード達はその後、再起不能になってしまった為、その日はそのまま終了する事になっていった……


 今日の話し合いの中で、クロード達からローズは、大切な事を教えてもらった……


 それは………


 ローズからの大好きの一言で、大概の事はだいたい誤魔化せるのだと言う事だった……


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