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9 新たな決意


 ローズは何故か今日もまた、一人で唸っていた……


「ゔ〜〜〜〜ん…どうすれば良いんだろう??」


 前回と同様に悩んでいる姿を後ろから眺めながら、全然 懲りた様子が見えないローズに、今度は一体何を仕出かすつもりなのかと、ルイは今から頭が痛くなってくるような気がしていた。

 机に片肘をつき、その手の上に顎を乗せて何やら考え込んでいるローズの後頭部を睨みつけ、何も思いつくんじゃねぇぞ!!と呪文のように何度も強く念じるルイだった…


「ゔ〜ん……やっぱり一度、クロード父様達と話さないと何も分からないなぁ……」


 ローズの後ろでルイが睨み付けるように何もするなと強く念じている事など、全く気が付かずにブツブツと独り言を呟きながら窓の外の景色をぼんやりと眺め頭を悩ませている。


 一見、美しい少女が外を見つめながら物思いに耽っているような姿に見えるのだが、実際はお転婆過ぎて目を離すと何を仕出かすか分からない問題児で、女性としての淑やかさなど微塵も感じさせないお子様である。

 ローズが恋に目覚めるのは、まだ当分先の話になりそうだった……

 

「よし!!此処で考えてても答えは出ないし、大切な話しがあるから明日は早く帰ってきてって、皆んなに伝えに行かないと!!」


 そう言いながら胸の前で小さなガッツポーズをとったローズは、ルイの存在など忘れそのまま部屋を飛び出して行くのだが…


 ルイは、ローズの後ろを静かに追いかけながら

(くそっ……絶対また、面倒臭い事になっていくじゃねぇか…!!マジでお願いだから大人しくしててくれ!!)

 と、小さなため息を溢すのだった……



………



 ローズが飛び出して行った先は、クロードとジュリアスが居る執務室で、仕事中のクロード達の予定など丸っと無視して突撃したローズは、部屋の扉を勢いよく開いた。


「お父様!!大切な話があるから明日は皆んなに早く帰ってきて欲しいの!!」


「何っ!?ローズの大切な話なら仕事など、してられないじゃないか!!」


 ローズの訴えを聞いたクロードは机を叩く勢いで立ち上がって焦り出したと思ったらクロードの机の上に山積みになっている書類の束を片付け出した。


「そうですね!!早く片付けてしまいましょう!!」


 真剣な顔でクロードに同意し出したジュリアスが一緒になって、今していた仕事を手際良く片付け出したので、ローズは自分の安易な発言で親バカ2人がまた暴走し出したと焦り


「今すぐじゃなくて大丈夫です!!お仕事はきちんととして下さい!!」


 と、慌ててクロード達を止めるのだった……



…………



 エリオット達にも仕事から帰ってくる度に「明日は早く帰ってきて欲しい」と上目遣いで縋るように伝えれば……

 エリオットには抱き上げられて顔中にキスされるし、アルベルトは、明日は午後から仕事は休むと言い出した。

 ギルバートはローズの大切な話なら、今日は帰らずファルスター家に泊まり、ローズと一緒に眠りながら話を聞くと言い出したので、ギルバートを邪魔に思ったジュリアスがノアにこっそりと告げ口し、明日も仕事が山積みだから帰って来いと呆れ気味のノアによって強制的に帰らされるのだった……

 引き摺られるように帰って行くギルバートの後ろ姿を見ながら、王弟の威厳は何処へ置いてきたんだと、ギルバートの事が少し心配にななってしまうローズだった…….



***



 次の日の夕刻、食事の時間にはまだ余裕がある時刻に、既に皆が揃ってしまったので、ローズは、談話室に皆を集めると一度ゆっくり深呼吸した後、真面目な顔で話し出した。


「お父様方、お忙しい中、私の為に時間を割いてくれてありがとうございます。

 まず初めに確認しておきたいのは、お母様…私の商団を運営している中で、私が自由に使えるお金ってどのくらいありますか!?」


 ローズの突然の質問に、エリオットは軽く目を見開いたあと、考える素振りを見せ、腕を組みながら片手を顎の上に乗せた。


(お母様…考えているだけなのに、その無駄な色気はなんですか……男性のクセに完敗です…お母様のアンニュイな雰囲気、いつか私も欲しいです!!)


 そんな無駄な事をローズが考えている間にもエリオットは大方、考えが纏まったのか 机に置いてある紅茶を一口飲んだ後、思案しながらも口を開いた。


「そうねぇ…細かい数字まではライカーに調べて貰わないと分からないけど、バトミントンが貴族の間で結構売れているし、最近は平民向けにも少し値段と質を下げた物を売り出したから、そのお金は全てローズちゃんの好きに使えるわよ!!後、そのうち自転車も貴族の人達に売り出すと思うから結構な金額になるはずだけど どうして!?欲しいものがあるなら言ってくれればローズちゃんのお金を使わなくても何でも買ってあげるわよ」


 エリオットは悪戯な笑みをとローズに向けるとほっぺをツンツンと突つき出した。


「そうだぞ!!城の一つや二つだってローズが欲しがる物なら何であっても買えないものなど無いんだ!!遠慮せずに言いなさい!!」


 クロードはローズが気を使って欲しい物があっても気軽に言えないのだと思い、怪訝そうな顔をするも直ぐにローズに向き直ると真剣な顔でローズに詰め寄った。


「ありがとうございます!!でも、そう言う事じゃ無いんです。私……領地の道を整備して綺麗にしたいんです!!」



    『はっ??』


 いったいローズは突然どうしたのかと皆の頭にハテナが浮かび皆の視線が先程以上にローズに集中した。


「…ローズ…一体 突然どうしたんだ??道なんて綺麗にしてどうする気だ!?」


 ギルバートは全く意味が分からないようでローズに疑問を投げかけた。


 と言うのも、この世界には、まだ道を整備すると言う考えは無く、公爵家などの貴族の家は庭師がおり庭を綺麗にする傍ら屋敷の景観を考えて地面なども綺麗に整えているが、領地の道などは、道はただの地面の延長としてしか考えていない為、馬車の通れるスペースを保っただけの道が続いているだけだった。

 その為、道は悪く、普通に歩くだけでも少し大変な思いをするほどだった。


「ギル兄様!!道なんてと言いますが、道を綺麗に整備するのは大切な事なんですよ!!綺麗な道だと、そもそも歩きやすいですし、馬車なども通り易くなる事で商団内の商品も運び易くなります。

 それに脱輪などの事故も減ると思うんです!!

 そうする事で商品の状態も良いままで届けられるようになると思いますし!!

 お母様の商団も利益が上がるはずです。

 それに道を作る作業によって新たな雇用が生まれ、更に領地が活性化すると思うんです!!」


「「「「「……………」」」」」

 

 ローズは一気に自分の伝えたい事を伝えて満足気だが、クロード達はローズの意見に言葉が出なかった……

 ローズも尤もらしい事を言ってはいるが、実際のところは、町へ行くのに自転車に乗って行ったのだが、この世界のタイヤと言うと、馬車の車輪のように唯の鉄の輪でしかなく、道が悪いと振動が直にお尻に直撃し、ある程度乗り進めると、ものすごくお尻が痛くなったのだ……


 公爵家のように高級馬車のフカフカソファーでもあれば別なんだろうけども…


 未だにこの国で、まだゴムらしきものを見つけられていないローズは、ゴムを探して、一からクッション性のあるタイヤを作り出すより、領地の道を綺麗にした方が早いと、パンがなければお菓子を食べればいい的発想で安易に口にしてしまったのである。


 自分がまだあまり知識もない12歳の少女と言う事も忘れて偉そうに発言してしまったローズは、皆が何をそんなに驚いているのか 今一分からずに、首を傾げ、自分の発言した言葉の意味を全く理解していなかった……


「ローズ……そんな知識を何処で身につけたんだ!?確かにローズの言った通り領地の道を綺麗に整備すれば品物の運搬などもスムーズに出来るようになるかもな……」


 アルベルトは驚いたようにローズに問いかけるも、次の瞬間には何やら難しい顔をしながら考え込みだした。


「それに、道を整備する人間を作れば新たな雇用も生まれるか……でも一体何処から知識を得てそんな事を言い出したんだ…….誰かに何か言われたのか!?」


「えっ!?やっ……あの………」


 ギルバートの鋭いツッコミにローズは自分の発した発言の不味さにやっと気が付いた!!


 日本にいた頃は綺麗に整備された道が当たり前にあり、悪くなった道を修繕する人達も普通にいた。

 だが、この国ではまだ道を綺麗にする発想など無かった為にローズの考え方がとても斬新に思えたのだ!


 皆の目が驚愕している事にやっと気が付いたローズは、挙動不審に瞳を彷徨わせた後、慌てて言い直し出した……


「えっ??いや……あの……わ…私……ち…違うんです!!あの……せっ…先日、そう!!先日、自転車に乗って町に行った時に道が悪くて、お尻が痛くなったから、道が綺麗になれば痛くなくなるかなぁって……思って……」


 と、追い詰められたローズは恥ずかしくて言いたく無かったはずの本当の理由を慌てて口に出してしまっていた。


「…ぷっ……あははは!!!もう〜ローズちゃん最高〜〜そう……お尻が痛くなっちゃったから道を綺麗にしようと思ったのね!!素敵だわ!!」


 エリオットは飲んでいた紅茶を吹き出す勢いで笑い出し、ローズは真っ赤になりながら口を尖らせている。


「もう……お母様…笑わないで下さい!!一生懸命考えたのに……」


「あら??だって凄く可愛らしくて、素敵なんだもの!!もう〜ローズちゃん最高よ!!」


 ローズの可愛らしい発言に我慢できなくなったエリオットは堪らずローズを抱きしめ頬にキスをしだす。


「あぁローズは最高にいい女だ!!そう言う事なら俺も協力するぞ!!」


 そう言ったアルベルトは愛おしものを愛でるように見つめた後ローズの頭をガシガシ撫でた。


「そうしましたら詳しい話は夕食の後で、そろそろ晩餐のお時間ですので…さぁ…ローズ様参りますよ」


 そう言いながら近づいてきたジュリアスに、流れるように立たされエスコートされたローズは、まだ戸惑っているにも拘らず何故か身体は勝手に動き出し、透けるような笑みを浮かべたジュリアスによって部屋から連れ出されるのだった……

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