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7 町へ行こう 3


 ローズは、自室のベッドの上で目を覚ました。


 あんなに苦しかった呼吸は、今では 嘘みたいに落ち着いていて、ローズはまだはっきりとしない頭のまま静かに目を開いた。

 暫くベッドの中でぼんやりとしていたが、ゆっくりと体を起こし辺りを見回すと、ベッドの側の窓際の壁にもたれ掛かるようにして不機嫌そうに腕を組んでいるルイと目が合った……


 その途端、眉間の皺を更に深くしたルイが壁から背中を離すと少し乱暴な足取りでローズの側まで歩み寄った。


「お前…何やってんだよ!!!」


「……ルイ…….ごめんなさい……」


「1人で勝手に出歩くなんて……お前に怪我が無かったから良かったものの、一歩間違えたら怪我させられるだけじゃ済まなかったかもしれないんだぞ!!!

 どれだけ周りが心配したと思ってんだ!!」


 ルイの鋭い視線から目を逸らせずにいたローズは、ベッドの脇まできたルイに物凄い剣幕で怒鳴られ、自分の突発的な行動のせいで色々な人達に迷惑かけてしまった申し訳無さで落ち込み俯いてしまう……


 鈍る頭で目が覚めるまでの記憶を必死に辿ると、エリオットが来てからの記憶が曖昧だが、ジョイの殴られていた姿を思い出した瞬間、ハッとしたローズは、あの後 ジョイがどうなったのか全く思い出せずに焦り出す。

 自分が安易に誘ってしまったせいで、ジョイにも大変な思いをさせてしまい、大怪我まで負わせてしまった事に申し訳なさと大丈夫なのかと言う不安な気持ちを抱き、心配になるあまりに、未だに怒りが収まらないルイを縋るように見つめ、恐る恐る話しかけた。


「本当に……ごめんなさい……あの……ジョイは、あの後大丈夫だったの……?ルイは何か聞いてる!?今度…ジョイにも謝りに行かないと……」


「ぁん!?んなもん別にいいんだよ!!アイツがヤラれたのはアイツが弱いからだ!!むしろ弱いくせにローズを連れ歩くなんてナメてるとしか思えない!俺ならそんなヘマはしないし、死んでもお前を守ってやる!!だから、お前は勝手に俺から離れるんじゃねぇよ!!」


「…………は……い………すみません………」


 怒りが頂点に達しているはずのルイの男らしい言葉に、今まであった不安な気持ちと反省の色が一気に飛び去ったローズは瞳を潤ませ頬を赤らめてしまう…


(くぅ〜.……ちょっと…ルイさん!!一般人と貴方達を一緒にしたら可哀想ですよ!!しかも…最近、どんどん大人に近づいて来て、ルイのくせに、そんな顔でそんなカッコいい事言わないでよ!!さっき起きたばっかりなのにドキドキしすぎてまた倒れそうだよ……)


 さっきまではしおらしく反省し、ジョイの事が心配で堪らなかったくせに、ルイの有無を言わせない物言いと、上から目線の俺様な発言にローズの頭は一瞬でルイの事でいっぱいになってしまっていた。

 成長期真っ只中のルイは、見る度に大人っぽくスッキリとした顔立ちになってきているし

 身体つきもアルベルト達に比べればまだまだではあるが少年のそれでは無く青年の体に近づきつつあった……

 毎日ルイの成長を間近で見ているにもかかわらず、日増しに格好良くなるルイの急激な成長の変化にローズの気持ちが追いつかずに度々ドキドキさせられてしまうのだった。


「でも…本当に無事で良かった……ローズが居なくなったって分かった時、生きた心地がしなかった」

 

「……ごめん……」


「もう……絶対…勝手に俺から離れるんじゃねぇぞ!!」


 そう言いながらルイはローズを強く抱き締めた。


(…つ……やめてよーーー!!その辺のゴロツキよりルイの方が殺傷能力高いんですけど…!!!破壊力が強すぎてその内キュン死にされられるかも知れない……)


 町のゴロツキ達より怖いルイの色気に、醒めたばかりの頭がまたクラクラし出して倒れそうになっていると、ローズの部屋の扉がノックされ心配そうなクロードとジュリアスが顔を出した。


「ローズ…気が付いたんだな!!本当に無事で良かった!!」


「心配かけてごめんなさい……クロード父様」


「あぁ….ローズ、本当に心配したよ!!これから出かける時は、必ずルイかジュリアスを連れて行かないとダメだよ!!

 ローズも今回の事でよく分かっただろ!?いくら国の中でも比較的、治安がいい領地と言えども色々な人間が居るからね!!女の子は気を付け過ぎるくらいで丁度いいんだ!!分かるかい!?」


 クロードはローズが居なくなったとの知らせを受けて、直ぐにでもが駆け付けたい気持ちに駆られたが、今日は大切な来客が控えていた為、思うように動けず、使いを出してエリオットとアルベルトに捜索を願い出た。

 エリオットに連れられてローズが屋敷に戻ってくるまで生きた心地がしなかったクロードは心配のあまり普段とは違い少し言い方が強くなってしまっていた。


「はい……分かります。心配かけてごめんなさい……ジュリアス父様もごめんなさい…」


「ローズ様……本当に心配しましたよ……貴方様に何かあったら、私は生きては行けません。お願いですからもう少し慎重に行動して下さいね」


 ジュリアスもクロードと同様でとても心配しており、ローズが屋敷に戻って来た時はエリオットの腕の中で眠るローズを見て涙を流してしまうほどだった。

 エリオットによってベットに寝かされ、その中で眠るローズを見つめながら、躊躇いがちに手を伸ばし、ローズの頬を撫でると沢山の涙を流し過ぎたせいで涙の痕が残る頬をそっと撫でていた。

 どうすればこの愛しい存在を、自分の側だけに留めて置けるのかを真剣に悩むジュリアスは、ローズ以外に大切な物など何も無いにも拘らず、目を離した瞬間に零れ落ちるかのように自分の腕の中から抜け出してしまうローズを思い、そっと額にキスを落とした。


 こうしてクロードとジュリアスに沢山のお小言を貰いつつも2人の顔を見て安心したのか、ローズは、もう一度眠りにつくのだった……




***


その夜、クロード達は談話室に集まりながら重苦しい空気の中、今日の出来事を話し合っていた……


「あの自転車とか言う乗り物は危険だな!!」


「そうですね!!元々。ローズ様は魔力が不安定なせいか居場所を察知するのが大変ですが、自転車に乗っていると常に早いスピードで動き回るので、場所を特定するのは至難の業でしたね」


「本当よ!!近くに私が居たから良かったけど、あの時だってもう少し遅れていたら、ローズちゃん自体に傷を付けられていたかも知れないわ!!」


 クロードとジュリアスが一緒になってローズの魔力を探り、居場所の特定を試みたが常に動いている魔力のせいで町に居る事の特定は出来たものの詳しい場所までは分からず、捜索が困難を極めた。

 丁度、エリオットが商団の仕事の関係で町に居たから良かったものの、もし離れた場所に居て捜索が遅れていたら、もっと大変な事になっていただろう……


 まだ12歳と言えど、側から見てもとても美しく成長しているローズは、女性特有の美しさと少女のあどけなさが相まって何とも言えない雰囲気を醸し出している。

 例えマトモな男性であっても、側に居れば間違いを起こさないとは言い切れない程の女性に成長しており、クロード達は日々気が気ではなく、その自分の美しさにイマイチ気が付いていない無自覚のローズにも心配の種が尽きなかった……


「でも、お前の男の部分をローズにバラしても良かったのか!?」


 そんな重苦しい空気の中、ふとアルベルトがそんな事を言い出した…


「仕方ないじゃない!!あんなの見せられたら取り繕ってられないわ!!」


 エリオットはローズが涙を流しながら髪の毛を掴まれていた事を思い出し身震いしてしまい自分の腕を摩りながらアルベルトを睨み付けた。


「自分で取り繕うって言ってしまっていますよ!!」


「五月蝿いわよ!!ぶっ飛ばされたいの!?アルベルトには分からないけど、剣でならあんた達には負けないわよ」


「知っていますよ!!女性ぶっていますけど、本当はこの中で一番男らしいですからね」


 ジュリアスはエリオットに不適な笑みを洩らしながらエリオットがローズに必死に隠している事を穿り出す。


 ローズが来る以前のエリオットは、基本的には女装姿だが口調などは男性のソレと同じだったし、公爵家でゆっくりする時などは動き易い男性の格好でいる事も多々あったのだ。

 だが、ローズが公爵家に来てから、同性に近い方が親近感が湧きやすいだろうと必死になって女性のように振る舞っているのだった。


 今ではそっちの方が普通になって来ているが…….


「やめてよ!!ローズにバラしたらブッ殺すわよ!!」


「おぉ…….怖い……怖い……」


 エリオットとジュリアスの軽口でその場の雰囲気が少し和み出した頃、苦笑い気味のアルベルトが、口を開いた。


「でもまぁ…ローズはどんどんお転婆になるな……」


「そうだな!!そんなところが可愛くもあるが、女の子だし、最近益々キレイになってきてるから親としては気が気じゃないな」


 クロードもローズの事を思い小さく息を吐いた。


「本当よね!!これ以上綺麗になられたら本当にヤバいわよ!!それこそ危なくて屋敷から出せなくなるわ!!」


 普段から楽天的なエリオットでさえも危機感を抱いているほどローズは美しく成長していた。


「そうですよね……もう少ししたら学園にも通わなくてはならないのに……頭が痛いです……」


 この国では10年に一度、10歳から20歳のファステリア帝国中の子供達を集めて、この国の王都を中心に各地に点在している学園に振り分け3年間学園に通わせる。

 前世で言うところの徴兵制度のような物で、集められた子供達は10歳から20歳と10年離れていても、この国では同年代にあたるので数少ない同年代の子供達が基本皆で寮生活を送り、そこでの集団生活により、人間関係を形成していく事になる…

 クロード達もジュリアスを除いて皆、そこで一緒に生活して絆を深めた事もあり、大切な国の政策の一部であった。

 人間関係の形成だけでは無く、国や魔力の勉強などもそこで行われ、その学園を卒業すると、基本的な魔力操作なども出来るようになるのだ。


 ローズが13歳になる年にその年代の制度が施行される為、クロード達が日々頭を悩ませるのだった


「その事についてはまたおいおい考えよう」


 娘を持つ父親達の悩みは尽きなかった……

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