6 町へ行こう 2
ドカッ バキ ゴンッ
「ぐっ……」
ジョイの前に立っている男が、ジョイの顔面を何発か殴りつけ 少し屈みそうになったジョイの体をそのまま蹴りつけた。
ジョイは後ろからもう1人の男に羽交い締めにされている為、倒れる事も躱す事も出来ずにされるがままだ!!
「お前だって俺らと同類のクセに生意気なんだよ!!」
「…ぁん!?…っるせぇ……ぐっ……」
男達は吐き捨てるように言いながらジョイを殴り飛ばすとジョイを拘束していた男もジョイを投げ捨てる様にして地面に倒した。
ジョイも必死に抵抗しようとするが、2人掛かりで散々 殴られたせいもあって、あまり抵抗する力が残っていない……
そのまま地面に転がり両腕で顔をカバーしているジョイを2人掛かりで蹴り飛ばしながら更に暴行を加えていく。
「やめて……お願い……もう…死んじゃうよ……」
ジョイが碌な抵抗も出来ずに男性達に暴行されている姿を、男に髪の毛を掴まれ涙を浮かべつつも視線は逸らさずに見つめ男に懇願する。
すると、ローズを拘束している男が更にローズの髪を引っ張り自分の方へ無理矢理向けると、ニヤつきながら話しかけて来た。
「じゃあ、お嬢様が俺らとお友達になって一緒に遊んでくれんのか!?ジョイより仲良くしてくれるっつーならジョイは離してやるよ!!」
まだあどけない少女に対して言うような発言では無さそうだが、目の前で暴行されているジョイの事を思うと、自分の後の状況の事など考えている余裕はローズには無かった……
ローズは男を縋るように見つめ
「分かった……そうする…仲良くでも何でもするから!!だからお願い……もう止めてください!!」
と、泣きそうになりながらも必死で男に懇願するが、蹴られながらもジョイがそんなローズを制止しだす。
「ローズ…ダ…メだ!!俺は…いいから…自分の…ぐぁ!!」
「っるせぇんだよ!!黙ってろ!!」
男はジョイの言葉を遮るように思い切り蹴り飛ばすと、ジョイに向かって怒鳴りつけた。
その瞬間……
【お前は、黙って言う事を聞いてればいいんだよ!!】
そう言いながらローズに何度も鞭を振るう男の姿が、ローズの脳裏にフラッシュバックしてしまった。
ローズは突然、上手く息が吸えなくなり、浅い呼吸を繰り返しだす……
短い息をハッ….ハッと吐くしか出来ず何度、息を吸おうと思っても苦しくて思うように息が出来ない……
ローズは思わず胸を握りしめるようにギュっと押さえ込んでしまう…
(あっ…ヤバい……息が……上手く…出来ない……)
「かっ……は……はっ……は……」
ローズは、ポロポロと涙を流しながら小さく息を漏らしだした……
「なぁ…!!女の様子がおかしいぞ…!!おい!!お前……どうした!?」
ローズの異変に気付いた男が焦りだし、拘束した手は緩めずにそのまま覗き込むようにローズに向かって話しかけてきた。
男の焦ったような少し大きな声に釣られて、他の男達も事態の不味さに気が付き出した…
ローズの異様な姿に驚いてジョイに暴行を加えていた手も自然と止まってしまい……
「ヤバくないか!?オイ!!大丈夫か!?」
焦った男達がローズに近づこうとした瞬間…
「その汚い手を離せクソヤローが!!お前らこんな事をしてどうなるか分かってんだろうな!!」
突然、男の怒鳴り声が響いた!!
ローズが涙を流しながら歪む視界の中で声のする方へ顔を向けると、普段とは違う厳しい顔のエリオットが男達を睨むようにして立ちはだかっていた。
「……お…母……様………?」
視界が滲んでよく分からないが、エリオットは普段とは違い動き易そうな男性物の格好をしており、エリオットが発した厳しい口悪も相まって状況が上手く理解出来ないローズは、まともに出来ない息を吐きながらもそれだけを呟いた。
その瞬間、エリオットは顔を歪ませると、流れる様に腰に指していた剣を抜き、そのまま素早い動きで走り出た。
するとローズが短い息を吐き出すよりも早く、ローズの側まで走り寄ったエリオットはローズの髪を掴んで呆然としていた男の腕を躊躇いもなく切り落とした。
切り落とされた男の手がローズの頭から離れた瞬間、過呼吸により上手く息が出来なくなっていたローズは、そのまま前に倒れそうになるが、エリオットは剣を握っていない方の手で軽々と支え、ジョイの前に呆然と立っている他の2人に向き直った。
「ぎゃーー!!腕が……腕が……!!!」
腕を切り落とされてパニックになる男が大量の血を流しながら地面の上でのたうち回るのを横目で見たエリオットは、ローズを抱き締めたまま「五月蝿い……」と冷たく言い放つとローズには見えないように自分の胸の中に隠し、そのまま持っていた剣を握り直すと、血塗れでのたうち回る男の首元目掛けて串刺した。
ジョイを殴る事に夢中だった2人の男は、その一瞬の出来事に理解が追いつかずに、只々 呆然とエリオットによって切り捨てられた仲間を眺めてしまっているのだった……
次の瞬間、解放され、事態を飲み込んだジョイはそのまま2人の男を押し退けるように慌ててローズの元へ駆け寄ると
「ローズ……!!ローズ……!!ごめんな……守ってやれなくて……」
ジョイは傷だらけになりながらも心配するようにローズの事を覗き込む
「……ジョ…イ………大丈…夫………!?ごめ……ん…ね……」
ローズは、ポロポロと涙を流し上手く吸えない息を必死に繰り返しながらも震える手を伸ばすと、ジョイの痛々しい頬にそっと触れながら話しかけた。
「ローズちゃん……落ち着いて……ゆっくり息をするのよ……大丈夫!もう…大丈夫だから……」
ローズの頭を撫でながらそう言うと、エリオットは優しくローズを抱きしめそのまま地面に座り抱え込むようにしてローズを抱き締め直した。
エリオットは髪を何度も撫でながらローズが落ち着くまでの間、ずっと、その場でローズを抱きしめ 慰めていた….
………
「エリオット…この状況はなんだ!!何があった!!」
ローズの呼吸も落ち着きを見せだし、少しウトウトと し出した頃、アルベルトが息を切らせてローズ達の元へ駆けつけて来た。
アルベルトが駆け付けた時には、既にローズはぐったりとしたままエリオットに抱き抱えられているし、直ぐ側では片腕を切り落とされた男が血塗れで倒れている。
アルベルトは、このとんでもない様な状況に、まさかローズが怪我でもさせられたのではないかとかと焦りエリオットに詰め寄った。
「クロードから連絡受けた後、丁度この町に居たから、ローズちゃんを探してたら男達に絡まれているところに出会しちゃって……
愛する娘が男に髪の毛を掴まれて迫られてたのよ!!加減出来るわけ無いじゃない!!髪は女の命なの!!アルベルト……申し訳ないけど、後始末宜しくね!!」
「はぁ……まぁいいが……ローズに怪我は!?」
アルベルトは心配そうに跪くとローズの体を確認し出した。
「大丈夫よ!!目の前でジョイが暴行を受けるのを見てパニックになっちゃったようだけど今は落ち着いて眠っているわ…」
エリオットはローズを探すのに女性の姿では動きづらいと男性物の格好に着替えると、部下を使いながらも必死で探し回り、やっとローズの魔力を把んで見つけたと思った時には、ローズは男に髪を掴まれながら涙を流し苦しそうにしていた。
あの時の苦しそうなローズの表情を思い出す度に胸が張り裂けそうなくらい苦しくなってしまい、エリオットは思わず顔を顰めてしまう……
辛そうなローズの姿を見た瞬間は、頭が真っ白になり気が付いたら男の腕を切り落としていたが、今、自分の腕の中で眠るローズの姿を見ていると、本当に無事で良かったと今更ながらに恐怖で震えてくる……
万が一ローズに もしもの事があったなら、きっともう……自分は生きては行けないだろう…と、そこまでローズは大切な存在になっている事に改めて気付かされたエリオットだった……
今になって震えてくる自分の腕を誤魔化す様にローズの事をきつく抱き締めると、それを見ていたアルベルトは
「そうか……後の事は俺に任せろ!!エリオットは、ローズを連れて屋敷に戻れるか!?」
アルベルトはそんなエリオットの心情を察したようで少し心配そうに見つめながら問いかけると
「えぇ大丈夫よ!!クロード達も心配しているだろうしね。
そこの子は任せても大丈夫!?」
エリオットは俯きがちに首を振ると、自分に言い聞かせる様に言葉を発し、自分の気持ちを持ち直した。
「あぁ大丈夫だ!!騎士団で事情を聞いた後、家まで送り届けるよ!じゃあ、ローズを頼んだぞ!!」
「了解!!」
そう言うとエリオットはローズをそっと抱き上げて、そのままその場を後にした。
ローズはその時の記憶は曖昧でよく分からないのだが、起きたら自分の部屋のベットの中に居て、クロード達には大変心配され、ルイにはこっ酷く叱られる事となる……