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2 移動手段を考えよう


 今日は、ライカーが車大工を連れて来る日なので、ローズは朝から落ち着きが無くずっとソワソワしていた。

 朝食も普段ならクロード達と会話しながらゆっくり食べ、食後に紅茶を飲んでから自室へと戻るのだが、今日だけは急いで食べ終えると、そそくさと自室へ戻って行った。


 クロード達は、今日 ローズの為に車大工が来る事を把握している為、ローズは楽しみで待ち切れないのかと、苦笑い気味にローズの退出を見送るのだった……


 自室に戻ると急いで、毎日の日課である動物達のお世話をする為に動き易い格好に着替え、早足で厩舎へと向かう。



………



「モランさん、おはようございます!!」


「おはよう。ローズちゃん。今日も元気だね〜!!」


 ローズはモランとの挨拶もそこそこに手際良く厩舎の掃除を終わらせると、アレキサンダーの毛並みを整えたり、生みたての卵を厨房に持って行ったりしながら、慌ただしく動き回り、いつもより早足で動物のお世話をし始める。

 とても公爵令嬢とは思えない動きである程度お世話が終わらせると……


「モランさん….今日はこの後、来客があるので、あとの事はお願いしてもいいですか!?」

 

 と、ローズが申し訳なさそうに聞いてきた。

 いつも動物達のお世話を頑張っているローズなのだから、そんなに気にする必要は無いんだと言うようにモランはローズに向かって微笑むと

「いいよ。お疲れ様!ローズちゃん、今日はずっとソワソワしてたけど、そんなに大切な人が来るのかい!?」

 と、ローズがそこまで気にする来客が気になり質問するのだった。


「はい!!今後の私の生活に欠かせなくなる、とても大切な方がお見えになるんです!!その内、モランさんにも教えますね」


 と、なんだか聞く人によっては誤解されそうな発言をしたあと、急いで自室に戻って行き、そんなローズをモランは動物の世話をしながらクスクスと笑い見送るのだった……


 自室に戻ったローズは、来客用ではあるがシンプルなワンピースに着替え始める。

 今日は黄色のワンピースで背中を黒いリボンで編み上げて首元で結んでいる。

 ローズの着替えが終わり、ルイに淹れてもらった紅茶で一息ついていると、部屋の扉がノックされライカー達が公爵家に着いたとの知らせを受けた。

 ルイを伴い急ぎ自室を後にすると、ライカー達が待つ応接室へと向かい、ルイが応接室の扉をノックした。


 ルイが応接室の扉を開けて、部屋の中に入ると、ライカー達の横には気難しそうな無精髭を生やした男性と、ルイと年が近そうな細身の気弱そうな男性が2人並んで立っていた。


「初めまして!!ローゼマリー・ファディル・ファルスターです!!今日はお忙しいところ御足労頂きまして、ありがとうございます!!」


「ぁん!?あぁ……別に……….」


 ローズが応接室に姿を現した時の車大工は、とても不機嫌そうにしていたのだが、基本上から目線が多い貴族令嬢からの突然の丁寧な挨拶に動揺が隠せないようで、辛うじて言葉を発したものの、鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンと口を開けてしまっている…


 そのままローズに促されるままに席に着いた車大工を見て、いつもは人に媚びない厳格な車大工が呆けている間抜けな姿を目にした弟子らしき青年は、気まずそうに座っている車大工の足を、自分の足で軽く蹴飛ばすと、車大工は一瞬ビクついた後、慌てて挨拶をしだした。


「おっ……おう!!俺の名はベェータだ!!こっちは弟子のブラット!!お嬢ちゃんみたいな貴族の娘が今日は何の用だ!!俺らは王宮の馬車や公爵家の馬車を手掛ける一流の職人だ!!いくら公爵家と言えども子供の遊びには付き合えんぞ!!」


 普通の令嬢なら泣き出すか怒り出しそうな口調で話し出したベェータにライカーが慌てて止めに入る。


「ちょ…ちょっとベェータさん!!困りますよ!口の聞き方に気を付けて下さいとあれほど……」


「全然大丈夫ですよ!!むしろ同感ですが……ベェータさん…一流の職人と見込んでお願いがあるのですが、全く新しい乗り物を作りたくないですか!?こう言った物なんですが……」


 ライカーの言葉を遮り、ベェータの無礼な振る舞いなど全く気にも留めないローズは、淡々と自分の思い付いた乗り物の提案をし始めた。

 ローズが説明しながら机の上に差し出したのは、ここ最近いつも机に向かって書き込んでいた数枚の紙だった。


 キレイに机の上に置かれた紙には何かの部品のパーツのような物や、作り方の手順、完成形の絵や説明などが丁寧に書き込まれていた。


 机に置かれた紙を横目でチラっと見たベェータは、驚いたように突然目を見開くと、奪うように紙を取り上げ、顔を近付けながら、まじまじと見つめ出し、何やらぶつぶつと呟き出した……


(おぉ……良かった!!見向きもされなかったらどうしようかと思ったけど、興味は引けたみたい!!)


 ローズは一先ずベェータの関心を引けた事に、ほくそ笑み、ホッと胸を撫で下ろすとベェータが思案している間、ゆったりとソファーに腰掛けゆっくりとお茶を飲み始めた。


 そしてある程度の時間をかけて紙を見つめていたベェータはローズを見つめると、


「これは本当にお嬢ちゃんが考えたのか!?どうやって思いついた!!こんな物に人が乗っかって本当に動くと思うのか!!」


 と矢継ぎ早に質問し出し、机に乗り出す勢いで興奮気味にローズに詰め寄るのだった!!


 ベェータの手元に握られている紙には、自転車の設計図がローズの分かる範囲で細かく書き込まれていた。

 まず、1〜2枚目には必要なパーツの絵が書かれていて、

 3〜5枚目にはその部品をどの様に組み合わせて行くのかの説明と絵が書かれ、最後の紙には完成した絵と、どう言う風に使用するかの説明が細かく書かれていた。


 だが、ローズは前世でよく自転車に乗っていたとは言え、自転車など作った事が無いので、細かいパーツまでは把握していない為、本当にこれで出来るのかと言う不安があり、馬車などを作る専門の人達との話し合いが必要だと考えたのだった。


 だが、この設計図の内容を何の知識も無い12歳の少女が考えたと思うとベェータは驚きを隠せなかった。


 幼い少女がこんな斬新な考えを思いつくのが信じられずに、これでどうして人が乗って走れると思ったのだろうとベェータは不思議でならなかった……


「多分…この理論で動くと思うのですが……コレが本当に動くのか、パーツはこれで足りるのか素人の私にはよく分からないので、一緒に考えながら製作して頂けますか!?」


 ローズのその言葉にベェータは机の上の紙の絵を見つめ、安定性の無さそうな2輪のタイヤの上に人が座り、倒れずに動く事など本当に可能な事なのだろうかと、想像する事も出来ずにとても疑問に思ったが、出来上がった実物がどの様にして動き出すのかと考えを巡らせると自身の好奇心が抑えられずに興奮冷めやらぬまま前のめりでローズに返事した。


「あぁ…勿論だ!!コレに人が乗って動き出したら凄い事だぞ!!だが、これを制作するつもりなら俺だけではダメだ!!次に来る時に鍛冶屋も連れて来るから細いパーツの相談などもその時でいいか!?このチェーンとか言う複雑そうな物や細かい部品などは鍛冶屋も含めて話し合いが必要だからな!!」


「はい大丈夫です!!宜しくお願いします!!」


 こうして初めは不機嫌そうにしていたベェータが、興奮しながらも、新しく作る乗り物に心を躍らせ楽しそうに帰って行くのを、全く話についていけなかったライカー達は、ただただ呆然としながらベェータ達を見送るのだった……


 ルイは机に置かれた完成した乗り物の絵を見て、あんな物を作り、乗ろうとしているローズは、一体何をする気なんだと眉間に皺を寄せるのだった……



***


「ローズ!!何か面白そうな乗り物を作るらしいじゃないか!!そんな物を作って一体何をする気なんだ!?」


 ローズが自室で勉強をしているとギルバートがひょっこりと顔を出した。

 エリオットから車大工を唸らせる程の物を作り出そうとしてると聞きつけて、居ても立っても居られなかったのだ。


 普段からローズと一緒に物作りをしているギルバートは、今度は一体何を思い付いたのかとても気になるようだった……


「クスクス…情報が早いですね!!でも秘密ですよ!!出来上がってからのお楽しみです!!」


 ローズは、またも唇に人差し指を当てて内緒のポーズをとると、少し苦笑いしたギルバートが

「そう言うと思ったよ!!エリオット達も楽しみにしているみたいだぞ!!出来上がったら必ず私にも見せてくれよ!!」


「はい!!勿論です!!」


 ローズの頭を撫でながら子供のように瞳を輝かせてワクワクしてるギルバートをローズも嬉しそうに見上げて返事をした。



 晩餐の時間になり、ローズを呼びに来たジュリアスもエリオットから話を聞いたみたいで、此方は少し訝しげな顔をして


「ローズ様….聞きましたよ!!何かとんでもない物を作ろうとしているそうですが、危ない物ではないでしょうね!!」


「多分……大丈夫だと……思います……」


 ジュリアスに近距離で詰め寄られたローズは、ベェータに詰め寄られた時は全く動じなかった筈なのに

 普段から一緒に居る家族のジュリアスに至近距離で詰め寄られただけで、言葉を詰まらせタジタジになるのだった……


 そして、車大工との打ち合わせが想像以上に好感触だった為、ローズの気持ちは今や自転車製作まっしぐらになっており、早く製作に取り掛かりたくて仕方がないローズは、何をしてても気も漫ろになってしまい、マナーの先生にこっ酷く叱られる日々を送る羽目になるのだった。

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