ローズvs抱っこ
「「「「「「「「ローズ!!!
お誕生日おめでとう!!」」」」」」」」
今日で7歳を迎えたローズは、庭にある薔薇のアーチを抜けた先、周りを薔薇に囲まれた円形状の広場で皆にお祝いをされていた。
この日の為に用意された会場は、この時期になると、アーチを抜けた先が庭師によって綺麗に整えられた薔薇に囲まれたローズもお気に入りのスペースで、そこに大きなテーブルと人数分の椅子、料理人達が腕に縒りをかけた豪華な食事とバースデーケーキが綺麗に並べてあった。
今年から誕生日は、高価なプレゼントは禁止令をローズによって発令された為、お金をかけないプレゼントを用意する事になったクロード達だが、お金をかけないプレゼントなどした事が無い人達ばかりで、何を買えばいいのか分からずに皆が頭を抱えだし、引っ切り無しにコレは高いかとローズに直接尋ねに来ると言う、逆に面倒くさく事になっていた……
とりあえずクロードには諸外国にまつわる面白そうな本を数冊、アルベルトには食用ではない動物、エリオットには、歩き易い靴、ギルバートにはバトミントン擬きのラケットとシャトル制作を頼んだ。
本当はテニスのラケットとボールを制作したかったがこの世界にはゴムの様に弾力性のある素材がまだ無く、ボールの制作が難しそうだったので羽子板に近いバトミントンの制作をお願いした。
今日、どんなものが出来上がってくるのかとローズはとても楽しみにしているのだった。
ルイには去年と同じように髪飾りをお願いしたが、何故かジュリアスだけは聞きに来なかったのでローズはなんだか嫌な予感がしていた……
「皆様ありがとうございます!!とても嬉しいです!!今日で、私も7歳になりました。
………なので……私………今日、ここで宣言します!!!
抱っこで移動は……今日でお終いにします!!」
「「「「「はっ??」」」」」
ローズは、今日で抱っこで移動は卒業してみせる!!
抱き抱えられて歩き回るなんて、あんな恥ずかしい真似はもうしないんだと鼻息荒く宣言した。
ローズは到頭言ってやったと、したり顔だったが…クロード達はローズの言葉の意味がいまいち飲み込めず未だに放心状態だった……
「えっ!?ちょっと待って下さい……ローズ様…一体…突然どうしたんですか??」
一番先に我に帰ったジュリアスが、困惑気味にローズに尋ねる。
ローズを抱き上げ自分の腕の中に収めて移動するのが日々の楽しみだったジュリアスはとてもじゃないがローズの宣言を受け入れられなかったのだ……
だがそんな困惑気味のジュリアスに対して断固として譲らないと言う強い気持ちを持ったローズは、少し上から目線で腰に手を当てながら
「だって、私はもう7歳ですよ!!赤ちゃんでも無いのに……いくら女の子でも7歳になってまで抱っこされてる子は居ないと思うんです!!
キャロライン様も言ってたじゃないですか!」
「チッ…あの王女……余計な事を……」
ジュリアスは先日、王城でローズに意見したキャロラインの事を思い出し苦虫を噛み潰したような顔で軽く舌打ちしている。
自分の楽しみを奪おうとする人間は誰であろうとも許されないのだ!!
特にローズの事に関しては………
(ジュリアスお父様……顔が怖いですよ……しかも….心の声がダダ漏れしていますよ……王女様に向かってチッとか言ったらダメなんですよ!!)
いつも礼儀正しい優しいジュリアスが誰かを睨み付けるように明後日の方を向きながら顔を顰めているのを見たローズは、ローズが居ない所で偶に顔を出している これが悪ジュリアスなんだと、苦笑いを洩らしていると、エリオットもローズに近づきローズのほっぺをツンツンと突きながら
「ローズちゃん寂しいわ……ローズちゃんを抱き上げて歩くの好きだったのに……」
とくねり出した…
「でも……もう、恥ずかしいんです……」
ほっぺをツンツンされながら少し俯き恥ずかしそうにするローズを見たエリオットは…
「あぁ〜ん!!その…いつまでも恥ずかしがるところが好きなんじゃない!!堪らないわ!!」
と、より一層 体をくねらせ始めローズに擦り寄って来る。
エリオットは抱き上げた時に少し恥ずかしそうに頬を染めて俯くローズの顔が堪らなく好きだったのだ……
寧ろその顔が見たいがために、日々 ローズを追いかけ回し、隙あらばローズを捕まえて抱き上げ、ローズの表情を見ながら1人悶えていた完全な変態女装ヤローだった……
( くそ〜!!!この変態め!!一人だけ違う趣旨で抱っこしてたとは……恥ずかしがる少女を見て悶えるなんて……流石 お母様………伊達に趣味で女装してないな!!)
ローズは改めてエリオットの変態ぶりを肌で感じていると、アルベルトが後ろからそっと頭を撫で出し
「そっか……ローズもお姉さんになったんだな!!寂しいけど俺は賛成だぞ!!そのかわり次からはエスコートさせて貰えるかな!?」
と、爽やかに微笑んだ!!
アルベルトはローズを始めて抱き上げた時の感覚を思い出し、少し切ない気持ちになったが、こうやって元気に成長し少しずつ大人になってきている事も嬉しく思い、ローズの未来を考えて自分の切なく淋しい気持ちには蓋をして大人な対応をしてみせた。
(流石アルベルト父様!!物分かりが良くてスマート!!!ジュリアスお父様とお母様も見習って欲しい……)
「うん!!俺も賛成だ!!少し寂しいけど、エスコートするのも楽しそうだし、でも…最後に抱き上げてもいいか!?」
ギルバートもアルベルトと同じ気持ちで成長したローズを温かく見守っていこうと思ったが、もう一度ローズの温もりを感じたくてローズに最後の抱擁を願い出た。
「はい!!いいですよ!!!ギル兄様!!」
ローズが笑顔でそう言った瞬間、ギルバートはローズを抱き上げて最後の抱擁を胸に刻むように、ぎゅーと抱きしめた。
ローズもクスクス笑いながらギルバートの首に手を回し、ギュッと抱きしめ返すと
「やっぱり無理だ!!離したくない!!」
と、突然駄々を捏ねだし…ローズを下ろすのを拒否するのだった……
「いい加減にして下さい。ギルバート様…そろそろ正気に戻って頂けますか!?」
何故か、ジュリアスに嗜められて、ギルバートが渋々ローズを下ろした所で、横からジュリアスに奪われると、ジュリアスもローズを抱きしめて耳にキスしながら「もう離さない」と意味の分からない事をローズにだけ聞こえるように耳元で囁くのだった……
ローズは顔を真っ赤にしながら心の中で
(おいっ!!ジュリアス……やーめーろー!!)
と、ツッコミながらジュリアスに早く離れろと強く念じつつ腕を突っぱねたが、ジュリアスはびくともせずにローズの耳の側で頬ずりし続けるのだった……
その、変態達のやり取りの間中ずっとクロードは、一人落ち込んで下を向いて座っていたが…
その事にやっと気が付いたエリオットが
「ねぇ……ローズちゃん……クロードが落ち込んじゃってるわよ!!」
と、ローズを頬を突つきながらクロードを指さすのでローズがクロードの方に顔を向けると、捨てられた子犬のような寂しそうな瞳で見つめるクロードと目があった……
クロードは初めてローズに出会った時から今までローズを守る事に必死で常に自分の腕の中に閉じ込めて幼いローズを守っていたいと思っていたし、側に居ないと不安だった……
ローズは不遇な境遇の中に居た事もあったが、そんな過去も乗り越えて日々逞しく成長していたのだと分かり、嬉しくも寂しくもあり自分の気持ちが整理出来なかった……
「クロードお父様……ごめんなさい…!!でも、私ももう…お姉さんだから……これからは手を繋いだりして一緒に歩くのはダメですか!?」
そう言いながらゆっくりとクロードに近づき、そっとクロードの膝の上の手に自分の手を重ね置いた。
そのままローズの必殺技、秘技上目遣いを使い、可愛らしくお願いすると……
その瞬間クロードは、目をカッと見開いて立ち上がり、ローズを抱き上げると頬擦りしながら
「ローズ可愛すぎる!!寂しいけど手を繋いで歩くのも楽しそうだ!!」
と言いながら鼻息荒く興奮しまくり、ローズの周りに居るのは、娘の誕生日を祝う父親達の姿ではなく、幼い少女に群がる完全な変態達の集まりと化していた……
………
クロード達がやっと少し落ち着いた頃、皆からプレゼントを貰ったのだが、
クロードからは獣人国では有名な本である、獣人国を作るきっかけとなった、獣人達を迫害する人々から守り、助け出し国を興した獣人達の物語りと、この国に隣接する大国に纏わる神話などを含め数冊の本をプレゼントされた。
獣人国の話はルイも勿論知っていたので、ローズが読んだ後にでも2人で感想を話し合いたいとローズは思っていた。
アルベルトからはハスキーに近い犬のプレゼントを貰い、その犬が登場して来た時に何故かルイが微妙な顔をしていた……
(大丈夫だよ……ルイ!!全然違うから!!)
微妙な獣人心を全く理解出来ないローズは、頓珍漢な励ましを心で呟き優しい気持ちでルイを見つめていると、そんなローズに気が付いたルイに何故か舌打ちされるのだった(解せぬ……)
エリオットからは乗馬や少し短めのワンピースにも合いそうなブーツと茶色ベースでピンクの花の刺繍がしてあるフラットなシューズなど数足をプレゼントされ、これで目一杯走り回れると喜んだ!!
ルイからはルイの毛並みのように少しモフモフした毛の付いた髪留めと、同じようなイヤリングを貰い
「これを付けたらルイとお揃いだね!!」
とルイが照れると分かった上での確信犯で言いながら、案の定真っ赤になったルイを見て遊んで楽しんでいた。
舌打ちのお返しである!!
ギルバートからは、ローズの要望通りの物がプレゼントされた。
ラケット自体は木製だが重さを感じ無いようにギリギリまで薄くしてあるので、強度を保たせる為に魔法でコーティングして補強してあり、とても軽くて持ちやすかった。
シャトルも丸い部分は木製で羽の部分には何かの鳥の羽が取り付けられていたがこの羽自体に魔力があるようで打つと浮遊感を保って前に進むようになっていた。
これを使って食後にルイと遊んだのだが、それを見ていた大人達もやりたがり、これに目を付けたエリオットが商品化するのだが、それが貴賎問わずに大ヒットして大儲けするのは、もう少し先の話しだった。
ジュリアスからは、やはり薄紫のナイトドレスで、今年はお金を掛けては行けないと禁止令を発令した事により、ナイトドレス1枚と言うなんとも言い難いプレゼントを頂いた……
(ジュリアス……お主……本気なのか………)
と ローズが、毎年贈られるかもしれない恐怖に震えるプレゼントだったが、ジュリアス本人はとても満足そうだった。
ノアも今年はちゃっかり参加しており、ローズに薔薇の花束を渡し、彼等の中で一番スマートで格好良くプレゼントを手渡していた。
薔薇の花束を受け取るローズが頬を染めて喜ぶのをジュリアスが鬼の様な顔で眺めており、それをノアがニヤつきながら愉しんでいるカオスな状況が出来上がっていた…….
(いい加減……大人なんだから仲良くしろよ……)
そうしてバースディパーティーも楽しく(?)終わり、
一応、これで抱っこも卒業かと、ホッと小さく息を吐きながら、一安心したローズだったが、帰り際にクロードに抱き上げられて自室に戻る事になる事には、ローズはまだ気付いていなかった……