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ジュリアス・ファルスターの過去

番外編、初っ端から暗めです……


ただこの話はどうしても入れたかったので番外編として投稿します。

本文中に少し残酷な表現がありますので苦手な方は飛ばして頂いても構いません。


宜しくお願い致します。


「ねぇ、お父さん……僕達は、いつまで此処に居るの!?」


「そうだなぁ…お母さんがこの前、ここの公爵様と結婚をしたから、きっとこれからはずっと此処に住む事になると思うよ!!ジュリアスはこの屋敷は嫌かい!?」


「うんん!嫌じゃ無いよ……!みんな優しいし、公爵様はいい人だし…!!でも……此処へ来てから、お母様が少し冷たくなった気がするんだ……」


「そっか……ごめんな……でも、お母さんは今、お腹に赤ちゃんがいるから、赤ちゃんを守ろうとして、無意識に少しピリピリしているのかも知れないね!!だけど大丈夫だよ!ジュリアスには私が居るだろ!!子供が産まれれば、お母さんも落ち着くと思うから、それまでの我慢だ!!ジュリアスもお兄ちゃんになるんだから情けない事ばかり言ってられないぞ!!」


「僕が…お兄ちゃん??」


「そうだ!!弟か妹ができるんだ!!優しくしてやるんだぞ!!」


「はい!!!」



…………



 ジュリアスの母親と父親の出会いは、男爵だった母親が自分の屋敷で働いていた父親に一目惚れした事をきっかけで、付き合い始め、そのまま1年経たずに結婚をした。

 父親は平民だった為に、そのまま母親の方の男爵家で生活をしていたが、母親は他に男性もおらず、父親と仲睦まじく生活していた。

 だが、ジュリアスが産まれて数年ほど経つと昔のような仲の良さは見らなくなったいき、会話も徐々に減り……ある日、母親が一人で行った夜会で知り合った、当時のファルスター公爵家(クロードの父親)と関係を持ち、妊娠したのをきっかけにファルスター公爵と結婚する事になった。

 結婚を機にジュリアスは父親と共に公爵家へ引っ越して来る事になったのだが、当初 父親は、2人の新婚の邪魔をしたくないので、自分達は他所で暮らすとファルスター公爵に伝えていた…

 だが、ファルスター公爵は「自分の屋敷は広いし、部屋も余っている、貴方達も、もう家族なんだから遠慮はいらない」と断固として譲らず、共に暮らす事となった。

 ファルスター公爵はとてもいい方で、ジュリアスの事も自分の息子のように可愛がってくれ、お兄ちゃんになったら宜しく頼むと嬉しそうに、日々 ジュリアスに話し掛けている。

 母親は相変わらず父親とジュリアスに冷たいが、それでも幸せな日々が続いていた……



***



「お母様!!!赤ちゃん産まれたんでしょ!?僕にも……」


「何してるの!!!汚らしい格好で入って来ないで!!ちょっと、あの子を外へ出してちょうだい!産まれたばかりのこの子に変な病気が移ったら大変よ!!」

 

 ジュリアスはファルスター公爵から「子供が産まれたから見に行っておいで」との知らせを受けて、ドキドキしながらも勢いよく母親の部屋の扉を開いた!!

 だが、自分にも見せて欲しいと言う前に、母親から蔑むような視線と辛辣な言葉を投げつけられた。


「ジュリアス様……申し訳ございません……ご自分のお部屋へお戻り下さい……」


「えっ……どう……して………」


 産後の母親の世話をしていた使用人に退出を促されたジュリアスは、母親にぶつけられたきつい言葉と顔が脳裏に焼き付き忘れられなかった……

 今までも冷たく感じる言動や態度はあったものの、ここまでの拒絶は初めてだったからだ……

 子供が産まれるまでの我慢だと思っていたジュリアスは、今起こった出来事が全く理解出来なかった……


 そのまま、訳も分からず父親の元へ向かう頃には涙が溢れ出し…何度、腕で拭っても止まる事はなかった……


「ック……お父…さん……ヒック……お母さんが………」


「ごめん………ごめんな………私が……平民だったばかりに……ジュリアス………この屋敷を出て父さんと2人で暮らそうか……!?辛い思いをさせて……本当にごめんな……」

 

 父親はジュリアスが何も言わずとも全て分かっているようで、泣きじゃくるジュリアスを優しく抱きしめると背中を撫でながら何度も謝っていた……


「……っ……どう……して……お母さんは……僕たちの事…もう………嫌いなの……??う……っん………うわーーーん……!!」


 その日から、父親とファルスター公爵が話し合い、クロードが産まれて一ヶ月が経つ頃には公爵家を出て父との二人暮らしが始まった。

 ファルスター公爵はせっかく家族になったのにと最後まで渋っていたが、母親は出産以来、公爵が居ない所ではジュリアス達と目を合わせようともしなかったのだ……




***




 公爵家を出てからの父親との二人暮らしは、今までの暮らしのように贅沢な暮らしではなかったが、公爵家にいた頃とは違い穏やかな生活が続き、もうそろそろ1年が過ぎようとしていた。


 ジュリアスはいつものように父親と一緒に眠っていたが、ドンドンと乱暴に扉を叩く音で驚き、目を覚ました。


「おっ……お父……」


「しっ……静かに……ジュリアス……よく聞くんだ!!今から、そこのクローゼットの中に入って隠れていなさい!!何が起きても出て来ては行けないよ!!!」


「えっ??何で??お父さんは!?」


 普段とは違う父親の真剣な目つきに、ジュリアスは動揺を隠せなかった……

 こんな夜中に何故クローゼットなどに入らなければいけないのか、何故出て行ってはいけないのか、全く理解できなかった……


「説明している時間は無いんだ!!いいかい……万が一……私に何かあったら公爵様を尋ねなさい!!あの方はとても良い方だし……まだ、書類上お前の父親でもある!分かったかい!?ごめんな……頼りない父親で……でも…お前の事を本当に愛している……ずっと……何処にいたってお前の事を思っているよ……さぁ…お願いだ!!隠れて……もう時間がない!!」


 そう言いながら、未だに混乱中のジュリアスを無理矢理クローゼットの中へ押し込むと、一度、強く抱きしめた。


 力強く抱き締めてくれた父の腕が少し震えている様な気がしたジュリアスは、顔を上げて父親を確認したが…今は夜中な上、部屋の中が暗い為、父親の表情までは分からなかった……

 そしてジュリアスがクローゼットに入るのを確認すると父親は、しつこく叩く扉を開いた…


「さっさと開けなさいよ!!本当にグズなんだから!!」


(お母様……??)


 ジュリアスはクローゼットの中で息を殺し、膝を抱えて蹲っている。

 母親が来ているだけなのに何故自分は隠れなくてはいけなくて、母親はこんな夜中に何をしに来たのだろうと、より一層、混乱を極めたが、父親の言いつけ通り大人しくしている事しか出来なかった。


「どうしたんだ!?こんな夜遅くに……」


「何だっていいでしょ!!それよりあの子は!?」


「今日は仲良くなった子の家に泊まりに行っている……」


「そう……一緒に居れば丁度良かったけど、まぁいいわ!!ごめんなさい……貴方の存在がどうしても邪魔なのよ………」


 クローゼットの中で息を殺して聞いていたジュリアスは、母親の発した信じられないような言葉に固まってしまっていた。


「何故だ!!離婚したいなら離婚にも応じるし、ジュリアスと2人で、お前達の前には2度と姿を見せない。そう何度も言っているだろ!!約束する!!公爵家にも関わらないでひっそりと生活するよ!!私は…ジュリアスが居ればそれでいいんだ!だから……」


「違うのよ…!!貴方は全く分かっていない……!!私は、ファルスター様に一途な女性でいたいのよ……離婚なんて軽い女のする事みたいじゃない?だから……前の夫を亡くした可哀想な妻になりたいの…!協力してくれるわよね!!」


 クローゼットの中にいたジュリアスには、外の様子は見えなかったが、母親の理不尽な言葉の後に誰かが刀を抜いた様な金属音が耳に響いた……


 その瞬間…「なっ……やめ………」と、父親の止める様な小さな声と、ズシャッと言う音と共に何が倒れる音が聞こえてきた……

 ジュリアスは、ドクドクと早鐘を打つ胸を片手で押さえ…もう片方の手で口を押さえ漏れ出そうになる声を必死で堪えた……


「行くわよ!!」と言う、母親の声と数人が家を出て行く足音が聞こえた瞬間、ジュリアスは堪らずクローゼットを飛び出した!!


 飛び出した瞬間、ジュリアスの目の前には刀で切り捨てられた血塗れの父親の姿がそこにあった……


「父さん……父さん……!!待って今……魔法で……」


「無理……だ…よ……お前…は……まだ……魔力が……安定して……いない……使い方……も……分からない……だろ……ジュリアス…………ごめ……んな…………………

 なぁ………俺の……話を覚え……て……いる……か……」


 父親は最後の力を振り絞るようにジュリアスの腕を強く掴んだ…


「嫌だ……嫌だよ………!!あんな女……っ……母親なんかじゃない!!……ック………あんなの………人間じゃない!!!そんな……おっ……女が……居るところに……い……行くなんて……」


 今にも消え入りそうな父親の姿に、ジュリアスは堪えきれずに涙が溢れ出してきた……

 しっかり傷口を確認しなくてはいけないのに視界がボヤけてよく分からない。


「ジュリアス……聞け……公爵様の……側……が……一番……安全…なん……だ……引き出し…に……手紙が……入って……い……る……それを…持って………」


 ジュリアスの腕を掴んでいた父の腕が、ずるりと落ちた……


「ヤダ………父さん……やだよ……お願い……使えろ!!魔法……なっ……治れ……治れよ!!!」


 ジュリアスは必死に父親の傷口に手を当てて、傷口が塞がるように魔力を込めようとするも、イマイチ上手く発動しない……

 幼い頃から本能的に魔法を扱う獣人と違い、人はきちんと魔法を学んでからではないと、魔力の込め方などが分からず上手く扱えないのだ…

 同じ魔法でも獣人と人間では魔法の扱いが全く違っていた……


「ジュリアス……愛して……いるよ……俺の……」


「嫌だ……お願い………誰か………やだぁーーーーーー」


 そこからの記憶は曖昧だが、次の日……父親の手紙を持って血塗れのままジュリアスは公爵家を訪ねた。

 公爵家は騒然とし、その場に駆けつけたファルスター公爵様は大変 心配してくれて、暫くの間は常にジュリアスと行動を共にし、献身的に尽くしてくれた。

 だが、ジュリアスは母親のした事を彼に伝える事はしなかった。

 伝えた所で自分の子供の母親である愛した妻の罪など大した罪にも問われずに揉み消されるだけだと、幼いジュリアスは勝手な理解をしていた。

 ジュリアスは、いつか絶対力をつけて、自分自身で復讐してやると心に刻み固く誓っていた。


 結局、父親の死因は家に押し入った物取りの犯行として処理され、母親は何食わぬ顔で幸せそうに生活していた。

 その楽しそうな母親の顔を見るたびに、ジュリアスは言い知れぬ怒りと吐き気を催す様になっていた。


 父親を亡くした当初は、あの母親から産まれた幼い弟に冷たく当たってしまう自分にも嫌気が差し、クロードともなるべく接触しないように気を付けていたが、幼いクロードが純粋にジュリアスを慕う姿に徐々にジュリアスの気持ちも逸れ、父の死から5年が経った頃には、自分の弟として優しく接してあげられる様になっていた。



***




 「兄様、何をしておられるのですか!?」


 ジュリアスが自室で一人読書をしていると、勝手に部屋に入ってきたクロードが嬉しそうにジュリアスに問いかけてきた。


「あぁ…クロードか……今は、領地の勉強の為に、領地関係の本を読んでいる所だ!クロードも何か見たい絵本があるなら持っておいで!」


「いいんですか!?」


「あぁ…好きな本を持っておいで!」


「やったー!!」


 キラキラした瞳を輝かせて喜ぶクロードは、急いで部屋へ戻るとお気に入りの絵本を持ってやってきた。

 クロードは当然のようにジュリアスの膝の上に座るとジュリアスに絵本を読み聞かせてもらっている。

 楽しそうに2人で読書を楽しんでいると、突然…部屋の扉が開いた……


「クロード何をしているの!!探したのよ!!また、こんな所に居て……汚れてしまうじゃない!!貴方は高貴な身分なのよ!平民の部屋に入って気安く触れさせてはダメよ!!ジュリアス…お前も、弁えなさい!!」


 そう言ってクロードを引っ張り下ろすと、手を振り上げジュリアスの頬を思い切り叩いた。

 だがジュリアスはうめき声一つ洩らす事は無く、何も写さないような空虚な瞳で前だけを見つめていた。

 ジュリアスにとって、こんな事は日常茶飯事で、その度にクロードが泣きながら母親に引きずられる様に連れられて行く。

 ジュリアスは、その度にクロードに自分の側には近寄らない方がいいと、何度 忠告しても、クロードはジュリアスの側を離れる事はなかった……


 そんなクロードに対して、ジュリアスは口では関わるなと言いつつも、幼いクロードの存在が、広い公爵家の中で、唯一 ジュリアスが心を許せる人間であり、家族でもあった。


 クロードが成長して10歳を過ぎる頃には、母親に黙って殴られているジュリアスを身を呈して庇い、母親を嗜める姿を見せる事も増えてきていた……

 

 自分の息子に対して酷い扱いをする母親を間近で見て育ったクロードは女性と言う生き物に次第に不信感を抱くようになり、成長するにつれて、その見た目の良さと公爵家の息子と言う高い地位から言い寄って来る女性も増えていき、自分に見せる媚びる様な姿と、他の人間に対する高圧的な姿を見るたびに、母親の姿が思い出され徐々に女性を避ける様になっていった……


 そこから数十年の月日が経ち、ジュリアスと母親は相変わらず険悪だったが、クロードもジュリアスも大人になり名実ともに力をつけた為、母親が表立って攻撃してくる事も無くなっていた。


…………


 そんな日々がこの先も永遠に続くかの様に思っていたある日の夜……


 パラパラと小雨が降り出した夕刻の頃……


 母親が知り合いのお茶会から帰る道すがら、馬車が公爵家へ向かう道とは違う場所を走っている事に気が付いた母親は慌てて御者に声を掛けた。


「ちょっと、あなた!!いつもと道が違いませんこと!?」


 母親が御者に声を掛けるも返事は無くそのまま進み、公爵家にほど近い森の中で馬車はゆっくりと停車した……


 返事もしない御者に苛立つ母親は、御者が扉を開く前に少し乱暴に自分で扉を開き馬車から降り御者を怒鳴りつけようとした……


 だが、母親が降り立つ前に目の前に現れたのは、少し強くなった雨に濡れながらも…真っ直ぐと、母親を見つめるジュリアスの姿だった……


「あ…あなた…何故……」


 久しぶりに真っ直ぐと向き合った母親は、ジュリアスの強い瞳に動揺を隠せずに言葉が上手く出てこない……

 だがジュリアスは、なんの感情も見せる事なく淡々と母親に話し出した。


「御者の方には大変申し訳ない事をした………

 お母様………一つ質問しても宜しいでしょうか!?

 貴方は何故…殺したくなるほど憎い父親と結婚し、蔑むだけの息子を産んだのですか?」

 

 ジュリアスのその問いかけに母親は一瞬にして固まり目を大きく見開いた……

 母親は尚も動揺を隠せずに目をキョロキョロと左右に彷徨わすが、その動揺を隠すように自分の腕を片手でギュッと握りしめると、ジュリアスに向かって辛辣な言葉を投げ掛けた。


「なっ……だって……それは………そっ…そんな事、男の貴方達には関係ないのよ!!この国では私達女性が大切で男なんて掃いて捨てるほどいるのよ!!ちょっと顔の良かった平民を使い捨てにして何が悪いって言うのよ!!」


 ジュリアスは自分の納得いく答えをもらえたかのように、一度深く頷くと、最後に母親に向かって微笑んだ……


「いえ……別に……それで結構です。ただ、貴方には一つだけ感謝している事もあるのです……クロードを産んで頂いた事、その事だけは感謝しております。では……」


 何十年ぶりかに、見た息子のキレイな笑顔に母親はそのまま凍りついたかのように動けず、瞬き一つ出来ないままジュリアスだけを見つめていた……


 その瞬間…音も無く腰に下げていた剣を抜いたジュリアスは…そのまま母を切り捨てた……


 母親はその一瞬の出来事に、瞬きも声を発する間もなく切り捨てられ、人形のようにその場に崩れ落ちた……


 その姿を何の感情も映すこと無く、自分の母親が血に塗れ、事切れる瞬間まで見届けると、少し強くなって来た雨に構うこと無く自身の魔法を使い馬車ごと母親に火を放った。

 自身の風魔法を巧みに操り、降り頻る雨に負けない火を作り上げると、そのまま燃え盛る馬車と母親をじっと見つめていた……

 そのまま、全てが燃えるのを確認したジュリアスは静かにその場を後にした……



………




 ずぶ濡れのまま自室に戻ったジュリアスは、何故かジュリアスの部屋のソファに腰掛けて強く降り頻る雨を眺めているクロードを見つけた。


「主人が居ない部屋に勝手に入るなんて……」

 

 ずぶ濡れのまま淡々とクロードを嗜めるジュリアスにクロードは黙って振り返ると


「大丈夫か……」


 と、静かに言葉を発した……


「……何がだ……?こんな雨くらい……」


「ならいいんだ!!後は任せておけ……何も心配要らない……」


 ジュリアスの言葉に被せるように言葉を発したクロードは、しっかりとした視線をジュリアスに向けると、視線は外さずに一歩一歩ゆっくりと近づき、そっと肩に手を置いた……

 肩に置かれたクロードの手の感触にジュリアスは少しビクつき瞳を彷徨わせてしまいながら


「何……を……言っ……て……」


 と辛うじて、言葉を発した……が……


 普段何事にも動じない冷静なジュリアスの動揺する姿にクロードは「フッ…」と、軽く息を洩らすと

 

「じゃあ……早く着替えろよ……そのままだと風邪を引くぞ!!」


 そう言ってクロードは、ジュリアスの肩に置いていた片手で一度、ジュリアスの肩を軽く押すと、そのまま反対の手に持っていたタオルをジュリアスの頭に乱暴に乗せ部屋を後にした……



……………



……………



……………



「……っ……ぐっ………うっ………うっ………」


 先程までは、何の感情も無く、ただ淡々と事を起こしていたジュリアスは、何故か分からないが、涙が溢れて出してきた……

 父親を亡くして以降、母親からどんなに辛く、厳しく当たられても涙一つ見せる事はなかったはずなのに、どうしても止める事が出来なかった……


 濡れた服もそのままに、降り頻る雨が当たる窓を見つめながら声を殺し涙を流すジュリアスは、暫くそこから動けなかった……


 そこからの記憶は曖昧だが、その後、着替えも碌にせずにいた為にジュリアスは熱を出し、気が付いた時には、既に1週間ほど経過しており、母親の事は全て処理されていてた。

 クロードの説明によると物取りの犯行による放火殺人として父親と同じように処理されたらしい……


 後に知ったのだが調査をしたのは当時、領地の仕事を任されるようになってきたクロードで、親しくしている騎士団のアルベルトと協力して調査、処理を行なったそうだ。

 妻を亡くして肩を落としていたファルスター公爵が病で亡くなるのはそれから数年後の事だった……

 それからジュリアスは公爵家とクロードに忠誠を誓い献身的に尽くすのだが、それが罪悪感からか純粋な好意からなのかは、ジュリアス自身にも分からなかった……

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