44 王都 5
肩を落とす貴族達を引き連れてキャロライン達はお茶会の場へと戻ってきた。
結局、ルイに抱き抱えられる形となったローズも少し落ち込み気味だ…
そのローズの様子に直ぐに何かあったと察したクロード達はローズの側に居るノアに視線で合図すると、ノアは直ぐにルイの耳元で「王女の側でローズ様と待機」と告げると直ぐさまクロード達の元へ移動した。
「あら?皆様とても楽しそうにお茶会を楽しんでいらしたのね!?ふふ…!そうそう…!!先程、ローズと庭を散策していたら、此方の方達に偶然、お会い致しまして、皆様とご一緒したいそうですので連れて参りましたわ!!あっ!そうそう!!公爵家の方々に何やらお話しがあるそうですわよ!!ふふ…」
「……えっ……いや……違っ……」
お通夜でもしているかのように、静まり返っているお茶会の場に、キャロラインの楽しそうな高い声が響き、クロード達は一瞬顔を顰めるが、側に寄ってきたノアに何やら耳打ちをされたギルバートが眉を寄せ、表情を変えるとローズ達と一緒に来た貴族達の方を向き声を掛ける。
「そうなのですね!!私達に話が……さぁーどうぞ此方へ!!何やらローズが大変お世話になったようで……ノア此方までお連れしろ!!」
「はっ!!」
ノアは軽く頭を下げ短く返信をすると直ぐに貴族達の所へ行き「ギルバート閣下がお待ちです。こちらへ」と、恭しく頭を下げて彼等を促した。
「えっ……えっ……いや……あの…」
もはや意味のある言葉を発する事が出来ない彼等は、クロード達にも既に耳打ちが終わっているノアによってギルバートの側まで連れてこられてしまう。
クロード達の顔が怒りによって普段とは全く違う顔になっていたが、これから起こるであろう悲劇を想像するとローズはもう其方の方を見られなかった……
…………
その後、ローズに聞こえないように、クロード達が何やら貴族達に向かって呟いたあと、彼等の顔色が変わり、男性達は地面に膝を着き クロード達に縋り付いて「申し訳ございません!どうか……」と、懇願している。
その後ろで女性達は小刻みに震えながら顔面蒼白で涙を流す女性までいた。
ローズは意図的にキャロラインの方へ連れて行かれた為、クロード達の喋っている事は分からなかったが、横にいるキャロラインが楽しそうにクスクス笑っていたので貴族はやっぱり怖い人達だと再確認するのであった……
「ローズ。見てご覧なさい!人に意地の悪い事をすれば必ず自分に返ってくるのよ!!可哀想に……彼等はもう終わりね!!公爵家の怒りを買って残れるほど貴族の世界のは甘くないわ!!ローズもよく覚えておくのよ!貴方の言動一つで人の人生が簡単に変わってしまうって事を……」
「…はい……でも、なんだか怖いです……」
いい歳の大人達が跪き縋り付くのを目の当たりにしたローズは、この世界の怖さを改めて感じた気がした。
前世の日本で呑気に平和に暮らしてきたローズには多少の格差はあるにしても、簡単に人を傅かせる身分差など理解し難く、彼等に対しての申し訳なさと、簡単に人を従えさられる力を得る事になる自分に対する恐怖を感じていた。
「あら?大丈夫よ私が居るじゃない!!そう言う事に一々動じない強い女性に鍛えてあげるわ!!」
そう言いながらローズに向かって軽くウィンクするキャロラインにローズは有難いような迷惑なようなよく分からない頼もしさを感じ苦笑いするしか出来なかった。
するとクロード達の話も終わったようで、キャロラインに連れてこられた貴族達がスゴスゴと肩を落としながら退出して行く……
そして一連のやり取りを黙って見届けていたクレイブ王が咳払いを一つ吐くとキャロラインに話しかけ出した。
「お前は、また……面倒な事を持ち込みおって!リアムの様に少しは空気を読んで大人しくしていろ!!」
「フン!!あれが空気を読んで大人しくしてると本気で思ってるなら、さっさと私に王位を譲った方がいいんじゃない!?全く…男って何も見えて無いんだから!!」
キャロラインのきつい言葉にクレイブ王は片手で額を押さえるとキャロラインに言葉を続ける。
「はぁ……全く…どうしてこんな風になったのか…………!王子だったら完璧だったのに………!!あぁ……それより…どういう風の吹き回しだ!?ローズの事を毛嫌いしてそうだったのに!?」
「あぁ…!!少しは見込みがありそうだから、私が鍛えて上げようと思って!!私の娘になるかもしれないでしょ!!」
キャロラインの明け透けな言葉にクレイブ王は一度目を見開くと次の瞬間大きな声で笑い出した。
「あはっはっはっはー!!ローズよ!!大変な奴に目を付けられたな!!キャロラインは厳しいぞ!!」
「あははは…」
(薄々感じておりますとも…でも嫌いじゃないんです……!!キャロライン様のノリ!!!元体育会系なんで!!)
ローズが愛想笑いを浮かべている所にそっとジュリアスがやってきてローズを促しだした。
「ローズ様!羽虫の駆除も終わりましたので此方へ……」
(今……人様の事を羽虫って……言いましたよね……ジュリアス…相当怒ってらっしゃますね……でも、いくらなんでもその言い方はダメなよう気がするよ……)
そんな事をローズが思いながらジュリアスに連れて行かれそうになっていると
「あら!!ダメよ!!この後は私の隣の席に座らせるわ!!あなた達の所に居たって甘やかされてお終いじゃない!!そんなのローズの為にならないわ!!」
ジュリアスに連れられてルイと一緒にクロード達の方へ向かおうとしていたローズをキャロラインが引き留める。
「ですが、まだローズ様はお小さいですし…」
「フッ!!小さいってもう6歳じゃない!!その頃には私はもう教養やマナーのレッスンは始まっていたわよ!!あん達どうせ何も教えてないんでしょ!!食事の仕方から貴族の付き合い方まで私が直々に指導してあげるわよ!!」
「間に合ってますので、結構です!!」
「あら??遠慮しないでいいのよ!!」
ジュリアスがどうにかして連れて行こうとするもキャロラインの正論によって阻まれる。
そんな2人の攻防を見るに見かねたクレイブ王が仲裁に入り出した。
「まぁまぁ2人とも!!ローズや……そしたら叔父さんの所へおいで!!」
「「「「ダメ(だ)(よ)(です)」」」」
皆の声が揃った……
「なんじゃ面白くないな!!私もローズと仲良くしたいのに……」
「ローズ!!父上には気を付けなさい!!女なら誰でもいい変態なんだから!!」
「へっ??」
いくら父親とは言えこの国の国王に対してとんでもない発言をしたキャロラインにローズは目を丸くする!!
「人聞きの悪い事を言うでない!!ローズ……キャロラインの言う事を信じるなよ!!全く……どいつもこいつも……」
クレイブ王は一人不満そうにぶつぶつ言っていたが誰にも相手にされる事はなかった……
こうしてローズの国王との顔合わせは無事に(?)終了していくのだった……