43 王都 4
「ローズ嬢どうですか!?王宮の薔薇は他では見られない美しさがあると思うのですが……?
あぁ…….でも…ローズ嬢はまだ幼いから物の良さなど分かるわけないですよね!?でも大丈夫です!!私がそのうち手取り足取りきちんと教えて差し上げますから…ね!!」
( キッ……モ…!!なんだろう……さっきから、ちょこちょこカチンとさせるし、なんか気持ち悪い表現してくるんだよな……顔はカッコいいのに……残念でしかない…リアム王子じゃなくて、今日から私の中では残念王子って呼んでやる!!)
ローズに王宮の庭を丁寧に案内してくれているリアムは先程から、親切なんだか馬鹿にしているのか判断しずらい言い回しをする上に、幼女に対して微妙な……妙齢の女性に言えばセクハラと捉えられそうな表現を出してくる。
とても優しそうないい人ではあるのだが言い知れない気持ち悪さを感じさせる青年だった…
ルイとノアの反応が気になるローズはそっと2人の様子を窺い見たが、ルイは普段通りの完全なポーカーフェイスで感情の起伏など全く読み取れないし、逆にノアはニコニコと楽しそうで、此方はこちらで、ある意味怖かった……
すると先程から、ずっと無言でリアムの隣に居たキャロラインがローズの方へ向き直ると、少し馬鹿にしたような表情で口を開いた。
「あなた、さっきからずっと抱き抱えられてるけど、1人で歩けないわけ?もう6歳なんでしょ!?赤ん坊でも無いのに!!どう言う事なの?」
ローズは今までの女性達みたいに嫌味な事でも言われるのかと思い構えていたが、キャロラインの尤もな指摘に勘違いしていた自分が恥ずかしくて一気に顔が赤くなった。
「…っ……!! すみません……歩けます……!!ルイ、下ろして!!」
(ごもっともでございます。私も常々思っておりましたが何故か自然とこの形に……恥ずかしい……人から指摘されると倍恥ずかしい……意地悪王女なのかと思ったら…完全にマトモな感性の持ち主だった…むしろ此方の方がヤバい奴らだと思われている……恥ずかしすぎる!!)
ローズは恥ずかしさのあまりに少し俯いてしまったが、渋々ながらも下ろしたルイにお礼を言ってキャロラインの側へ立った。
「あなた従者にお礼なんて言うの??従者は主に仕えるのが仕事なんだから別にお礼なんて言わなくていいのよ!!」
またもや貴族として的確な指示を受けるが、ここはローズにも譲れない意見があった!!
「はい……それはそうなんですが……私は従者でも使用人でも、人から何かをして貰ったらキチンとお礼は言いたいと思っています。彼等が居るから私達が不自由無く生活できるので!!日々の感謝も込めて、その都度最低限の敬意は払ういるつもりでいるんです!」
ローズの真剣な強い眼差しにキャロラインは目を見張ったが、直ぐに素の表情に戻ってしまうと
「フン!!クロード様達におんぶに抱っこの甘ったれかと思ったら、意外にキチンと考えてるじゃないの!!いいわ……貴方なら一先ず合格よ!!私、まだクロード様を諦めて無いから!いつか貴方の母親になるかもしれないんだから!!仲良くしてあげてもいいわよ!!これから宜しくねローズ!!」
「宜しくお願いします!!!!!」
(おおーーマトモ!!この世界で初のマトモな人種だ弟の方とは全然違う!!嬉しい!!仲良くしたい!!さっきは姉になったら嫌だとか思って申し訳なかった…逆だよ!逆だった……!!)
この世界で初めてまともそうな、しかも女性との出会いにローズのテンションは上がりまくりで、その勢いのまま頭を下げた。
そして嬉しそうにキャロラインの顔を見上げると、少しツンとすましながらも片手を差し出してローズの片手を取ると、リアムの存在は無かったかのように2人で歩き出した。
…………
「ローズは普段どんな事をして過ごしているの?何してる時が楽しのかしら??」
「天気の良い日は外で体を動かしています。体を動かすのは大好きです!!キャロライン王女様はどんな事をしている時が楽しいですか?」
「ふふ…そのうち娘になるかもしれないんだからキャロラインで大丈夫よ!!そうね……将来、女王になる為の帝王学などを学ぶのに忙しいけれど、私も体を動かすのは好きよ!!女性には珍しいけど剣術なども習っているわ!」
「そうなんですね!!剣術…私もしてみたいです!!」
「ふふ…いいんじゃない!?クロード様達に止められるだろうけど!!どうしてもやりたかったら私に声をかけなさい!!」
「ありがとうございます!!」
ローズとキャロラインはとても楽しそうに庭を散策している。
後ろのリアムは心なしか寂しそうだが、ルイとノアはなんだか満足そうだった。
ローズはこの世界での初めての女性との交流にワクワクが止まらなかった!!
「ローズいいこと!!この世界の女達は自己中心的でイカれた女が多いのよ……!!
甘やかされてチヤホヤされ過ぎてダメな女が出来上がるの!ローズは私の娘になるかもしれないんだから私がしっかり躾けてあげるわ!!」
帝王学など将来女王になる為の勉強や躾などをを厳しく教え込まれてきたキャロラインは厳しく躾けられたのが功を奏して他の女性とは違い、まともな感性の持ち主になった。
自分と同じような匂いのするキャロラインに親近感が湧くローズは嬉しそうに
「クスクス…宜しくお願いします!!キャロライン様!!」
「ふふ!!いい子ね……!あと、そこに居るリアムはダメよ!!結婚相手としては不合格!!悪い男ではないんだけど……ちょっと……ね……!!ローズにはもっと相応しいしっかりした男を探してあげるから変な男にはついて行ってはダメよ!!分かった!?」
「……はい……」
(あれ??私の恋愛がまた遠のいた気がするのは気のせいだよね……)
何故かローズの保護者が1人増えた気がするローズは、彼氏を作る夢からまた一歩遠のいた気がして嫌な予感が頭を遮った……
少し後ろから付いてきているリアムはキャロラインには頭が上がらないようで少し俯いたまま無言で2人に着いてきている……
するとその時、偶然を装ったかのように数人の男女の貴族が此方の方へ近づいてきた…
「これは、これは、キャロライン殿下とリアム殿下ではございませんか?偶然ですね!!私達も今の時期は王城の薔薇がとても綺麗なので薔薇を見るために散歩をしていたのですよ!!」
「あら??それは可笑しいわね?今日はこの場所で国王がお茶会をしているから無闇に近寄らないようにと城の人間には伝えているはずだけど……!!
あぁ……城には滅多に来られない田舎者だったって事かしら?それでは、仕方ないわね!!折角いらした王城観光を楽しんでちょうだい!!」
(凄っ!!キャロライン様、強い!!向こうの貴族達もタジタジじゃん!!流石です!お姉様!!)
キャロラインの毅然とした立ち振る舞いに尊敬の念を込めてローズはキャロラインの方を見上げた。
それに気が付いたキャロラインはローズに向けてニッコリと微笑み返す。
するとそれを見ていた1人の貴族女性がそのやり取りに気を悪くしたようで
「あんた何なの!キャロライン殿下に馴れ馴れしい!!キャロライン殿下はとても高貴なお方なのよ!!幼いからって軽々しく触れていいわけ無いでしょ!!その汚い手を離しなさいよ!!」
女性に肩を強く押され後ろに倒れそになったローズをしっかりとキャッチしたルイはそのままローズを抱き上げるとそれを庇うようにノアが前に立った。
「申し訳ございませんが、こちらのお方は、この度、ファディル公爵家とファルスター公爵家の養女になりました、ローゼマリー・ファディル・ファルスター様でございます。本日、それを祝ってのお茶会を行っておりますが、貴方様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?後ほど両公爵家よりご挨拶に伺いますので!!」
今迄のふざけた態度とは全く違うノアの毅然とした態度にローズは驚いて口が開いてしまっている!
それはルイも同じだったようで、ノアの対応に安心したのかホッと息を吐くと優しくローズを抱き直した。
「もっ……申し訳……ございません…」
先程、ローズに文句を言った女性の横に居た男性が慌てて謝罪するが、横の女性は驚きのあまり固まってしまっていた。
「あら??気にしないでいいのよ!!そうだ!!貴方達もお茶会へいらっしゃいな!!皆様にご挨拶した方が宜しいでしょ!?」
「えっ……いえ…….あの……」
「早く来なさい!!」
彼等はキャロラインの放った言葉に物凄く狼狽えていたがその有無を言わせない一言に肩を落としながら着いてくる。
これから行われるであろう恐怖裁判にローズまでもが恐怖を感じてしまうのであった……